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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)
不穏な動き
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タギツヒメはビクのことを認めたのか、その後は行儀作法を始め、かいがいしく世話を焼くようになった。
三月になって、クマノクスビは飛騨に出向いた。新しく日高三国の第十九代族長になったミカヘタインにお祝いを述べるためだ。スサノオの後は、久々に聡明さで選ばれたのがミカヘタインだった。
ワニ一族が何年か後に、コオルウミから渡ってきて淡海国で暮らすことを報告しておかなければならない。前族長のスサノオには許可をもらっているが義父である。身内びいきと取られてはスサノオに申し訳が立たない。
ミカヘタインは聡明なため、ワニ一族は農業や漁業の技術に優れていることや、淡海国にとって生産力が増し、日高三国へ多くの税が納められると強調した。三百人の兵士を一瞬にして滅ぼしたという面をできるだけ払拭したかったからである。
ミカヘタインはタカシレウクの娘婿である。タカシレウクからワニ一族は危険な民族だと吹き込まれているに違いない。しかし、面と向かってスサノオの娘婿であるクマノクスビに反対することはできない。今は互いに駆け引きをして様子を見ていくしかない。
四月、クマノクスビはスサノオの許可をもらい、ビキを側室として迎え入れた。
スサノオは族長から退くと、淡海国の北東にある坂田に居を構えた。ちょうどミカヘタインの館とクマノクスビの館を結ぶ道の間にある。簡単に日高三国が手を出せないように盾となったのである。スサノオは、今回の族長は知恵のある者がよいだろうと問題を出した。ところがその結果、皮肉なことにタカシレウクの娘婿のミカヘタインが選ばれた。この時、スサノオは将来クマノクスビに掛かる災難を予見し、なんとか防ぎたいと考えたのだった。
ワニ暦の十月になった。アキトモはクマノクスビに、今回の儀式でワニ一族の秘儀をすべて伝えたいので一緒に来てほしいと言ってきた。
アキトモは四十八歳、残された機会は今回が最後かもしれない。クマノクスビはワニ一族の存続という重大な責任を負うことになった。
ワニ暦の十月二十二日、光の帯が六角の石柱に降りて来る日になった。亥の刻になり、アキトモとクマノクスビは小舟で六角の石柱のある小島に渡った。
三月になって、クマノクスビは飛騨に出向いた。新しく日高三国の第十九代族長になったミカヘタインにお祝いを述べるためだ。スサノオの後は、久々に聡明さで選ばれたのがミカヘタインだった。
ワニ一族が何年か後に、コオルウミから渡ってきて淡海国で暮らすことを報告しておかなければならない。前族長のスサノオには許可をもらっているが義父である。身内びいきと取られてはスサノオに申し訳が立たない。
ミカヘタインは聡明なため、ワニ一族は農業や漁業の技術に優れていることや、淡海国にとって生産力が増し、日高三国へ多くの税が納められると強調した。三百人の兵士を一瞬にして滅ぼしたという面をできるだけ払拭したかったからである。
ミカヘタインはタカシレウクの娘婿である。タカシレウクからワニ一族は危険な民族だと吹き込まれているに違いない。しかし、面と向かってスサノオの娘婿であるクマノクスビに反対することはできない。今は互いに駆け引きをして様子を見ていくしかない。
四月、クマノクスビはスサノオの許可をもらい、ビキを側室として迎え入れた。
スサノオは族長から退くと、淡海国の北東にある坂田に居を構えた。ちょうどミカヘタインの館とクマノクスビの館を結ぶ道の間にある。簡単に日高三国が手を出せないように盾となったのである。スサノオは、今回の族長は知恵のある者がよいだろうと問題を出した。ところがその結果、皮肉なことにタカシレウクの娘婿のミカヘタインが選ばれた。この時、スサノオは将来クマノクスビに掛かる災難を予見し、なんとか防ぎたいと考えたのだった。
ワニ暦の十月になった。アキトモはクマノクスビに、今回の儀式でワニ一族の秘儀をすべて伝えたいので一緒に来てほしいと言ってきた。
アキトモは四十八歳、残された機会は今回が最後かもしれない。クマノクスビはワニ一族の存続という重大な責任を負うことになった。
ワニ暦の十月二十二日、光の帯が六角の石柱に降りて来る日になった。亥の刻になり、アキトモとクマノクスビは小舟で六角の石柱のある小島に渡った。
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