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2章 少女との出会いそして同行
2.8 勝負相手が予想通りの状況だった話
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「お待たせしました」
あっという間に、野菜と肉のバランスがとれた、美味しそうなホワイトシチューが出来上がる。
やばい・・・良い匂いだ。絶対旨いやつ。戦略的飯テロ。
オリービアは加工された木の深皿に、シチューを注いでくれている。
パンも軽くあぶられて、表面に程良い焦げ目が付いた、見てるだけで涎が出てくるものに仕上がっている。
「あの・・・もしお顔が見られたくない事情がありましたら、私はしばし席を外します」
俺のマスクに何かしらの意図を感じたのか、オリービアは自分の分を用意せずに離れようとする。
「いくら俺でもここまでしてくれた人に、席を外させ自分だけ飯を食おうとは思わない」
俺はマスクを取り、初めて直接オリービアを見た。
「あ・・・格好いい・・・」
典型的な、気になっていた相手に本格的に恋に落ちた、ドラマの女みたいな顔をするなよ。
母のドラマ鑑賞に、だてに付き合わされ続けていたわけじゃないぞ。
それに俺の容姿はあの親に似ている。そこを褒められても、正直嬉しくはない。
「俺はこの国に無い力を持っているからな。素顔を隠して、問題を避けようとしているだけだ。それに素行も悪い方だしな」
「私はルシファー様の、お顔を見ていたいのですが」
「よく分からない事を言ってないで、冷めないうちに食べよう」
「はい!」
まずは木のスプーンを沈めて、シチューを一口だけを食べてみる。
あれ・・・これは。
「ルシファー様。涙が・・・」
俺は真顔で涙を流していた。
そうか・・・これは俺にとって初めての、女性が俺の為に作ってくれた料理なのだ。
本来は母から与えられる愛情の、その表現の1つ。
俺はこの状況に、母の愛のような物を感じているんだ。これはその涙なのか。
「おいしいよ」
「良かった・・・口に合わないのかと」
「そんな事はない。俺は1度も母に、料理を作ってもらった事がなくてな。いつもお湯を入れればか、温めれば食べられるものを食べていた。こんな気持ちになるんだな。暖かい涙は初めてだ」
「ルシファー様、私でしたらお望みの時に、いつでもお作りしますよ」
そう言った、自分と同じ年頃の少女の顔は、母性を表面化した慈愛の顔だった。
「そんな事を言って、仲間として付いて来ようとしているのか?」
「そんな! そんなつもりではありませんでした! それに仲間ではなく、妻でもいいのですが・・・」
慌てているが、打算的な事が無いのは分かっている。おそらく心からそう言ってくれたのだ。
最後の言葉は聞き流したが、もはや逆プロポーズに近い。
「分かっている。ただ今回の狩猟が終わったら、一旦パーティーを組むか考えてもいいかもな」
「やった! おかわりいりますか? パンも焼きますよ」
「自分も食べるといい。昨日の夜から、何も食べていないのだろ?」
「ルシファー様・・・ありがとうございます」
その後会話は無くなり、ただ夕飯を食べただけだが、なぜかずっと心地よかった。
野営用の布団を敷いて、元の世界になかった満点の星空を眺める。
オリービアは疲れていたのだろう、すぐ寝息を立て始めた。
一時の感情なのか、初めての経験に感動して情に流されているのか、俺には分からないが、少しはこいつを信じられそうな気がした。
朝が訪れて、軽い朝食を済ませてから、野営道具を片付ける。
食器を洗いたいが水が足りない。ゲネシキネシスで水を作ろうとしたが、何度イメージしても出来なかった。
何か水を生み出す力はないかと思い、頭の中の本を検索する。するとあるページで検索が終わり、その力がインストールされる。
ハイドロキネシス<水態力>
革袋の水筒の中に水が満ちるイメージをすると、袋は膨れて水が満たされる。
