異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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4章 新たな依頼そして黒き獣

4.6 黒き獣を助けた話

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「ここに母がいるのだ」

 森を抜け、山肌が削られて岩が露出したところにあるかなり大きな洞窟。

「中から、苦しそうな息使いが聞こえるよ」

「うさぎ・・・お前着いてきてたのか」

「ひどいよ! だってまだご飯を貰ってないよ!」

「ああ・・・」

「人間のオスは完全に忘れていたよ!」

 後ろ足をダンダンと踏み鳴らして騒ぐうさぎを放って、暗闇が広がる洞窟に入る。

 中は本当に真っ暗で、神に強化されている俺の目でもよく見えない。
 ここは自分で明かりを用意するか。

 刀を抜いて刀身を白熱化し、白熱電球のようにあたりを明るく照らす。

「貴殿の力は凄いな」

 洞窟を進みながら、ガルムが関心を寄せる。

「改めて見ると、その力からは神に近い力を感じる」

「神に近い力?」

「この世の森羅万象、事象や法則を無視した創造の力に近いという事だ」

 なるほどな。無から有を作っているからか。

 何かを高温にして発火させているが、熱自体を生み出しているのには変わりはないし、ゲネシキネシス<創造力>は物体自体を出現させているからな。

 神が与えた力だから、神が使う力に似ているのだろうか。

「それ程の力を、貴殿はどこで?」

「それは知る必要がない」

「すまない。謝罪する」

「気にするな」

 会話の終わりと同時に、この1本道の洞窟の終点が見える。
 そこにはガルムより一回り大きい神狼族が、荒い呼吸で鎮座していた。

「母上。人間を連れて来た」

「ガルム・・・私を見捨てろと何度言えば・・・」

「母上を置いて行く事など、我には出来る筈もない」

 心配そうに、母の毛づくろいをするガルム。

「これは・・・」

 オリービアが前に出て、症状を確認し始める。

「分かるのか?」

「はい。母の持っていた本には、毒のある食べ物とその症状が書かれている物がありましたので」

「頼んだぞ、奥方」

「任せて下さい!」

 やる気の出し方が何とも言えない。

「恐らくですが、内臓の機能を低下させる植物由来の毒ですね。人間でしたら早々に死んでいるでしょうが、神狼族だからこそ持ち堪えられているようです」

「して奥方よ、我の母は治るのか?」

「治すというよりかは・・・」

 オリービアは革袋から道中で採集した薬草を取り出し、細かく仕分けし出す。

「本来はもっと希少な薬草が必要ですが、生命が持つ本来の治癒力が高まる効果が出るよう、ここにある物を全部調合すれば、神狼族本来の生命力と合わさって治るかもしれません」

