異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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2章 少女との出会いそして同行

2.7 勝負自体はどうでもいいからゆっくり向かった話

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 騎馬騎士隊が見えなくなるまで、オリービアはずっと睨み続けていた。

「あいつらが嫌いか?」

「もちろんです。ルシファー様を嘘で侮辱しましたから」

 なんで俺の事で怒っているんだ。お前には関係ないはずだが。

「私達も出発という事ですが、どうやって移動されていたのですか? 馬を持たれているようには見えないのですが」

「飛んだ」

「・・・飛んだ?」

 目が点になるとはこの事だな。

 論より証拠を後で見せるしかない。

「もう日が高い。あいつらの魂胆は見えているから、今回はわざと道中で夜を明かしてみたいと思う。いいか?」

「魂胆ですか・・・。分かりました」

 オリービアも野宿道具を持っていないので、買い揃えていく事にした。

 ゲネシキネシス<創造力>で揃えるのもいいかと思ったが、野営の道具が分からないのでつくる事が出来なかった。

 オリービアは目を輝かせながら市場を巡り、本で得た知識を生かして、食材と野営の道具を選んでは、申し訳なさそうに俺に渡してくる。

 俺の金から出すわけだが、気にしないで構わないと言っているのに、謙虚な態度を崩さなかった。

 今回限りではなく、俺について行けるチャンスがあればと考えているのか、打算的に気の使っているのかもしれないが、不思議と悪い気はしなかった。

「こんなものか」

「リュックは私が背負います」

「献身的なのはありがたいが、だからと言ってあまり期待はするなよ」

「はい。心得ています。ルシファー様がそんな事で、情をかけて下さるとは思っていません。ですが、出来る事はしたいのです」

 自覚はあるのか。無駄な努力だと分からないのか。

 街外れまで並んで歩くが、オリービアに荷物を持たせているのはいささか印象が悪いようで、怪訝けげんな目を向けられたが、マスク越しに睨むと視線を逸らされた。
 持ち物を収納できる能力とかがあれば良かったんだが、そんな便利な能力がなかったのが惜しまれる。

