異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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4章 新たな依頼そして黒き獣

4.7 黒き獣の申し出を受けた話

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「つまり、御方の目的を達成する為には、私とガルムがこの地を離れなければならないと」

「断られる場合、君等を狩猟しなくてはならない」

「いくら力を持つ方でも、神獣に勝てると思うなど、奢りが過ぎるのではあるまいか?」

「母上、我は御方との戦いに敗北したのだ。奢っていたのは、我の方であったのです」

 表情が豊かではないが、ガルムの母からは驚愕の意を感じる。
 それほど人間に負けたのが、あり得ないことなのだろう。

「なんと・・・ガルムはまだまだ子供。成体の力には及ばないまでも、神狼族の神力じんりょくは充分に行使できる。それに打ち勝つとは・・・」

 神力? あの衝撃波の事か。あれも名前通りの神に近い力なのか聞きたいが、今は先に話す事がある。

「話が逸れている。どうなんだ?」

「恩人の要望である。私達はこの地より去ろう」

「それは良かった」

 合意がなされたので、これで依頼は達成といったところか。
 面倒な事にならずに済んだな。

 まだ気になる事があるが。

「最後に聞かせてくれ。お前らは本来、毒に侵されることなどないのだろう? それが何故こんな事に?」

「その通り。肉体も体毛も強固でありますがゆえ、人の矢など弾き返すのが普通。にも関わらず私の体に突き刺さり、この身を毒に侵した」

 ガルムの母は、そう言いながら矢をくわえて差し出してくる。

 それは矢尻に返がない分、万年筆のように溝があり、そこに毒液を蓄えられるようになっている。
 そしてこの矢尻は僅かに青みがかっている事から、神鉄で出来ている事も分かる。

 神鉄であれば、神獣の体に傷をつけられるということなのかもしれないが、毒はどうだ? 神鉄を使えば毒に侵せるというわけではなさそうだが。
 そうであれば、神獣にも効果がある毒を作り出せる者が居るという事であり、加えて神鉄の加工ができる者でもある。

 人が絶対勝てない存在である神獣への襲撃、そして神鉄の矢と神獣を侵せる毒が使われた事を考えると・・・一連の出来事はそれらが本当に効果があるか試す、実験だったと考えるのがいいかもしれない。

 神に近い存在を殺せるかの実験。
 もしかしたら、これが神の言う世界を救えと言う事と、何か関係があるのかもしれない。
 賭けに勝つには関わらない方がいいのだろうが、そもそも俺にも害ある存在なのか確かめる必要がある。
 調べる事自体は、必要であり問題ない事かもしれないな。

「お前らの元いた場所というのは、ここから遠いのか?」

「この森林より西方へ私達の足で3日程の所にある、神力の森という神獣が多く住む森であるが」

「神力の森・・・確かゴモラの近くにある、神聖地とされている森ですね」

「知っているのか?」

「旅人の冒険譚の本で見ました。バビロアからゴモラまでは、馬車では5日程でしょうか」

 今回の報酬で、街を出るのに充分な金になる。
 この件を調べる為にも、旅の目的地はゴモラが丁度いいだろうな。

「母上、お願いしたいことが」

 ガルムは伏せをして、母親に最大限の敬意を示す。

「御方は我らの故郷に向かう御様子。我は御方に仕える事により、此度の恩をお返しするとともに、襲撃から我らを守る為に止まり戦った父と、離散した一族を捜そうかと」

「よくぞ言ってくれましたね、わが子よ。必ずや御方に恩をお返しし、父と一族を探し出しなさい」

 ガルムは俺に向き直り、俺の返事を期待している。

「如何か、ガルムをそなたの従者として迎え入れてくれぬか?」

「構わないぞ」

「え!?」

 オリービアの驚きの声が、突然洞窟にこだまする。

「何の”え!?”だ」

「私の時はあんなに・・・仲間に入れるのを渋っていたのに・・・」

「そういえばそうだな」

「何故今回は快諾してるのですか?」

「多分だが・・・人間じゃないからか?」

 自分で納得してしまったが、俺は人間を信用していないだけで、別に全ての生き物に嫌悪を抱いているわけではないからな。

「分かりました・・・旦那様の意向に従います」

「誰が旦那様だ」

 腕にしがみついて離れようとしないオリービア。
 怒られないからと、段々大胆になってきたな。

「御方よ、わたくしから1つ、御頼みしたい事があるのだが」

「聞こう」

「この地に留まる事を、お許し願いたい」

「それでは依頼達成にならないのだが」

「御方のお話ですと、ガルムを依頼元に連れて行き、御方の従者になったと進言頂ければ、今回の依頼内容は達成できると見受けられる」

「それは・・・その通りだな。目撃されているのはガルムだけだから、あんたがいる事を組合は知らないわけだし。それにしても、どうして留まりたい?」

「今だ弱った身ゆえ、襲撃者から隠れながら、他の住処を探すにはやや不安が残るのと、これよりガルムと別れてしまうと、再会する事が難しくなってしまう故」

「人間に見つからないように出来るのか?」

「それは問題なく。そもそもわたくしたちがこの地に来るまで、誰にも見つからなかったからこそ、ガルムが自ら人間に接触するまで、存在が知られることが無かったので」

「それであれば問題ないだろう。また依頼書が貼りだされても面倒だ。見つからないようにしてくれ」

「ご心配なく。どうかガルムをよろしくお頼み申す」

 深々と頭を下げられる。神獣からこういう態度を取られると、流石に気が引けるというものだ。

「ではもう行くとしよう。今日中にはバビロアに帰って報告したい」

 オリービアは余った薬草と道具を鞄にしまうが、バケツだけが入らずどうするか確認してくる。
 俺は受け取ったバケツに再度水を満たし、ガルム母の顔の前に置く。

「あんたの体のサイズからは、気休め程度しかならないが、少しは水分を取っておくと良い」

「充分にございます。重ね重ね、このご恩は忘れません」

 背中を向けて洞窟の出口まで歩きだし、方手を上げてあいさつ代わりにする。

 あ・・・忘れていた。

「起きろ、うさぎ」

「痛いよ!」

 再び惰眠を貪っていたうさぎのヒゲを引っ張り、強引に起こす。

「帰るぞ」

「分かったよ。でももっと優しく起こしてほしいよ」

 トボトボと音がしそうな歩き方で、うさぎは外に向かう。

 空中に浮かしたままにしていた、電球と化した刀を回収して出口に向かう。

 外の明かりが見えた頃、刀の白熱化を解除したが、刀身はあっという間に温度が下がり、青みがかった神鉄の見た目に戻る。
 長時間の過熱でも変形もなければ、溶けてしまったところもない。神鉄を作り出せれば、もっと多くのことが出来るのだろうが。

 一応刀身の温度を確かめて、鞘にしまい洞窟を出る。

 日の位置を見ると、もう午後ではあるようだ。
 時計が無いと不便だが、バビロアを歩き回っていても時計が売っている店は無かった。
 この世界の人たちは、正確に時間を計り生活しているようではないから、ある意味では必要ないのだろうな。
 太陽が昇れば活動し、腹が減れば食べ、日が落ちれば寝る。
 ある意味動物というか、人間の自然な生き方なのかもしれない。

 とりあえずは組合が閉まる前に帰るか。
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