異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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3章 制裁そして帰還

3.2 自業自得ともう1つの悪意の話

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「にいちゃんは昨日この森で、ディパーグを仕留めた時には、どうやったか知らないが半日で終わらせたんだろ? 今回も大分前に森に着いてたんじゃないか?」

「俺達が来たのは少し前だ」

「嘘つくんじゃねーよ!」

「ルシファー様は、嘘などついていません!」

 オリービアが急に大声を上げる。

「お前の小狡い計画は、何となく分かっていた」

「な・・・何の事だ!」

「俺が来るのを待ってメガディパーグと闘い、苦戦しているところを見せて俺が助けるよう仕向け、後は俺に討伐させる。結果的に共闘という事にして、お前らは分け前を貰う。そんなところだろ?」

「お前・・・なんで分かって・・・」

「気付かない方が難しいと思うが」

 隊長の体は、見て分かる程震えている。

「幼稚な計画だが・・・それを置いても誤算があったな。俺を待っている間に、メガディパーグに見つかったことだ。こいつは子供を殺され気がたっていたんだ。森に居る人間は、探し出されて襲われるに決っているだろ。それと最大の誤算だが、俺にお前等を助ける気が全くなかったって事だ」

「というより・・・あんな態度をしておいて、助けてもらえると思う方がおかしいかと」

 オリービアの言葉が、一番隊長の心を抉ったようだ。
 口をパクパクさせながら、隊長は言葉にならない言葉を発している。

「・・・わざわざゆっくり来たのは、メガディパーグに俺達を襲わせる為か?」

「そうだな」

「・・・は!?」

 今度は隊長の顔が、言っている事が理解できないという顔になった。

「声をかけても助けてくれなかったのは、元から助ける気なんてなかったからか?」

「そう言っているだろ。逆に聞くが、俺とお前達の関係はなんだ?」

「・・・え?」

「話した事がある他人だろ。仲間でも何でもない。俺にお前らを助ける義務もなければ、その必要もない」

 今度は絶望したような顔になる。

「それでもお前は、目の前で死んでいく人間を見捨てたのか?」

「お前が勝手に搾取する方法を考え、勝手に勝負を仕掛け、勝手に狩猟に向かった。俺は1つも同意していない。俺の知らぬ所で勝手に行動したお前の事に、俺が関係あったかのような言い方をしないで欲しいな」

 隊長は最後に、俺の胸倉を掴んでくる。

「本当に何にも思わないのか! 今転がっている、殺された俺の仲間の遺体を見ても!」

「お前はまだ勘違いしてるのか? こいつ等は殺されたんじゃない。お前の幼稚な計画に殺されたんだ。もしかして口減らしが本当の目的か? 人数が増えて困っていると言っていたしな」

 その言葉の後、隊長の手は力なく落ち、喜怒哀楽のどれでも無い表情になった後、その場に膝をつく。

 なんの反応も示さなくなり、俺は隊長から離れる。



 メガディパーグの死体をサイコキネシス<念動力>で持ち上げ、森の外に出ようとする。

 最後に1度だけ様子を確認すると、隊長はまだ放心状態で涎を垂らしていて、生き残った隊員はまだ空を眺めて、小声で笑い続けていた。

 人を利用しようとせずまっとうにしていれば、こんな事にならなかったのにな。

「哀れですね。楽してお金を手にする方法を考え、陳腐ちんぷな方法だと気付かずに実行し、仲間を失ってルシファー様に責任があるような話をし、現実を説明されてしまいそれで心を壊す。ああいう人には嫌悪感を覚えます」

 森の出口まで歩いている途中、オリービアから辛辣な言葉が飛び出す。
 相変わらずオリービアは、ああいう奴を見る目が俺と似ている。

 現実なんてこんなものだ。

 本当の理由があってそれを共感したり、最終的に和解して仲間になったり、協力したりするようになるのは物語の中だけだ。
 テレビで見た映画でも、何で助けるんだと疑問に思うばかりだった。

