Rest feather

司馬楽 みちなり

文字の大きさ
32 / 57
第2章 Birthday

第28話 気に食わない

しおりを挟む
 電話口で酷く狼狽した声を上げる雫。
 話も要領を得ない。

「落ち着いて?雫、今は安全なのか?」

『どうしよう!どうしよう!アキさんが!シンさんも早く!』

 ダメだ、相当に混乱している。
 何とか落ち着かそうと色々と考えていたら、雫から小嶋さんに電話が変わった。

『雫は龍二達に連絡してくれ。あ、山口さん、すみません。っく…今あの男が現れて、ナイフで刺されました。』

 いきなりとんでもない事を話し出す小嶋さん。痛みからか、苦しそうな声だ。

「小嶋さん、刺されたって、大丈夫なんですか!雫は?雫も怪我をしてるんですか!?」

『雫も殴られましたけど、軽傷です。』

「そうですか…いや小嶋さん!救急車は?警察には連絡したんですか!?」

 雫の事を聞いて、少しホッとしたが、小嶋さんは大怪我だ。

『救急に連絡したら、そのまま警察にも連絡を取ってくれるそうで、間もなく来ると思います。』

「そうですか…兎に角、救急車か警察が来る迄は警戒して下さい!俺もそっちに向かいます。」

『山口さん!こっちには来ちゃダメだ!あの男、多分今度はあなたを狙ってるみたいなんだ。』

 マジかよ!
 でもまぁそうなるよな。ウチの場所とか…知ってるんだろうなぁ~。
 絶対に調べてる筈だよ。

 となると、どうするか。一緒に居るマヤも危ないな。

『ぐっち』から家まで20分程だが、今は丁度中間くらいだ。

 雫の家から俺の家までは30分はかかる。

「わかりました。取り敢えずこっちも警察に連絡します。一度電話を切りますね。気を付けてください。」

『そっちも気を付けてください。あの男、言ってる事もめちゃくちゃで、まともじゃなかった。』

 警察を呼ぶ為に一度電話を切った。
 だが、すぐに通報はしない。

 気に食わない。

 俺にも許せない人間はいる。
 愛情を踏み躙る奴、男も女も。それと、女を力で従わせようとする男。

 俺を狙ってる?はっ!上等だよ!一発ぶん殴ってやらないと、気がすまん。

 俺は別に喧嘩が強いって訳じゃないし、ナイフが怖くない訳でもないが、この前から散々雫にあんな顔をさせやがって、俺だって腹が立ってるんだよ。

 刺されたら刺された時だ。死にたいなんて思ってないが、生きる目的もないんだ。

 やれるもんならやってみろ。

「あー、マヤ。ここまで来てもらって悪いんだけどさ、『ぐっち』に戻ってくれるか?」

「何かあったの?って言うか、あったんだよね?警察とか聞こえたし。」

「また今度話す!悪いな!」

 ちょっと!とマヤが呼び止めようとしてるが、俺は奴を迎え撃つ為に自分の家まで走った。


 煙草止めようかな…
 走ったは良いが、すぐに息が上がる。

「ぜぇ~、ぜぇ~。くそっ!来るなら来てみろ。」

 なんとか家の前まで辿り着いたが、格好がつかないな。誰にも見られてなくて良かった。

 息を整えて待つこと暫し、暗がりの向こうから、走って来る男が見えた。

 アイツだな。なんだあの顔は。
 青い顔をして、目は血走り落ち窪んでいる。
 鼻と口から血を出した後があるが、それを無造作に拭き取ったのだろう、鼻から下が赤い。
 こいつも走って来たんだろう。息が上がってるぞ。バカが。

「おい!お、おまぇあぁぁ!ぶっ、ぶっころすぞぁー!」

「何言ってるかわかんねーよ。何がしたいんだお前。」

 汚ねぇな…なんでここ迄堕ちたんだ?わけわかんねーよ。
 何があったか知らねぇが、こいつは害にしかならない。ぶっ飛ばす!

