異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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1章 意味も無く死にそして転生

1.5 異世界で最初の夜の話

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 隊長からはまだ情報が手に入るはず。もっといろいろ聞いてみるとするか。

「ところでここはどんな国なんだ?」

「世情に疎いという感じじゃないな。魔法によらない不思議な力といい、にいちゃんはいったい何者だ?」

「外界との接触が無い島国から来たんだ。訳あってこの地に来る事になってな」

 まあ・・・嘘は言ってないな。

「そうだったのか。変わった服装とマスクだからな。異邦人だとは思ったが。この国は貿易国家だからな。異邦人の格好は珍しくもないが」

 騎馬騎士隊や往来する人々が、俺を物珍しい目で見てこなかったのはその為か。

 確かに良く見ると、それなりに異文化の服や奇抜な民族衣装っぽい服、仮面を付けてる人がちらほら居るな。

「この国についても話してやるよ」

 隊長が言うには、この国はラハム王国といい、農業と工芸品、資源の輸出をしている貿易国家だそうだ。

 徴兵制は無いが王国軍が存在し、その一部が憲兵として警察の役も担っているとか。

 だが国としては腐敗の一途を辿っていて、王と貴族に権力が集中しすぎた結果、憲兵が動くのは権力者か金持ちが訴え出た時だけで、小さいいざこざや犯罪などは見過ごされているそうだ。

 先ほどの俺の暴行に誰も反応しなかったのは、それ位の事は日常茶飯事なので慣れてしまっているのと、憲兵も動かない事が分かっている以上、自分に関係なければ関心を向けないのが普通になっているからだとか。

 当代の王になってから、王と貴族に権力が集中し、国に大金を納める大商人などが台頭してから、この国は変わってしまったそうだ。

「最近は治安も悪くなってきている。さっきの割り込んできた奴みたいな、横暴な奴も増えてきたしな」

 隙あらば金を持ち逃げ用としている、お前も大概だがな。

「まあ隣国の内戦よりはマシだがな」

 ラハムの西に位置する巨大国家ヤブコ。

 元は一神教を信奉する宗教国家だったが、突如現れた救世主と言われる者を信奉する国民が増え始め、国内で宗教戦争が勃発。

 その激しさは勢いを増しており、事実上南北で国が真っ二つになり、旧宗教側が現在押されている状況だとか。

 ヤブコの旧宗教側はラハムにも参戦を打診しており、難民がラハムに訪れ始めた昨今の状況では、それを追って新宗教側がラハムにも押し寄せるのではないかと、危機感を強めているとの事だった。

 救世主か。宗教関連での言葉でよく使われるし、世界を救えという神の言葉に関係ありそうだな。

 だが今のところ1つの国の内乱程度みたいだし、これで世界が滅ぶとも思えないが。

 神が俺をわざわざ送りだしたのだから、もう少し大きい出来事だと思うがな。


 
 隊長の話を聞いている間に競が終わったようで、市場の係員が俺を呼びに来た。

 窓口に案内されると、革袋に入った金貨13枚を渡される。

 革袋は獣市で競りに出すと、毎回貰えるみたいだ。貨幣は硬貨しかないようだから、これは地味に助かる。

 創造した荷馬車をどうするか聞かれたが、馬もいない状況で荷馬車だけあっても困るので処分を依頼した。

 隊長に通貨価値について聞くと、金貨13枚は贅沢しても1年は暮らせる金額だとか。

 金貨1枚は銀貨100枚、銀貨1枚は銅貨100枚という換算で、庶民は銅貨での生活が一般的であり、手持ちとしては多すぎるので、銀行で両替して余分な分は預ける事をお勧めされた。