これで食器が洗えそうだ。
ハイドロキネシスで水を足しながら、食器と鍋を洗い食材が減り少し軽くなったリュックにしまう。
恐らく世界で最も贅沢な力の使い方だったと思う。
戦闘ではあまり役に立ちそうな感じはしないが、何回か使えば強化されて使い道が見つかるかもしれないな。
「行くぞ」
「はい」
相変わらず荷物を持とうとするオリービアを静止し、料理の礼だと俺が持っていく事にした。
オリービアも体力が回復したのか、今日は並んで歩いている。
時折、腕を組もうとしている感じがあるが。
歩き続け太陽が真上に差し掛かった時、目的の森に着いた。
騎馬騎士隊の馬もつながれていて、昨日野営をした焚き火の跡が残っている。
足跡が森の中に続いている。既にメガディパーグを探しに行ったようだ。
これはもう面白い事になっているかもな。
森に入る前に見える範囲で、一番高い木の枝に飛びんでリュックを引っかけておく。
戦闘では邪魔になるだけだからな。
「今から剣を抜いておけ」
「はい」
「メガディパーグの位置を探る。俺の後ろでじっとしててくれ」
「え? 分かりました・・・」
マスクを外してしゃがみこみ、嗅覚と聴覚に全神経を集中する。
オリービアは何をしているのか分からないのか、少し困惑しているようだが、集中するとオリービアの鼓動が緊張からか、速くなっているのが聞こえる。
さらに集中していると、聴力と嗅覚は同時に情報を捉えた。
「血の匂いがする。あと人間の悲鳴に交じって、獣の唸り声が聞こえる」
「凄い・・・」
「走るぞ」
オリービアのペースを確認しながら、悲鳴の聞こえる方角へ駆け、しばらくすると木がなぎ倒されている場所が見え始める。
「お前は常に俺の後ろにいろ。絶対に前に出るなよ」
「分かりました」
2人で開けている場所に出る。
「こんなはずじゃ! あいつはまだ来ないのか!」
騎士騎馬隊の隊長がうずくまっている。
「ああああ! 隊長! たすけ・・・」
メガネパルよりも大きい、メガディパーグが隊員の1人を噛み殺す瞬間だった。
やられたのは2人か。まだ・・・9人も残っているようだな。
予想通りの状況だな。
あっという間に、野菜と肉のバランスがとれた、美味しそうなホワイトシチューが出来上がる。
やばい・・・良い匂いだ。絶対旨いやつ。戦略的飯テロ。
オリービアは加工された木の深皿に、シチューを注いでくれている。
パンも軽くあぶられて、表面に程良い焦げ目が付いた、見てるだけで涎が出てくるものに仕上がっている。
「あの・・・もしお顔が見られたくない事情がありましたら、私はしばし席を外します」
俺のマスクに何かしらの意図を感じたのか、オリービアは自分の分を用意せずに離れようとする。
「いくら俺でもここまでしてくれた人に、席を外させ自分だけ飯を食おうとは思わない」
俺はマスクを取り、初めて直接オリービアを見た。
「あ・・・格好いい・・・」
典型的な、気になっていた相手に本格的に恋に落ちた、ドラマの女みたいな顔をするなよ。
母のドラマ鑑賞に、だてに付き合わされ続けていたわけじゃないぞ。
それに俺の容姿はあの親に似ている。そこを褒められても、正直嬉しくはない。
「俺はこの国に無い力を持っているからな。素顔を隠して、問題を避けようとしているだけだ。それに素行も悪い方だしな」
「私はルシファー様の、お顔を見ていたいのですが」
「よく分からない事を言ってないで、冷めないうちに食べよう」
「はい!」
まずは木のスプーンを沈めて、シチューを一口だけを食べてみる。
あれ・・・これは。
「ルシファー様。涙が・・・」
俺は真顔で涙を流していた。
そうか・・・これは俺にとって初めての、女性が俺の為に作ってくれた料理なのだ。
本来は母から与えられる愛情の、その表現の1つ。
俺はこの状況に、母の愛のような物を感じているんだ。これはその涙なのか。
「おいしいよ」
「良かった・・・口に合わないのかと」
「そんな事はない。俺は1度も母に、料理を作ってもらった事がなくてな。いつもお湯を入れればか、温めれば食べられるものを食べていた。こんな気持ちになるんだな。暖かい涙は初めてだ」