 今回の事で、改めて人間の汚さを見た気がする。





 死体を浮かばせたまま、やっと森を出る。

「ティグリス村に立ち寄ってもいいですか?」

 さっさとバビロアに帰ろうと思った時に出た、意外な言葉だった。

 我慢するばかりだったオリービアからの、初めてのお願いだったからだ。

「形見を取って来たいのか?」

「はい・・・」

「さほど時間はかからなそうだし、構わない」

「はい! ありがとうございます!」

 メガディパーグを浮かして運び続けるのは、何だかんだ疲れてきているので、手押しの荷車をゲネシキネシス<創造力>で創造し、そこに放り込む。

 そのまま荷車を引き、森と農地の先にあるティグリス村に向かう。

 街道沿いに行けば、歩いて小一時間程か。

 メガディパーグの巨体を乗せた、荷車を引く俺に驚きながらも、オリービアは何回も気を使ってくれた。
 水筒を差し出したり、今日は肉を中心にした料理を振舞うといったりと。



 太陽が横になり始めたころ、ティグリス村に到着する。

 街道に隣接している村の入り口から入ると、嫌がらせの対象だったオリービアが男を引き連れて戻り、しかもその男はメガディパーグの荷車を1人で引いているという異様な光景に、村人は大口を開けて、時が止まったように硬直していた。

「あれオリービアじゃねえか・・・あの格好・・・異邦人を連れて戻ってきたのか?」

「戻ってきやがった。疫病神め」

 オリービアの悪口を言っているものが大多数で、小声で話していても俺の聴力はそれを拾う。

 本人に聞こえてはいないだろうから、それは幸いだが。


 ・・・なんで俺は自然と、オリービアを気にかけているんだろうか。


「家はディグリスの大森林に、もっとも近い所にあります。街道から来たので、戻る形になってしまいすいません」

「荷車で森を突っ切る訳にもいかないだろ。気にするな」

「今日は私の家にお泊まり下さい。もっとちゃんとした料理も出来ますし!」

 初めての客人を家に招待する事に喜んでいるのか、とても嬉しそうにしている。

 今日中にバビロアに帰って、メガディパーグを競りにかけたかったが、もう日が暮れ始めているし、獣市の登録に間に合うのかも分からないからな。

 言葉に甘えて泊っていくのも悪くないか。

 ティグリスの大森林に近い村外れまで歩くと、焼け爛れた廃屋の前でオリービアが立ち止まる。

 どうしたのか声を掛けようとした時、オリービアの頬を涙が流れているのを見て、俺は悟った。

 この全焼した家は、オリービアの家なのだと。

「ごめんなさい・・・ルシファー様。もうお料理も、お風呂も、寝床も、ご用意出来なくなってしまいました・・・」

 声を押し殺すように泣くオリービア。

 何とも言えない光景だ。

 俺はこの状況の人を、慰める言葉を持たない。

「お母さんの形見になる物も・・・、本も・・・手作りの服も・・・、こんなの酷い・・・ルシファー様のお陰で、また生きようと思えたのに」

 オリービアは顔をくしゃくしゃにして、涙を流しながら静かに両膝をつく。

 こいつは全てを失った。

 心の支えになっていたものも、絶望の元になっていたものも。

 その圧倒的な損失感が、俺にも伝わる。

 人の居ない家が、勝手に火事になる筈がない。
 この家に火を付けた犯人など、俺でも簡単に想像がつく。

 オリービアが狩猟のため出て行った事をどこかで知り、いない間に家に火を放つ。

 ディパーグに殺されたら遺品の焼却処分、生きていたら絶望を与えるといったところか?

 まあ目的なんて無く、実の子すら殴り殺す親もいる。
 だからこれくらいの事を、平気でする奴が居てもおかしくはないが。

 何かが引っかかる。

 それとずっと気になっていた。

 何故こいつの母親は村をでなかった? 普通は娘の安全の為にも新天地を目指すと思うが。

 話を聞く限り、俺のように愛されていなかったという訳でもないようだし。

 こいつの認識とは違った、何かがありそうだな。

 こいつが悲しんでいる光景を見ても、俺は僅かな同情心しか抱いていない。
 だから慰める事などはしないが・・・。

 だが改めて見せられる、人間の生の悪意を見ると・・・そうだな。

 ・・・これは少し、不快だな。
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