 最後に狩猟組合の場所を聞いて、俺の話を吹聴しないように口止めの意味も込めて、金貨5枚を渡して別れた。

 これで縁が完全に切れたわけでは無いのだろうが、もう会わずに済むのが1番だ。

 別れ際に討伐完了報告はこっちですると言っていたから、今狩猟組合に行くとまた会うってことだろうし、もう日も傾いている。

 街を出るにしても、金貨13枚で出る気にはなれないし、今日は宿でも見つけて明日行く事にしようか。

 往来する人に、旅の者にあった宿はないかと尋ねると、予算があるならと1つの宿を勧められた。

 指さされた方を見ると、十数階建ての石造りの建物がみえる。

 なかなか良さそうな見た目だ。

 宿屋の前に来ると、俺を見た案内係が中に案内してくれる。

 中はフローリングと木の壁で出来ていて、ろうそくの灯で照らされた温かみのある空間が広がっていた。これだけで結構ここを気に入った。

 案内係は立ち止まり見渡す俺を、さりげなく受付で手続きをするよう促す。

「異国の方ですね? ここはこの街1番の宿屋であります。ようこそ、"母のゆりかご"へ。お一人様での宿泊でしょうか?」

「あ・・・はい」

 俺にとっては嫌な名前の宿だな。

「今ご用意できるお部屋ですが、お一人様用ですと一番下の位であるこちらになりまして、食事処でのお食事が付いて、1泊銀貨3枚になります。ご予算があるようでしたら、時間と回数を問わないお部屋でのお食事と、様々なサービスが付いたこちらの上位のお部屋になります。こちらは1泊銀貨20枚になります」

 つまり普通の部屋とスイートみたいなものか。

 全然物価が分からないから、このスイートみたいな部屋も、相場として得なのかどうかが分からない。

 だけどレストランでマスクを外して食事をするより、部屋で食べる方がいいな。

 高い方が泊っている人間の質も高そうだし、そうすれば余計な人間に絡まれる機会も少なくなるだろう。

「じゃあ上位の部屋で10泊お願いします」

「10泊ですか!? 金貨2枚ですよ?」

「これでお願いします」

 受付の男は何度も金貨を確かめ、本物だと分かると鍵を渡してきた。

「失礼いたしました。こちらがお部屋の鍵になります。お部屋は最上階の13階になります」

 受付の男がそう言うと、受付に案内した時とは別の案内係が現れ、荷物がない事を確認され案内される。

 この世界の文明レベル的に階段で行くのかと思ったが、浮遊の魔法陣とやらが付与されている小部屋に乗せられた。

 目的の階のボタンを押すと、ゆっくりと上昇し始める。

 これが隊長の言っていた魔道具か。高級志向の宿屋みたいだし、金を払って作ったのだろうな。

 うん・・・これまんまエレベーターだな。

「凄いなこれは。荷馬車じゃなくてこういうのを使えばいいのにな」

「魔法陣は維持費が高く、決められた場所を行ったり来たりしかできませんので」

 思わず出た独り言に丁寧に返してくれた。正直少し恥ずかしかったが。

 部屋まで通されると、上位なだけあって広く設備の整った部屋だった。

 あれだけ払って、大した事が無かったらどうしてくれようと思っていたところだ。

 軽く設備の説明をし、案内係は帰って行った。

 先ほどの説明通り、部屋の壁に空いている郵便ポストの穴のような場所に、メニューから選んだ夕食を紙に書いて入れると、程無くして夕食が部屋に届けられた。

 原始的な仕組みだが、良く考えられている。

 この世界の文字も読めるし、書けるようになっている。多分神のおかげだが、ここは素直に感謝する所かもな。

 部屋に届けられた豪華なステーキとパンを頬張った時は、自然と涙が出た。

 こんなおいしい物を食べたのは初めてだ。

 食べ終わって食器を回収してもらった後、風呂に浸かりシャワーで体を洗い、備え付けの寝巻に着替えてベッドで横になる。

 このベッドはふかふかで寝心地もいい。

 テレビで見たり、人の会話を聞いて憧れていたものが、全てここにあった。

 明日は絶対に狩猟組合に行こう。街を出る為にも、この生活を維持する為にも、もっと金を稼がなければな。

 どうか目が覚めたら、夢落ちだったというのだけはやめてくれ。

 そう思いながら、俺は意識を手放した。
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