「ルシファー様、私でしたらお望みの時に、いつでもお作りしますよ」
そう言った、自分と同じ年頃の少女の顔は、母性を表面化した慈愛の顔だった。
「そんな事を言って、仲間として付いて来ようとしているのか?」
「そんな! そんなつもりではありませんでした! それに仲間ではなく、妻でもいいのですが・・・」
慌てているが、打算的な事が無いのは分かっている。おそらく心からそう言ってくれたのだ。
最後の言葉は聞き流したが、もはや逆プロポーズに近い。
「分かっている。ただ今回の狩猟が終わったら、一旦パーティーを組むか考えてもいいかもな」
「やった! おかわりいりますか? パンも焼きますよ」
「自分も食べるといい。昨日の夜から、何も食べていないのだろ?」
「ルシファー様・・・ありがとうございます」
その後会話は無くなり、ただ夕飯を食べただけだが、なぜかずっと心地よかった。
野営用の布団を敷いて、元の世界になかった満点の星空を眺める。
オリービアは疲れていたのだろう、すぐ寝息を立て始めた。
一時の感情なのか、初めての経験に感動して情に流されているのか、俺には分からないが、少しはこいつを信じられそうな気がした。
朝が訪れて、軽い朝食を済ませてから、野営道具を片付ける。
食器を洗いたいが水が足りない。ゲネシキネシスで水を作ろうとしたが、何度イメージしても出来なかった。
何か水を生み出す力はないかと思い、頭の中の本を検索する。するとあるページで検索が終わり、その力がインストールされる。
ハイドロキネシス<水態力>
革袋の水筒の中に水が満ちるイメージをすると、袋は膨れて水が満たされる。
これで食器が洗えそうだ。
ハイドロキネシスで水を足しながら、食器と鍋を洗い食材が減り少し軽くなったリュックにしまう。
恐らく世界で最も贅沢な力の使い方だったと思う。
戦闘ではあまり役に立ちそうな感じはしないが、何回か使えば強化されて使い道が見つかるかもしれないな。
「行くぞ」
「はい」
相変わらず荷物を持とうとするオリービアを静止し、料理の礼だと俺が持っていく事にした。
オリービアも体力が回復したのか、今日は並んで歩いている。
時折、腕を組もうとしている感じがあるが。
歩き続け太陽が真上に差し掛かった時、目的の森に着いた。
騎馬騎士隊の馬もつながれていて、昨日野営をした焚き火の跡が残っている。
足跡が森の中に続いている。既にメガディパーグを探しに行ったようだ。
これはもう面白い事になっているかもな。
森に入る前に見える範囲で、一番高い木の枝に飛びんでリュックを引っかけておく。
戦闘では邪魔になるだけだからな。
「今から剣を抜いておけ」
「はい」
「メガディパーグの位置を探る。俺の後ろでじっとしててくれ」
「え? 分かりました・・・」
マスクを外してしゃがみこみ、嗅覚と聴覚に全神経を集中する。
オリービアは何をしているのか分からないのか、少し困惑しているようだが、集中するとオリービアの鼓動が緊張からか、速くなっているのが聞こえる。
さらに集中していると、聴力と嗅覚は同時に情報を捉えた。
「血の匂いがする。あと人間の悲鳴に交じって、獣の唸り声が聞こえる」
「凄い・・・」
「走るぞ」
オリービアのペースを確認しながら、悲鳴の聞こえる方角へ駆け、しばらくすると木がなぎ倒されている場所が見え始める。
「お前は常に俺の後ろにいろ。絶対に前に出るなよ」
「分かりました」
2人で開けている場所に出る。
「こんなはずじゃ! あいつはまだ来ないのか!」
騎士騎馬隊の隊長がうずくまっている。
「ああああ! 隊長! たすけ・・・」
メガネパルよりも大きい、メガディパーグが隊員の1人を噛み殺す瞬間だった。
やられたのは2人か。まだ・・・9人も残っているようだな。
予想通りの状況だな。
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