異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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4章 新たな依頼そして黒き獣

4.4 魔獣に遭遇した話

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 分かっていたが歩けど歩けど木々ばかりで、代り映えのしない光景に方向を見失いそうだ。

 何度か大きく跳び、山間部の場所を確認する。
 進む方向はあっているが、未だ魔獣とやらがいる形跡は見当たらない。

 歩いている途中で、オリービアが草をいくつか採取している。

「何をやっているんだ?」

「母の本で得た知識ですが、傷の治癒と毒の治療に役立つ薬草を採集しています。何かルシファー様のお役に立てればと思いまして」

 俺の為に採取していたのか。小脇に抱えて大切そうにしているが、かえって荷物になってしまっているではないか。
 意識を集中して、斜め掛けの麻布あさぬのの鞄を創造する。

「これを使え」

「ありがとうございます! 大切にします!」

 家宝を受け取ったかのごとく、喜んで受け取ったオリービアは採集した薬草を丁寧にしまう。

 更に歩き続けると、森林を抜けて山間部の木がまばらな、草原のような場所に出る。

 ここが魔獣とやらに襲われた場所で間違いないと思うが。

 採取の一団が正確な姿も確認せず、逃げかえってくるほどの魔獣。
 そんな存在は今のところ見当たらない。

「ん?」

 少し遠くの所で、白色のモコモコしたものが動いている。

「なんだ?」

「何でしょうか? 何かの獣だとは思いますが」

 悟られないように近づくと、意図せず後ろから近付いていたようだ。

 後ろから見る限り、白いモコモコした大福もちみたいな感じだな。
 これは尻尾か? 丸くポムポムしているが、尻尾としての役割をはたしているのか疑問だ。

 待てよ・・・、この動物どこかで見たような。

「ん? 人間の匂いがするよ!」

 頭を上げると、長い耳が立ち上がり大福が振り返る。

 その姿はどう見てもうさぎだが、大き過ぎる。
 外国の巨大熊に似ているが・・・そうだ、グリズリーだ。テレビで見た事しかないが、想像するにあれより大きく感じる。

「ルシファー様! こいつは!」

 オリービアの反応から察するに、このうさぎの名前を知っているようだ。
 この世界ではいったいどんな名前なのか、僅かな興味を抱きその名前を口にするのを待つ。

「魔獣うさぎです!」

 まさかここに来て同じ名前だとは・・・、じゃあネパルもディパーグも、イノシシとトラで良かった気がするのだが。

「ここはもう僕の新しい縄張りだよ! 人間はすぐ出て行ってね!」

「まあ・・・少なくともお前に用はないが」

「人間の癖に生意気だよ! あ! その人間のメスが持っている、おいしそうなご飯は置いてってね! 全部でいいよ!」

 ご飯? なるほど薬草のことか。薬草はうさぎの食べ物でもあるのか?

「メス!? 失礼な! それにこれはルシファー様の為の物です! 渡せる訳ありません!」

 オリービアのその言葉に対し、飛びかかるように深く構えるうさぎ。
 こいつなりに最大限の威嚇をしているつもりなのだろうが、ただただ正直可愛い。

「これは道中でこいつが採取したものだ。君の縄張りのものではないと思うが」

「関係ないよ! 匂いで分かるよ! それはとても良いご飯だよ! 早く頂戴ね! すぐでいいよ!」

 話が通じないな。所詮は獣か。

「渡せないと言っている」

「じゃあ生意気な人間を殺してでも奪うよ!」

 仕方ない。

 手を近くにある岩にかざし、引きよせてから高速でうさぎの横をかすめるように投げつけた。
 岩は草原を抉り取り、土を露出させてその軌跡を残していく。

 うさぎは何が起こったのか分からないというようすで、縮こまって動かなくなってしまう。

「・・・僕の負けだよ。ご飯は諦めるから許してほしいよ」

「負けを認めて、薬草を諦めるならそれでいいが・・・。おい、こいつは金になるのか? この程度で降参してるところを見ると、弱くて売値が低そうなんだが」

「魔獣うさぎは臆病と言われていますが、本来は魔獣の名の通り人間にとって強敵であることは変わりなく、上級の狩猟者でも狩猟が極めて困難な事から、非常に流通が少ないです。その反面、毛皮と肉はかなり人気があるので、高額で取引されていると本で見ました」

「なるほど」

 俺は剣を抜き、うさぎにゆっくりと近づく。

「殺さないでほしいよ!」

「自分は殺すと言ったのに、自分が殺される可能性は考えなかったのか?」

「本当に殺すつもりはなかったよ! 脅してご飯を貰ったら、帰ってもらうつもりだったよ!」

 なんというか、人間と違って裏が無い感じがする。動物は正直というのは本当なのだろうな。

「分かった」

「ありがとうだよ!」

「ところで、お前は先ほど新しい縄張りと言っていたが、どこか他の所から来たのか?」

「そうなんだよ。前にいた所に黒くて怖いのが来て、ここまで逃げてきたんだよ」

 黒くて怖い? もしかして今回の依頼対象じゃないか?

「前の縄張りはどこだ?」

「もう1回森を抜けると、ここと同じような場所があるよ。そこだよ」

 なるほど。同じような場所が2つあったわけだ。こいつの元いた縄張りが正解という訳だな。

「そこに案内してくれないか?」

「嫌だよ。あれはすっごく強そうで怖かったよ! 気配を感じただけで、僕は逃げることしか出来なかったよ!」

「そいつの姿形は?」

「ちゃんと見てないよ! すぐ逃げたからだよ」

 本当に臆病らしいが・・・、こいつが一際臆病なのか、それとも黒い獣が本当にやばい奴なのか、行って確かめるしかないか。

「案内してくれたら、こいつが採取した薬草をいくつか分けてやる」

「うう・・・、魅力的な提案だよ・・・分かったよ。案内するよ。この人間のオスは強そうだから、僕を絶対守ってほしいよ」

「いいだろう、交渉成立だな」

 うさぎは草原と森の境界へ向かって、少し歩き振り返る。

「こっちだよ」

 手招きならぬうさぎ招き。でかいだけで一挙一動普通のうさぎと変わらないな。

「本で見るより可愛いですね」

 女性の可愛い基準は、この世界でも変わらないようだ。



 また小一時間ほど歩いただろうか。
 まだ体力のないオリービアは、とても人並みとは言えない。この歩きはかなり堪えるはずだ。
 その証拠に、大分息が上がってきているようだが。

「大丈夫か?」

「はい。ルシファー様と共に居るには、これ位で参る訳にいきませんから」

「人間のメス、大丈夫だよ。もう着いたよ」

 前の木々の隙間から、先ほどと同じような場所が見える。

 うさぎは俺の後ろに隠れて、目に見えて怯え出す。

「ここからは先を行ってよ。とっても怖いよ」

「うさぎはそのまま後ろに居ろ。それとお前もな」

「はい。ルシファー様」

 いつ襲われてもいいように、最大限の警戒を行いながら山間部に出るが、そこで強化された俺の視力が捉えたのは、猛スピードでこちらに迫る黒い四足獣だった。
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