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第2章 Birthday
第29話 許せない奴
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時間が経つと共に、右手の薬指と小指が腫れていく。
俺をバイクに乗せて病院に行こうと走り出す大将だが、その走りは俺が右手を使えない事を考慮した、優しい運転だった。
「素人が人を殴ったら、変な所を痛めるんだよ。殴る時はこうやって、拳の人差し指と中指の出っ張った所を使うんだ。それを意識してたら手首も痛めにくいしな!」
信号で止まっている時に大将は、自分の拳を見せながら説明をしてくれた。
確かに、手首も痛い。
本当に渾身の力で殴りつけたからな。
いや、今はそんな事どうでもいいんだが、色々と疑問が多すぎて、質問するのも面倒になっていた。
程なくして病院に到着した。
救急指定病院で、割と大きな総合病院だ。
夜間診療で初診だから、これきっと診療費高いんだろうなぁ…
診察室で診てもらい、レントゲンを撮った結果、やはり骨にヒビが入っている事が分かった。
指に添え木をして、包帯でぐるぐる巻きにされ、『痛み止め出しときますねー』で終わり。
診察室を出て、受付前の待ち合いスペースに、川口家と雫がいた。
「シンさぁん!大丈夫?良かったぁ…」
俺を見てすぐに駆け寄って来て、抱き締めてきた。
雫も少し頬が腫れてる。
「話は、大将に聞いたのかな?この怪我も、あれからやられたわけじゃないから。」
「本当に…ごめんなさい…私のせいで、シンさんも、アキさんも…お姉ちゃんまで…」
緊張感が緩んだのか、雫は顔を覆って泣き出した。
俺は雫を抱き寄せ、優しく髪を撫でる。
「雫のせいじゃないよ。なんて言っても慰めにならないか。多分みんな雫にそんな風には思って欲しくないんだ。雫のせいじゃなくて、雫の為に動いたんだからさ。そんな人がいるんだって雫にはわかって欲しいかな。」
雫は泣きながら何度も頷いている。
「シンちゃん、明夫さんもここに運ばれてるの。それで今、簡単な手術中なんだけど…」
「手術中?大丈夫なのか?そんな大怪我なの!?」
「いえいえ、簡単なって言ったでしょ?なんでも破傷風予防と縫合だからそんなに時間はかからないって。」
「ああ、そうか。良かった。」
「それでね、後でシンちゃんと話したいって言ってた。」
話か。なんだろう。
それよりも多分警察の事情聴取とかあるだろうから、今日の所はこれで解散だな。
雫はどうするんだろう。今日は一人で居させるのは心配だが…
「今夜は家に連れて帰るわ。心配しないで?」
俺の胸の中で泣いている雫を眺めていると、スミレさんがそう言ってくれた。
それならば一安心だ。
今回の件、色々と分かるのはまだ先だろう。
何はともあれ、原因である男の身柄が確保された事で、一応の解決と言えなくもない。
「シンさん…私暫くシンさんに会えそうもありません。ごめんなさい…」
まったく…また謝る。こんな状況でそういう気分にはならないだろ。
「気にするな!雫、自分を守ってくれた小嶋さんにちゃんと着いてるんだぞ?」
その後、病院に来た警察から一通りの質問を受け、また聞く事とあるかもしれないと連絡先を渡し、帰路に着いた。
家のマンションの前にはまだ警察と思わしい人が何やらやっているが、かなり疲れていた俺はそれらを素通りして自分の部屋に戻った。
部屋にある雫の荷物を眺め、冷蔵庫の中にある雫が作り置きしていた惣菜とビールを出しソファに座り、うまく箸が握れなかったが、何とか腹に詰め込んだ。
ああ…疲れた。
一緒に暮らした時間はたった二日だったが、雫がいない部屋はいつもより広く感じた。
「俺ってこんなに寂しがり屋だったっけ?」
急に寂しさに囚われてしまい思わず自嘲した。
ソファに身体を埋め暫し目を閉じていると、携帯が鳴った。
メールの着信音だ。
『お疲れ様。シンに逢いたい。愛してます。』
離婚の件があってから、誕生日以外にも度々こいつから連絡が来るようになった。
俺も借りがあるので、たまに返事を返している。
そうか、今日はこいつの誕生日だったな。
『誕生日おめでとう。逢ってもいいぞ。』
メールを送って一分と経たず電話が鳴った。
「もしもし?」
『シン!本当に!?』
かなりの勢いで食いついて来た。
「落ち着けよ。取り敢えず誕生日おめでとう。」
『ああ!ああ!ありがとう!最高の誕生日だわ!』
「そんな気分の所悪いけどな、逢ってもいいってのは、またお前を利用しようとしてるんだよ。」
『して!利用して!嬉しい!』
俺にも許せない奴ってのはいる。