「ここで何とかしようとせず、お前の言う希少な薬草とやらを、1度バビロアに戻って買ってくればいいと思うが」

「バビロアには希少な薬草も、生成された高度な解毒薬も売ってないと思います。王都に行けばあるかもしれませんが、今からでは・・・ルシファー様でも間に合いません」

「奥方よ、どういう事だ?」

「症状から見るに、恐らくこのままだと今夜にでも・・・」

「母上・・・」

 ガルムはすがるように、母親への毛づくろいを再開する。
 怪我ではないのだから・・・、それでは治らないと分かっている筈だが。

 母親を思う子供の気持ちという奴だろうか。俺には分からない感情だな。
 俺だったら母親を捨てて行っているだろうし。

「ここにある薬草を調合すれば、助かる可能性はあるのだろう?」

「ですが・・・調合道具も水も無いんです」

「そんなことか」

 俺は学校の理科室にあったすり鉢と、掃除に使っていたバケツを創造し、さらにハイドロキネシス<水態力>でバケツを水で満たした後、それを全てオリービアに手渡した。

「ありがとうございます!」

 なんでオリービアが礼を言うのか分からないが、作業を始めた時の顔は真剣そのものだった。

「僕のご飯がなくなっちゃったよ」

「うさぎ・・・空気読めよ」

「でも人間のオスは約束したよ・・・」

「別の形で守るから、黙ってろ」

 うさぎは落ち込んだようすで、隅っこでおとなしくし始める。

 ガルムは毛づくろいを止め、薬草をすり潰し水を加えて混ぜ合わせている、オリービアを見守っている。

 今回の依頼は、オリービアが居なければ厄介な状況になっていた。
 ガルムの母を見ても、俺には診察まがいの事すらできなかっただろうしな。

 この状況のガルム親子を追い出す訳にもいかないし、ましてやこちらに敵意が無い対話できる相手を、俺は殺す事も出来なかっただろう。

 人を遠ざけようとした俺が、オリービアを連れて行く判断をし、その結果が正しかったというのは皮肉だな。

「出来ました!」

 薬草は両手程の草団子に仕上がっている。
 俺はあれを食べろと言われても、・・・抵抗があるな。

「苦いですけど、これを飲み込んでください」

 ガルムの母親はゆっくり目を開け、目の前にいる薬草の汁と汚れが付いた、少女を見ている。

 朦朧もうろうとした意識の中で、それが自分を助けようとしている存在だと感じたのか、ゆっくり口をあけて放り込めと言わんばかりに待っている。

 俺は再びバケツに水を満たし、オリービアの横に立って流し込む準備をした。

 オリービアがなるべく口の奥に投げ込み、それと同時に水を流し込む。
 あっという間に飲み込まれた草団子。
 拒否反応もなく口は閉じられ、伏せたガルムの母親は意識を手放したようだった。

「母上!」

「意識を失ったようです。後はガルムさんのお母さんが持つ、生命力に賭けましょう」

「奥方・・・感謝する」

「ルシファー様の妻として、当然の事をしたまでです」

「おい・・・今何て言った?」

 俺の問いに、オリービアは何も答えない。

 オリービアは疲労が頂点に達したのか、俺に一言断りを入れ、いつの間にか惰眠を貪っていたうさぎの背で仮眠を取りだす。

 ガルムは母親に寄り添い、自分の顔を母親の胸に当てて心臓の音を聞いているようだった。

 俺も少し休む事にし、座り込んでから照明代わりにしていた白熱化した刀を、サイコキネシス<念動力>で空中に固定する。

 すると土台の無いランプのようにする事ができ、意識を外しても刀が落ちてくる事は無かった。

 それを確認した後、洞窟の壁に寄りかかりそっと目を閉じる。



 どれほど時間がたったのか、ガルムの声で目を覚ます。

「母上!」

 目を開けて顔を上げると、そこには犬座りをして高く顔を上げている、ガルムの母親の姿があった。

「貴殿等が、私を助けてくれたのか?」

 俺はちょうど、うさぎと一緒に起き出したオリービアを、何も言わずに指差す。

「良かった! 元気になったんですね!」

 駆け寄るオリービア。誰かの母を救ったという事で、とてもうれしそうに見える。

「世話になったな人間よ。では・・・そちらの黒衣の方は?」

「そちらの御方は我等を助けるために、道具を創造し水を用意して頂いた方です」

「そなたからは、ただならぬ力を感じる。人の身でありながら神に近い力を持つ者。そのような方が助けとなってくれたとは、何たる光栄」

「そして母上に良薬を作って下さったのは、そちらに居る御方の奥方であります」

「これはこれは、恩人であり御方の奥方に、人間などと無粋な呼び方を。失礼致した」

「お気になさらず。妻として当然のことをしたまでです」

「だから・・・何で、勝手に結婚した事になってるんだよ」

 嬉しそうに照れるオリービアを、温かい目で見守る神狼族の親子。
 そして問いかけを無視される俺。何か俺の扱い酷くないか?

「して、そこのうさぎは今宵の食べ物か?」

「はい。母上に食して頂きたく」

「違うよ! 僕はここにいる人間を、ガルム様の元まで案内したんだよ!」

 良かった・・・もっと扱いが酷い奴がいたな。

「・・・もういい。回復したのなら、ここに来た本来の目的を話させてもらう。俺達は君等親子の狩猟、もしくはここから立ち退いてもらう依頼を受けて来たんだ」
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