 無駄に刀はおまけしたくせに、そういう気がきかないのはなんだろう。

「出発するか」

「はい、ルシファー様」

 街道に沿って歩みを進める。

 昨日は飛んだからあっというまだったが、今回はあえての徒歩だ。

 俺の感が正しければ、遅く行く事で面白い事が起こりそうだからな。

 それに折角自由に出来るんだ。こういった旅のスタイルを取るのも悪くないだろう。

「ハァ・・・ハァ・・・」

「荷物を寄こせ」

 この世界には時計が無いので、どれほどの時間が過ぎたか分からないが、確実に1時間以上は経っている。

 もともと栄養不足で華奢なオリービアでは体力が持たないし、何も言わないが昨日の夜から何も食べていないのだろう。

「私は大丈夫です。この程度で・・・」

「倒れられる方が迷惑だ。こういった事で頑張られても、お前を連れて行こうとは思わない」

「・・・分かりました。お渡しします」

 相変わらずオリービアは、少しでも自分が役に立つ存在だと俺に見せようとしている。

 様子を見ていたが、予想以上に体力が無かったな。

 自分で何か食べたいと言えばいいのに、評価が下がると思っているのか、自分から要求したり弱音を吐く事はしないようにしている。

 俺も分かっていて、自分から提案しないのも大概だが。

 気にかけていたのは事実だが、それでもこいつを信用していないのは変わらない。
 だから俺から言うなんて事はしない・・・。

 地道に歩き続け、周囲は暗くなり始める。

 騎馬騎士隊の馬なら日が明るいうちに着いて、森の外で野営しているだろう。俺を待ちながらな。

 オリービアも息を切らしながら、良く着いてきたもんだ。

 ついて来れなくなったら、置いて行くつもりだったが。

「今日はここまでにしよう。街道を外れて、草原と森の境界で野営しよう」

「はい・・・」

 街道を外れて、木々が生い茂る森の始まりと草原の手前で、目立たないように野営道具を設営した。

 といっても、調理道具と食材を出して並べただけだが。

「お前は休んでいろ。この水筒で水分補給をしておけ」

「ありがとうございます」

 足手まといと言えばそうだ。

 全く・・・面倒な荷物を抱えてしまったな。

「薪は・・・あの木を切り倒せばいいか」

 手頃な木の前で、木を刀の居合いで切り倒す。

 木が豪快に倒れた時、その轟音でオリービアが小さい悲鳴を上げていた。

 刀で薪の形にするのは面倒なので、試してみたところサイコキネシス<念動力>を応用して、木の繊維に沿って割る事が出来た。

 目の前で木が浮いては裂けて、薪になったものが規則正しく地面に置かれているのを、オリービアは口を開けて凝視していた。

 薪を並べて火を付ける。

 今度はパイロキネシス<発火力>の番だ。手をかざして、薪に直接大きな炎を灯す。

 どうやらパイロキネシス<発火力>は、直接物体を燃やす力で、火炎を噴いたりは出来ないようだな。

「ルシファー様は不思議な力で、何でも出来るんですね」

「何でもではないがな。全能ではない」

「これは魔法ではないのですよね? 魔法陣が現れませんし」

「寧ろ俺は魔法が使えないからな。お前は使えないのか?」

「はい・・・。使えません」

 まあ予想はしていたがな。今のところ何の役にもたっていないな。

 この世界にある魔法というのは、俺も覚えられるのだろうか? 今の能力で困る事はないのだが。

 焚き火に当たり、オリービアは体育座りでおとなしくしている。

「ルシファー様」

「何だ?」

「私を仲間にしてくださりませんか?」

「昼間の体たらくを見せられて、頷くはずがないだろう」

「・・・はい。ではルシファー様の仲間になる為の、条件はあるのですか?」

「俺に仲間はいらない。必要がない」

 流石に黙ってしまったようだ。こいつなりの頑張りは認めるが、仲間にするかどうかは別の話だ。

「教えてください。万に一つ、仲間にするのならどんな条件を考えられますか?」

「答えないとずっと聞かれそうだな」

「どうせ駄目もとです。私は結構執念深いんですよ?」

「分かった・・・。そうだな・・・あえて言うのなら、俺にメリットがある存在。平たく言えば、俺に出来ない事が出来る奴だな」

「出来ない事ですか?」

「そうだ。でなければ、人と人が一緒にいる意味がない。どっちかにしかメリットが無い状態は、必ず人間関係に亀裂が入る」

 体育座りを止め、女の子座りになり俺に向き合うオリービア。

「そのようなお考えになるのに、ルシファー様に何があったのか、私に聞く資格はありませんし、聞く事もしません。メリットとかでは無く、あなたを慕うからこそ側にいたいと思う人は確実にいますよ」

「そうは思えないな」

 そんな目で俺を見るな。柔らかい笑顔に、やや赤らめた頬。

 それは俺も分かってはいる。だが人間の悪意に触れ続けると、人を信じるのが怖くなるんだ。人と一緒にいるのが怖くなるんだよ。

 間の抜けた腹の虫の音がする。

 お腹を抱えて、オリービアは縮こまってしまった。

「すいません・・・。はしたない事を・・・」

「・・・飯にするか」

 リュックからパンとチーズとベーコンを出し、塩と胡椒も取りだして、フライパンも準備する。

「ルシファー様、野菜も買いましたよね? これだけにするんですか?」

「俺は料理の経験がなくてな。お前が買わなければ、肉とパンと調味料だけでよかったんだが」

「私は料理できますので、ルシファー様に、ちゃんとしたお夕飯を作ろうと」

「は? え? お前料理出来るの?」

「はい。母から教わりました。食糧事情もあって、ある物で料理を作るのは得意なんです」

 その言葉を聞いて俺は固まってしまい、それを見たオリービアは不思議そうに首をかしげている。

「あ! ルシファー様! 私はルシファー様に料理をお出しできます! ルシファー様に出来ない事が出来ます!」

 気づきやがったか。

 確かに旅をしていくのなら、こういった状況も増えるだろう。

 それに・・・今ある食材で料理を作るなんて、より旅向きになってしまってるじゃないか。

「料理は上手くなければ意味はない! お前の腕前試させてもらおうか」

「はい! お任せ下さい!」

 その後はかなりテキパキと料理をしていくオリービアを、ただ見ているだけだった。

 まるで一般家庭の、子供が母親の料理を待っているような気持ちと思われるのを、始めて味わいながら。
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