異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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3章 制裁そして帰還

3.4 自分勝手に制裁を加えていった話

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「ぐ・・・ぐげ~」

 村長は腹を押さえてしゃがみ込む。


「話す気になったか?」

「誰が貴様などに・・・、今なら有り金全てを寄こせば・・・許してやる」

「まだ話す気はないようだな」

 しゃがみ込んでいる村長の肩を掴み、持ち上げて強引に立たせる。
 後頭部を持ちそのまま机に顔面を叩きつけた。

 鼻血が吹き出し、村長は悲鳴を上げる。


「話す気になったか?」

「もう・・・許さないからな」

「その威勢の良さには素直に関心するが、早くしないと死ぬぞ」

「ひぃ!」

 村長の右手を机につけ、肘を思い切り殴りつける。
 肘は反対方向に曲がり、通常の人体では出来ない形になってしまう。

 まだ喋ろうとしないので、今度は左手に同じ事をする。
 うめき声を上げて、村長は床に倒れてしまった。

 俺は骨折まではしなかったが、これは父の得意な虐待だった。折れるか折れないかの境界を、上手く攻めるのが楽しいといつも言っていたな。
 俺は全然楽しく感じないが、こういう話が通じない奴にはちょうどいいだろう。


「貴様・・・フラテス候に報告して、極刑にしてもらうからな!」

「まだ喋らないか」

 村長の掌を閉じさせ、それを握り徐々に力を強めていく。


「や! やめろ!」

 徐々に掌の骨が砕け始め、潰れて手が小さくなって行く。


「ぎゃあああ! 分かった! 火を付けたのはバルマーシュだ! 村の東の畑で! 芋を育ててる!」

 やっと話す気になったようなので、少し握力を弱めて話しやすいようにしてやる。


「何故火を付けた?」

「そこのオリービアが鎧ドレスを身に付けて! ティグリスの大森林に入ったのを見た者がいた! それを聞きつけたフラテス候が! 家に火をつけるよう指示したんだ!」

「お前はなぜフラテス候の指示とはいえ、こんな酷い事ができた?」

「これ以上税金を上げられたら村は終わりだ! それに・・・それに言う事を聞けば、逆に金が貰えたんだ!」

「そうか」

 それを聞いて俺は村長の手を完全に握りつぶし、二度と手が使えないようにした。

 かすれた声で悲鳴を上げた村長は、素人でも分かる程損傷した手を見て、死んだような目になる。


「全部話したのに・・・」

「税金だの金だので自分を正当化し、人を傷つけた報いだ。これからは惨めに暮らすんだな」

「悪魔・・・」

「その通り、俺は悪魔だ」

 堕天使ルシファーは地獄に堕ちて悪魔の王、サタンになったと本で読んだ。
 村長は図らずとも、俺の正体を当てたのかもしれないな。

 悶える村長を放って家を出る。

 叫び声を聞きつけた、女子供が何人か家の窓から見ているが、オリービアの姿を見ると引っ込んでしまう。


「ああいう人間には嫌悪をし、そいつらが罰を受けずにのうのうと生きているのが許せず、力を使う事もいとわず制裁を加える。村長の言う通り、俺は悪魔なのだろうな」

「そんな風に思いませんでした」

 振り返るとそこには、力強い顔をしたオリービアが立っている。


「あんな人、報いを受けて当然です。権力にもお金にも屈する事無く、悪逆非道な事をする者に制裁を加えるルシファー様を、私は悪魔とは思いません。私のような弱い立場や、迫害されていた者にとっては、悪魔どころか天使です」

 堕天使の名前を持つ者に、天使と言うとは。

 そういえば、天使や悪魔にという名詞が出ているのに、俺の名前に反応しないところを見ると、この世界の天使や悪魔の名前は、元の世界と違うものが付いているのだろうか。


「お前の為にしていることではないが・・・」

「そうかもしれませんが、結果的に私の為になっているのですよ」

「・・・とりあえずバルマーシュとやらに会ってみるか」

「畑仕事に出ているかもしれませんが、一応家にいるか確認しましょう。ご案内します」

 案内をするオリービアの後に、荷車を引きながら着いて行く。

 オリービアは相変わらず、俺の行いを黙って見ていたな。
 止める訳でもなく、煽るわけでもなく、ただただ黙って。

 この国の司法は死んでいると聞いているが、そう考えるとオリービアのように虐げられてきた人間からすると、これ位やられて当然と考えてしまうのかもしれない。

 案内をする後姿を見ていると、今まで感じたことのない感情が湧いてくる。

 でも・・・これが何なのか分からない。


「ここです」

 木造りの普通の家だな。


「お前は外にいろ」

 オリービアに指示を出し玄関の前に立つが、もう面倒なので、初めからドアを蹴り開けて中に入る。


「何だ!?」

 農業服を着た大柄の男が、ドアに向かって歩いてくる。


「お前がバルマーシュか?」

「そうだ! お前・・・ふざけた真似して、ただで済むと」

「村長から聞いたが、お前がオリービアの家に火を付けたって本当か?」

「あの野郎! 報酬を渋った上に人に話しやがって!。それがなんだ? 憲兵じゃないんだろ? あいつの為に動くはずないからな!」

「憲兵はこんな恰好をしているのか?」

「知らねーよ! 憲兵なんて見たことないからな! あんた誰なんだよ?」

「お前らの行いが気に入らない者だよ」

 バルマーシュに手をかざしサイコキネシス<念動力>を発動、宙に浮かせた後にドアの外へ投げる動作をして、外に放り投げた。


「痛え・・・何だ今のは? ん? オリービアじゃないか! お前の男か!?」

「確かに将来的に、ルシファー様はそうなるでしょう。ですが今はあなたに、自分の行いの報いを与える人です」

 なんかオリービアがさりげなく、願望を含んだ訳の分からない回答をしている。
 そもそもまだ仲間にするかの、審査中なんだがな・・・忘れているのだろうか。


「おいバルマーシュ、この家には他に人がいるか?」

「いねーよ! おい! 今謝ったら許してやる!」

「どいつもこいつも・・・、オリービアに謝罪の一つも出来ないのか」

 オリービアとバルマーシュの間に立ち、片手を水平に上げて家に向ける。
 パイロキネシス<発火力>を発動し、家全体を発火させる。
 瞬く間に炎が広がり、消火を考える間もなく、あっという間に家が燃えていく。


「お・・・お前・・・何してんだよ」

「お前が人の家に放火したように、俺もお前の家に火を付けただけだが?」

「俺は村長に指示されてやったんだ! つまりは、フラテス候の指示だぞ!」

「お前は子供なのか? 指示されたからやっていいと思っているのか? それに報酬ももらっているし、無理やりやらされたわけじゃないのだろ」

 バルマーシュは膝をつき、放心状態で燃える家を眺めるだけになった。


「ここでの用事は済んだ。フラテス候のところに行くか」

「・・・はい」

「お前は自分のトラウマと向き合うようなもんだ。無理して着いてこなくていい」

「行きます・・・。ここで逃げたら、前に進めなくなりそうです。それに私の為にルシファー様は・・・」

「・・・お前の為なんかじゃ無い」

「ルシファー様は、そうかもしれませんが・・・」

 食い下がるなくするオリービアに、軽くため息をつく。


「ここで話していてもしょうがない。フラテス候の屋敷へ案内してくれ」

 オリービアは黙って頷き、屋敷を目指して歩き始める。
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