異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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3章 制裁そして帰還

3.3 真相を知る為に調査する話

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 こういった人間の悪意を見せられると、実に不愉快だ。

「これではもう残っているものはないだろう。残念だが、ここに居てもしょうがない」

「はい・・・。良ければその前に、母を埋めたところも確認していきたいのですが」

「いいだろう」

 オリービアは力なく立ち上がり、たどたどしい足取りで村はずれに見える森に向かう。
 俺はそれを後ろから黙って付いて行った。

「良かった・・・」

 掘り返されて埋められた跡と分かる目新しい土と、その上に置かれた目印にしたであろう丸石。
 流石に死者への冒涜は無かったようだ。

「燃やされたお前の家も、例の貴族の仕業か?」

「フラテス候の仕業だと思いますが、ここまでされるなんて。母が私を生んだ事は、そんなに悪い事でしょうか?」

 オリービアは振り返り、涙を浮かべたまま、何かを我慢するように聞いてくる。
 まるで俺からの、救いの言葉を求めるように。

「それは俺には答えられないな。良いも悪いも無く、物として扱われてきた俺には無い感覚だ」

「・・・すいません」

 言い終えると、オリービアは泣きながら抱きついてくる。

「何の真似だ?」

「分かっています。でも・・・今はこうさせて下さい」

 俺はオリービアには手を回す事が出来なかった。
 誰かに抱きしめられるのも初めてで、誰かを抱きしめたこともないので、ただただ戸惑うだけだったから。

 オリービアが俺から離れたのは、太陽が夕日となった頃だ。

 村の中に入るのは危険と考え、俺はオリービアの母が眠る場所から少し離れたところで、野営道具を広げている。
 オリービアは約束通り料理を作ると鼻息を荒くしているが、明るく振舞っているだけで、何かしてないと落ち着かないといったようすだ。

「ステーキです!」

 出されたのは確かにステーキだが、彩りを意識して野菜も添えられているし、蒸かしたジャガイモまである。

 スパイスを組み合わせた味は、独特だが食欲をそそる。

 オリービアは嬉しそうに食べる俺を見ている。
 母性のような、男に料理を食べてもらう女のような目をしながら。

「旨かった」

「ルシファー様のおかげで、良い食材が買えたからです」

「選んだのはお前だ。よく食材の良しあしが分かるな」

「悪いものばかり食べていましたから。私がいつも見ていた食べ物と違えば、新鮮で良いものという事です」

「そんなセリフを笑顔で言うな」

 思わず突っ込みを入れると、オリービアは顔を赤らめる。

「気遣って頂いて、ありがとうございます」

「気遣ったつもりはないが」

 それに対し、オリービアはクスっと笑っただけだった。

 食器を洗い、寝る準備をする。

「もう暗くなってきた。先に寝るといい」

「では失礼して」

 オリービアは布団に入り、小刻みに震えている。
 反対方向を向いて横になっているので見えないが、どう見ても泣いている。

「ルシファー様・・・不快でしたら答えて頂かなくても結構です。私が生まれてきた意味は、あるのでしょうか?」

「俺も同じことを考えた事がある。考えた結果、誰にも生まれてきた意味なんて無いと思うようになった。だから自分なりに、その意味を探さないといけないとな。俺は未だに見つからないが、まだ探し続けている」

 その言葉を聞いたオリービアは、体をこっちに向けて柔らかい表情になり、目を閉じて寝息を立て始めた。

 今夜だけは、こいつを守ってやろう。
 体力が向上しているから、寝ずの番くらいどうってことない。

 未だ僅かに燃える焚き火に、眩しくない程度の火が出るように薪をくべて、夜通し周囲を警戒し続けた。



 やがて夜が明ける。

「おはようございます。ルシファー様」

 朝を迎えて、オリービアは眠そうに眼を擦りながら起き上る。

「ずっと起きてたのですか!?」

 俺の寝床がそのままになっているのを見て、すぐ状況を察したようだ。

「村人に襲われたり、物を盗まれても面倒だからな」

「私に言ってくだされば・・・」

「俺が勝手にやった事だ。気にするな」

 オリービアよ・・・手を祈るように組んで女の目で俺を見るな。
 何故こいつの高感度が、どんどん上がっているんだ。

「バビロアに帰りますか」

「その事なんだが、家を燃やした犯人探しと、フラテス候に会っていかないか?」

「・・・どうしてですか?」

 トラウマの元凶であり嫌悪の対象に会いに行こうと言われ、オリービアは体を強張らせる。

「火を付けたやつが何の罰を受けないのも俺が納得できないし、フラテス候に聞きたいこともあるからな」

「聞きたい事ですか?」

「お前の母が村から出ようとしなかった事、フラテス候の執拗な嫌がらせの理由だな」

 産んだら結婚してやると言った女とその子供に、屋敷を飛び出した位でここまでの事をするだろうか。
 それが不思議に思っていたことだ。

「分かりました。私もこのまま逃げるわけにいきません。お願いします!」」

 オリービアは覚悟を決め、俺の目を真っ直ぐ見てくる。
 これなら大丈夫そうだな。

「メガディパーグはどうしますか?」

「しょうがないから持って行くさ」

 荷車を牽いて、再びティグリス村に入る。
 村民はほとんど見当たらず、道の真ん中を占領して運ぶ事が出来た。

「誰もいないな」

「今の時間は農作業に出ているとは思います」

「ところでお前の中で砲火をした奴、もしくは今回の事を知ってそうな奴に心当たりはないのか?」

「放火をした人は分かりませんが、フラテス候からの指示を受けたのは村長だと思います」

「なるほど」

 オリービアに案内されて村長宅に向かい、村の中心部にある、周りと比べて一回り大きい家に到着した。
 村長は家にいつも居るとオリービアが言っていたが、なるほど確かに・・・家の煙突から煙が出ているな。

 ドアをノックすると、初老の禿げた男がドアを開けた。

「何の用だ? オリービア!?」

 俺の後ろに立つオリービアを見た瞬間、急いで扉を閉めて鍵をかけてしまう。

「・・・強引に行くぞ」

 玄関を蹴り開けて中に入る。

「あんたが村長か?」

「おい! 何してくれてるんだ!」

 俺の突入で怒りをあらわにする村長。

「聞きたい事があってね。正直に答えたら何もせずに帰るよ」

「既にドアを壊してるだろうが! それにオリービアを連れてくるとは・・・」

 遅れて入って来たオリービアを見て、分かりやすく動揺する村長。

「こいつの家に火を付けたのは誰だ? お前か?」

「何故そんな事を教えなければならない! そんな事よりドアを壊し、村長である私に無礼を働いた詫びをしろ!」

「どうやら知っているようだな」

 俺はゆっくりと村長に近づき、腹を加減して殴りつけた。
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