異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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5章 発明士との出会いそして旅へ

5.2 発明士の手伝いをする話

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「実は、新しい荷馬車を創って欲しくてな」

「発明のご依頼ですと、もうお受けする事は出来ませんです」

 淡々と書いている設計図から目を離さず、顔を下に向けたまま話をし続けている。
 このままだと、セミロングの黒髪が横顔も隠しているので、表情どころかまともに顔も見えない。

「どうしてだ?」

「この工房の主人、レオハルドは2日前に死にましたです」

「タイミングが悪かったか・・・。ところで君は?」

「あたしは、レオハルドの一番弟子です」

「じゃあ今は君が、ここの切り盛りをしてるのか?」

「一時的にはそうですが、師匠が死にましたので最後の仕事を終えたら、工房は閉鎖する予定です」

 羽ペンの動きが止まる。辛い事を聞いてしまったか・・・。

「そうか・・・。ところで随分と面白い設計をしているな。これは・・・ボウガンのようだな。螺旋状に矢が装填されているマガジンを下部に取り付けて、空気の力で矢を押し出してから、その力を連動させて弦を引き下げて、連射を可能にしているといったところか」

「分かるのです!?」

 女の子が初めて顔を上げる。

 あどけない顔だが、オリービアにも劣らない顔立ちだ。
 将来は美人になるであろうと、思わせるには充分だ。
 前髪は真ん中で分けられ、そのまま耳にかけられているのか、さほど邪魔そうではない。

「見れば何となくな」

 工場でバイトをしていたから、こういうのは見慣れているだけだが。

「師匠以外で、分かる人は初めてです!」

 急激にテンションを上げた女の子は、先ほどまでとは一転して満面の笑み、とても喜んでいる。

「そのマスクも凄い出来です。つなぎ目が全くないです!」

 このマスクが褒められたのは初めてだな。やれやれ、話しが逸れてしまっている。

「これ程の物が書けるのであれば、君でも依頼を受けられそうだが」

「私に出来るのは設計までです。完成させるのに必要な部品を作る技術を、師匠にまだ教えてもらってないです」

「つまり、部品さえあれば君でも創れるという事か?」

「言葉で言うのは簡単です。でも、それが他の人に出来ないから、師匠は万能の天才と言われたです」

「万能の天才?」

「師匠は発明の為に、何でも知識を得ていたです。人間の体はどうなっているのか、物はどうやって飛ぶのか、違う物質同士を混ぜるとどうなるのか。師匠が発見したものは、数知れないです」

 なんか俺の居た世界にも、万能の天才と言われた画家がいたような。レオハルドという名前も似ている。

「それに今はこのオートボウガンを完成させて、街の商人に納品しないといけないです。もう師匠はお金を受け取ってしまっていると、昨日その商人の使いがここに来たです」

「出来そうなのか?」

「設計はあたしでも出来るです。でも・・・これを組み立てるための部品を作る事が出来ないです」

「じゃあその部品を俺が作れたら、荷馬車も創ってくれないか?」

「あなたにそんな事が出来るです?」

「物は試しだ」

 女の子は希望を手に入れたとばかりに、期待を込めた目で見てくる。

「そのマスクは自分で創ったです?」

「そうだ」

「お兄ちゃんなら、出来るかもしれないです」

「まずは設計図を描き上げて、必要な部品の指示をくれ」

「了解です!」

「所で君の名前は?」

「サラーです。おにいちゃんのお名前はなんです?」

「ルシファーだ」

 サラーは手を伸ばし、握手を求めてくる。
 手を握ると、そのあまりの小ささに驚く。こんな小さい子が師匠の仕事を引き継いで、これだけの設計図を描きあげようとしているのは、素直に尊敬してしまう。



「ルシファー様、あの子凄いですね」

「間違いなく天才の部類だな」

 邪魔にならないように工房の外に出たが、オリービアの関心はまだサラーにあるようだった。

「私は設計図とやらを見ても、理解できませんでした。ルシファー様が何を言っているのかも」

「知っていれば理解も出来るが、知らなければ怪文書になる典型な例だと思うがな。レオハルドとサラー以外には、理解できないのが普通だと思うが」

「ルシファー様も、理解されていましたよね?」

「偶然だ」

 工場でバイトしていた経験が、こんなところで活かされるとは。
 学校での勉強も、いろんな経験も、どこで役に立つのか分からないな。

 芝の斜面に寝転がり始める俺の横に、静かにオリービアは座る。

 ガルムとルルは自分で、自分の飯を探しに行っている。

 そういえば真昼間に、こうしてオリービアと2人でのんびりするのは初めてじゃないか? 後オリービアが、徐々に近づいて来ている。

 近づくオリービアに対し、転がって一定の距離を保ち続け、悔しそうにするオリービアを眺めて暇をつぶす。
 小一時間程待ち、サラーは設計図と、各部品の素材と大きさを記載した紙を渡してくる。

 さて、俺のゲネシキネシス<創造力>でどこまで出来るか。

 工房に入り、部品が書かれた紙を机に広げる。

 そこに書かれているのは、スプリングやネジ、鉄のフレームが主だな。

 他の細かいのを合わせると、それなりの数になるが。

「大きさはこれを使って下さいです」

 この工房で使われている、オリジナルの定規であろうものを渡される。
 この世界の文化レベルとしては、こういった面の共通化はされてないのだろうか。

 大体のサイズは把握できたし、早速試してみるか。

 手のひらを下にして前に出し、出来あがる部品のイメージを、大きさと材質も含めて徐々に鮮明にしていく。

「お兄ちゃん凄いです!」

「ルシファー様!」

 机の上に徐々に部品が創造され始め、時間にして5分も立たず、すべての創造を終えた。

 創造された部品を1個ずつ、丁寧に確認するサラー。

「完璧です! これなら完成させる事が出来るです!」

 あっという間に部品を組上げて、徐々に形が創られていく。

 瞬く間にオートボウガンは完成し、サラーは手で持つ大きさの、空気入れのような物を取り出して、オートボウガンに繋げて空気を充填している。

「出来ましたです!」

 持ち上げて構えるが、それなりに重量があるからか、若干ふらついている。

 サラーと一緒に外に出て、かまど用の木を離れた所に立てて、サラーはそれに狙いを定める。

 引き金を引くと、ペン程のサイズの鉄の矢が連続で放たれ、置かれた木はあっという間にサボテンのようになった。

 カチンという音を鳴らせ、グリップ部分のスイッチを切り替えると、今度は引き金を引くたびに単発で矢が飛び出すようになる。

 こんな切り替えも出来るように設計していたのか。正真正銘の天才だな。

「ありがとうです。これで師匠の最後の仕事も完了です」

「師匠の仕事じゃないだろ。サラーが自分でやり遂げたんだ。お前の発明品だ」

「おにいちゃんは優しいです」

 優しいかどうかわからないが、少なくとも頑張っている子供に対し、流石の俺も抱く嫌悪など無いというものだ。

「ご主人!」

「主よ、戻ったぞ」

 ルルとガルムも戻ってきたようだし、約束通り荷馬車を創ってもらうか。
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