異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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3章 制裁そして帰還

3.1 2つの悪意が生んだ結果の話

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 俺の後ろで、オリービアは震えている。

「心配するな」

「はい・・・ルシファー様」

 オリービアは俺のローブを掴んでいるようで、そこからも震えは伝わってくるが、逃げださないのは対した度胸だな。

「グルルルルル! グワ~~~!」

 メガディパーグは唸り声を上げ、次の隊員に狙いを定めたようだ。

 思ったより減ってないな。

 これで俺に襲いかかってきては、遅れてきた意味がない。
 俺はオリービアをお姫様抱っこし、見える範囲で一番高い木の枝に飛び乗る。
 虎は木登りが得意な動物だが、あの巨体では上ってくる事は無理だろう。

 太い木の枝に座り、オリービアも幹側に座らせる。

「ルシファー様、凄いです。こんな跳躍が出来るなんて」

「幹に掴まって、絶対落ちないようにしろ」

「はい」

 見下ろすと、3人目の隊員が爪で引き裂かれる瞬間だった。

「うう・・・」

 オリービアは顔を俺の胸にうずめ、残虐な猛獣の殺戮ショーから目を逸らす。

 幹に掴まっていろと言ったんだがな。

 興奮しているメガディパーグは、次々に隊員を殺していく。
 4人目を噛み砕き、逃げる5人目を踏み殺し、言葉が通じるわけないのに許しを乞う6人目を爪で蹴り殺した。

「おい! にいちゃん! 待ってたんだよ! 助けてくれ!」

 隊長が俺に気づき助けを求めてくる。

 やはりな。そういうつもりだったか。

 俺が助ける事を前提にした計画、残念だがそれは始めから破綻している。
 俺は最初から、お前らを助ける気が無いからな。

 もし隊長が生き残ったら、答え合わせでもしてみるか。

「にいちゃん何してるんだ! 早くしろよ! みんなやられちまうだろ!」

 ここに俺がいる事がメガディパーグにばれるので、俺は隊長に返事をする事はない。

「なにしてんだ! 早く助けてくれないと、冗談じゃすまなくなるぞ! 助けろよ!」

 それで助けに行くと思っているのだろうか・・・。

「ルシファー様、助けなくていいのですか?」

「必要あるか?」

「・・・必要はないかと思いますが。この状況って、あの人達の自業自得ですし・・・。そもそもルシファー様に喧嘩を売っておいて、助けてもらおうなんて・・・。それに勝負の筈ですし」

 なるほどな。オリービアはこういう所も俺と考えが似ているのか。
 こいつも助けてあげてなどと叫ぶ、そこらの偽善者とは違うようだな。

 俺はまともに育たなかったからか、虐待といじめの影響からか、どこか壊れていると自覚している。
 良心なんてものは無く、人をないがしろにしても、痛めつけても、心が痛む事はなかった。

 オリービアも悲惨な状況から目を背けているだけで、こいつ等を助けない俺に嫌悪するようすはない。

 という事は、お前もどこか壊れているのだな。

 考えを巡らせていると、もう隊長と隊員1名しか残っていなかった。

「何でこんな事に! 完璧な計画だったのに!」

 隊長はうずくまって喚き散らし、残った隊員は失禁しながら壊れたように笑っている。

 人数が少なくなり、メガディパーグが周囲の匂いを嗅ぎ始め、何かを捜し始める。

 やがて俺に目を向けて、今までにないほどの威嚇をし始めた。

 恐らく俺から子供の匂いがしたんだろう。
 オリービアの言ったとおり、あれとは親子だったようだ。

 俺に降りて来いとばかりに、メガディパーグは威嚇を続ける。

 狙いが俺に定まった以上、もう隊長と残った隊員を襲う事はないだろう。
 愚か者の殺戮劇は、これで終了という事だ。

「あいつを倒してくる」

「大丈夫ですか? ルシファー様!」

「心配ない。落ちないようにここで待っていろ」

「はい」

 木から飛び降り、メガディパーグと対峙する。

 子どもの仇を取ろうと力を込めて突進してこようとするが、俺は方手を前に出してサイコキネシス<念動力>発動する。

 メガディパーグは見えない力に阻まれ、見動きすら取れなくなる。

 これ程の体躯の獣を、僅かな集中で簡単に止められるようになっているとは。
 使えば使う程に、強さも精度も増していくという事が、これで確かなものになったな。

 そのまま方手をかざして動きを止めながら、刀を抜いてゆっくりと近づく。

 メガディパーグの眼前に立った時、俺を見る目は最大の憎しみを抱いているように見えた。

「すまないな。仕事だ・・・」

 気休めにもならない、決して伝わらない人間の言葉。

 そのまま心臓を一突きし、出血多量で目が閉じられるのを待った。
 最後は力なく瞼が下りて行き、血が流れるのが止まるのを待って、力を解除する。

 ゆっくりと横たわる体に、僅かな物悲しさを感じた。

 狩猟者証をメガディパーグに触れさせ、魔法陣が起動して狩猟完了が登録された事を確認する。

 続いてメガディパーグの死体を確認する。
 前回のように頭を真っ二つにした時より、かなり状態は良い。

 毛皮が血で染まっているが、洗えばおちるだろう。
 これはかなりの売値が期待できるな。

 やるべき事が終わったので、空を飛びオリービアを迎えに行く。

「ルシファー様・・・本当に飛べたのですね」

「そう言っただろ」

 再びお姫様抱っこをし、オリービアを地上に下ろした。

「ずっとこのまま・・・抱っこされていたいですが」

 嬉しそうにクネクネしながら、まさかの提案がオリービアから飛んでくる。
 こいつ・・・こんな奴だったか?

「兄ちゃん・・・」

 後ろで枝が折れる音がし、振り返るとあの隊長がいた。

 正直、もう居るの忘れていた。

「何の用だ?」

「何で助けてくれなかったんだ?」

 まだそんな事を言っているのか。
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