 フラフラになりながらも此方に走って来て、俺にナイフを振り降ろす。

 流石にそれは当たらないだろ。舐めてんのか。

 難なく躱して奴の左頬を思い切り殴りつけた。
 いてぇ!拳が、指が折れたか?

 俺の拳を受けたクズは、ぶはぁ!と言いながら地面に倒れた。

「よし、今警察を読んでやるからな。もう大人しくしてろ。」

 倒れたまま動かなくなっている男を見下ろして、携帯を取り出した。
 くそっ、ちょっとスッキリはしたが、右手がいてぇ。

 慣れない左手で携帯を操作していると、不意に声がかかった。

「シン?」

 ああ?戻れって言っただろうが、マヤ。

 倒れていた男が、その声を聞いて急に起き上がる。さっきまでフラフラだったのに、どこにそんな体力が残ってたんだ?クスリのせいか?

 マヤに向かって走り出した。
 俺も慌ててそれを追いかける。

「マヤ!逃げろ!」

「ええ?何これ?」

 男に何とか追いついて、肩を掴む事に成功したが、今度は俺に向き直ってナイフを振り上げた。

「この!邪魔するなぁ!」

 もうこいつ、自分の目的も忘れてるんじゃないか?口端から泡を飛ばしながら叫んでいる。

 あ、これは不味いな。切られる。
 覚悟を決めた瞬間、この場にそぐわない声が聞こえた。

「はいはい。そこまで。」

 マヤがナイフを持っている男の腕を掴み、捻りあげた。

 ………は?

 何それ?どういう事?

 男は腕をきめられ痛そうな顔をしていたが、激しく暴れだし、なんとかマヤの腕から離れた。

「なんなんだよ!お前らぁ!なんで思い通りにならないんだよ!いい加減にしろ!」

「いい加減にするのはあんたでしょ?」

 おいおい、お前落ち着き過ぎだろ、マヤ。

 勝ち目が薄いと感じたのか、此方に背を向けて走り出した。

「逃げたな。追いかけるか…」

 追いかける為に走り出そうとしたその時、走って行く男の前に一台のバイクが止まった。

「あれ?大将?」

 バイクから降りたのは、紛れもなく大将だった。
 自分の逃げ道を塞がれた男は、怒り狂ってナイフを振り上げた。

「バカが、ナイフってのは突くもんなんだよ!」

 足刀でナイフを持つ手を蹴り上げた。
 男の腕が跳ね上がり、ナイフも飛んで行く。
 驚愕の表情をしている男の前で脚を素早く戻し、軸足を中心に回転しながら男の顎に裏拳を叩き込む。
 男は糸の切れたあやつり人形のように、膝から崩れ落ちた。

「な、大将つえぇー!」

「龍二さんやるなぁ。」

「いや、お前もおかしくない?俺かっこわりぃ~…」

「ふへへ、シンも格好良かったよ?今度ヤラせて?」

「お前…ダメだ、突っ込む余裕が無い。」

 そんな緊張感の無い会話をしていると、男の襟首を掴んで引き摺りながら大将がこちらに来た。

「シンちゃん、大丈夫だったかい?雫ちゃんに聞いて急いで来たけど、間に合って良かったよ。」

「あ、いや…なんか頭が追いついてない。」

「ははは、取り敢えず師匠も雫ちゃんも大丈夫だ。マヤちゃん、後は任せてもいいかい?」

「おっけー!龍二さん、今度一杯奢ってね?」

「シンちゃん、手が腫れてるな。すぐに病院に行こう。」

「あ、ああ。」

 呆然としている俺を置いていって、二人で会話を終わらせ、俺に話しかけてくる。

 言われてから思い出したかのように、手が痛み出した。

 俺の意気込みは、空回りした感が否めないな。
 まぁいい。取り敢えずこれで一段落かな?

 遠くから聞こえていたパトカーのサイレンが近付いて来たようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...