女を力で従わせようとする男。
それと、愛情を踏み躙る奴だ。
つまり、俺のような男だな。
俺をバイクに乗せて病院に行こうと走り出す大将だが、その走りは俺が右手を使えない事を考慮した、優しい運転だった。
「素人が人を殴ったら、変な所を痛めるんだよ。殴る時はこうやって、拳の人差し指と中指の出っ張った所を使うんだ。それを意識してたら手首も痛めにくいしな!」
信号で止まっている時に大将は、自分の拳を見せながら説明をしてくれた。
確かに、手首も痛い。
本当に渾身の力で殴りつけたからな。
いや、今はそんな事どうでもいいんだが、色々と疑問が多すぎて、質問するのも面倒になっていた。
程なくして病院に到着した。
救急指定病院で、割と大きな総合病院だ。
夜間診療で初診だから、これきっと診療費高いんだろうなぁ…
診察室で診てもらい、レントゲンを撮った結果、やはり骨にヒビが入っている事が分かった。
指に添え木をして、包帯でぐるぐる巻きにされ、『痛み止め出しときますねー』で終わり。
診察室を出て、受付前の待ち合いスペースに、川口家と雫がいた。
「シンさぁん!大丈夫?良かったぁ…」
俺を見てすぐに駆け寄って来て、抱き締めてきた。
雫も少し頬が腫れてる。
「話は、大将に聞いたのかな?この怪我も、あれからやられたわけじゃないから。」
「本当に…ごめんなさい…私のせいで、シンさんも、アキさんも…お姉ちゃんまで…」
緊張感が緩んだのか、雫は顔を覆って泣き出した。
俺は雫を抱き寄せ、優しく髪を撫でる。
「雫のせいじゃないよ。なんて言っても慰めにならないか。多分みんな雫にそんな風には思って欲しくないんだ。雫のせいじゃなくて、雫の為に動いたんだからさ。そんな人がいるんだって雫にはわかって欲しいかな。」
雫は泣きながら何度も頷いている。
「シンちゃん、明夫さんもここに運ばれてるの。それで今、簡単な手術中なんだけど…」
「手術中?大丈夫なのか?そんな大怪我なの!?」
「いえいえ、簡単なって言ったでしょ?なんでも破傷風予防と縫合だからそんなに時間はかからないって。」
「ああ、そうか。良かった。」
「それでね、後でシンちゃんと話したいって言ってた。」
話か。なんだろう。
それよりも多分警察の事情聴取とかあるだろうから、今日の所はこれで解散だな。
雫はどうするんだろう。今日は一人で居させるのは心配だが…
「今夜は家に連れて帰るわ。心配しないで?」
俺の胸の中で泣いている雫を眺めていると、スミレさんがそう言ってくれた。
それならば一安心だ。
今回の件、色々と分かるのはまだ先だろう。
何はともあれ、原因である男の身柄が確保された事で、一応の解決と言えなくもない。
「シンさん…私暫くシンさんに会えそうもありません。ごめんなさい…」
まったく…また謝る。こんな状況でそういう気分にはならないだろ。
「気にするな!雫、自分を守ってくれた小嶋さんにちゃんと着いてるんだぞ?」
その後、病院に来た警察から一通りの質問を受け、また聞く事とあるかもしれないと連絡先を渡し、帰路に着いた。
家のマンションの前にはまだ警察と思わしい人が何やらやっているが、かなり疲れていた俺はそれらを素通りして自分の部屋に戻った。
部屋にある雫の荷物を眺め、冷蔵庫の中にある雫が作り置きしていた惣菜とビールを出しソファに座り、うまく箸が握れなかったが、何とか腹に詰め込んだ。
ああ…疲れた。
一緒に暮らした時間はたった二日だったが、雫がいない部屋はいつもより広く感じた。
「俺ってこんなに寂しがり屋だったっけ?」
急に寂しさに囚われてしまい思わず自嘲した。
ソファに身体を埋め暫し目を閉じていると、携帯が鳴った。
メールの着信音だ。
『お疲れ様。シンに逢いたい。愛してます。』
離婚の件があってから、誕生日以外にも度々こいつから連絡が来るようになった。
俺も借りがあるので、たまに返事を返している。
そうか、今日はこいつの誕生日だったな。
『誕生日おめでとう。逢ってもいいぞ。』
メールを送って一分と経たず電話が鳴った。
「もしもし?」
『シン!本当に!?』
かなりの勢いで食いついて来た。
「落ち着けよ。取り敢えず誕生日おめでとう。」
『ああ!ああ!ありがとう!最高の誕生日だわ!』
「そんな気分の所悪いけどな、逢ってもいいってのは、またお前を利用しようとしてるんだよ。」
『して!利用して!嬉しい!』
俺にも許せない奴ってのはいる。
女を力で従わせようとする男。
それと、愛情を踏み躙る奴だ。
つまり、俺のような男だな。
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