異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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3章 制裁そして帰還

3.5 貴族の元に向かった話

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村はずれの、周りは草原しかない殺風景な場所にある、フラテス候の屋敷を訪れる。

 おもむきのある洋館という感じで、評判の悪い貴族にしては立派な屋敷に住んでいるようだ。

 荷車を道から草原の方に移動させ停めておき、ようすを伺う為に正門に向かう。

 レンガ造りの塀に囲まれ、正門は鉄格子で出来ていて馬車が通れるほど大きい。
 格子の隙間から見ると、正門と屋敷の間には噴水があり、整備された砂利の道が噴水を迂回して続いている。
 屋敷は白を基調とした3階建てで、これだけ見るととてもやばい貴族が住んでるようには見えない。
 当然だが、インターホンなど存在せず、どうやって屋敷の人間を呼ぶのかが分からない。

「どっちにしろ、正面から尋ねるわけにもいかないか」

「え!? ルシファー様!」

 俺はオリービアをお姫様抱っこし、そのまま跳躍して正門を飛び越えた。
 オリービアは首に手を回し、俺の顔を見ながら自分の顔を真っ赤にしている。

 着地すると、あたりに砂利が擦れる音が響いた。

「ルシファー様・・・」

「どうした?」

「しばらくこのままという訳には?」

「駄目だろ」

 しぶしぶ降りるオリービアは、とても名残惜しそうにしている。
 ・・・こいつ意外に余裕だな。

「警備の人間とかは居ないようだな」

 割と大きめの音がしたと思うが、誰かがようすを見に来る気配がない。

「とりあえず屋敷に入るか」

 屋敷へ向かって堂々と歩くが、やはり誰も見当たらず、屋敷の玄関に着いてしまった。

 観音開きの扉を蹴り開けると、扉は外れて数メートル飛んで屋敷の中に轟音を響かせた。

「なんだ!」

「侵入者だ!」

 簡易的な甲冑を身に纏った警備兵が、10人ほど慌てて走ってくる。
 扉があった場所に立っている俺とオリービアを、半円状に囲って剣を抜いた。

「動くな!」

「断る・・・フラテス候に会わせろ」

「襲撃者に会わせるわけないだろ! ここで討ち取らせてもらう!」

「やはりそうなるよな」

 教える気もなく、通す気もないようなので、サイコキネシス<念動力>で吹き飛ばそうと思った時。

「ん? オリービアではないか?」

 警備兵がオリービアの存在に気づく。

「フラテス候に合わせて下さい」

「愚かにもディパーグの狩猟に向かったと聞いていたが・・・死んでいなかったとはな」

 ひどい言葉だな。
 オリービアは俺のローブを掴みながら、なんとか冷静さを保っているようだ。

「貴様等親子のせいで、どれだけの迷惑を被ったか!」

「私はあなたに、迷惑をかけた事はありません」

「生まれてきたことが迷惑だ!」

 警備兵の声がホールに響く。

「やっと死んでくれると思ったがな! もういい、ここで我々が始末してくれる!」

 一斉に警備兵が駆け寄ろうとし、オリービアは俺の腕にすがりつき助けを求める。

 警備兵が踏み込もうとした瞬間、方手を上げてサイコキネシス<念動力>を発動する。

「・・・か!」

「・・・動けない」

「何だ・・・これは・・・」

 全員の動きを止めて、石膏像のようにしてしまう。

「さっきから黙って聞いていれば、不愉快な話をしやがって」

 俺は掌を上にし、警備兵を宙に浮かせる。

「貴様等が被った迷惑とやらは知らないが、貴様等の発言は本当に不愉快だ。失せろ・・・」

 手のひらを正面に向けて突き出すと、警備兵は全員吹き飛ばされ、壁や柱、中央階段の手すりに叩きつけられる。

 殺してはいないが、再起不能になるには充分なダメージだろう。
 明後日の方向に四肢が向いている者、吐血している者が大半だからな。

 さっきから威勢の良かった警備兵は軽傷だったようで、手をかざしてそいつを自分の前まで運ぶ。

「フラテス候はどこだ?」

「あんた・・・何者だ?」

「質問しているのは俺だ」

「ひぃ! ・・・2階の自室にいるはずだ!」

「礼を言うよ」

 そのまま近くの柱に叩きつけ、気を失った警備兵をよそに中央階段を上がる。
 オリービアも、俺のローブを掴んだまま後ろを付いて来た。

 左右対称に折り返す階段を登り切ると、長い廊下が続いている。
 廊下を歩き続けてフラテス候の自室を探していると、他とは違う絢爛豪華けんらんごうかな扉が1つだけ見つかった。

 ドアを蹴り破ると、肥えた豚のような体系の小男が、なにやら書類を見ながら机越しに座っていた。

「なんだ!? 警備の者は何をしている!?」

「全員下で伸びてるよ」

 ゆっくり足音が響くように、フラテス候に一歩ずつ近づく。
 俺のただならぬ雰囲気と音に驚いたのか、小男は立ち上がり冷汗を流し始める。

「何をしに来た!?」

「こいつの事で、いろいろ聞きたい事があってね」

 俺が僅かに体を捻ると、後ろに隠れていたオリービアの顔が現れる。

「フラテス候・・・」

「オリービア! 生きていたか!?」

 絞り出した、今にも消えそうなオリービアの声。
 俺を挟んで対峙していても、自らのトラウマの元凶と向き合うのに、全身を震わせている。

「こんな無礼な男を垂らし込んで、ここまで来るとはな。あのアバズレの娘だけはある」

「母はアバズレなんかではない!」

 一転して、オリービアは先ほどまで震えていたとは思えないほどの、激怒を見せる。

「生かしておいただけでもありがたいと思え! 生意気な態度をとるな!」

「あなたが母を侮辱するからです! あなたこそ人間の屑です!」

「余に向ってよくもそんな事を!」

「私にはあなたを屑と呼ぶ権利がある! 母と私はあなたの嫌がらせに耐えてきた! 私はあなたの娘というのが恥です!」

「お前の父は余ではない!」

 オリービアは時が止まったように固まっているが、フラテス候は拳を机に叩きつけて、額に血管が浮き出る程の怒りを露にしている。
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