異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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5章 発明士との出会いそして旅へ

5.4 発明士と一緒に納品した話

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 「あたしは昔から、いろんな物が頭に浮かんでそれを絵に描いたり、それを元に物作りばっかりしていたです」

「昔から才能があったのね」

 オリービアが一転して優しい目をしている。こいつはこういう話に弱そうだからな。

「でも、友達は出来なかったです」

「どうして?」

「あたしはみんなからすれば、奇妙な絵を描いている、変わった子だったからです。誰もお話してくれなかったです」

「いじめを受けたの?」

「いじめられてはいなかったです。でも無視されるのは、いじめられるより辛いです」

 ルルの奴、耳を立てて話を聞いてやがるな。
 この程度の話にそんなに興味あるか? 学校ではいじめられ、家では基本無視だった俺にとっては、対した事のない話にしか聞こえないが。

「でも3年前に、師匠が引き取ってくれたです。”君には才能がある”って言われて。それからは師匠の工房で、出されたお題の設計をして、修行していたです」

 才能ある者に拾われ、大切にされていたんだ。・・・充分幸せな人生だろ。

「先ほどのオートボウガンもそうだが、お前は充分に設計は出来るように見える。何故製造の指南を受けられなかったんだ?」

「毎回お願いしても、断られたです。あたしにはまだ早いと言われたです。早く一人前になりたくて、焦ってしまったかもです」

「素人ながらそうは思えなかったが」

「危ない作業だから、もうちょっと大きくなってからと言われたです。見て覚える事も出来なかったです。師匠は隣の工房で製造をしていて、あたしは絶対に入れてくれなかったです」

 修行ってそんなものなのか。
 そういえば、飯炊き3年握り8年なんて言葉もあるくらいだからな。
 そう考えると、恐ろしい時間の使い方をするもんだな。職人というのは。

 そんな雑談をしているうちに、バビロアの荷馬車屋の所まで戻ってくる。

「3年ぶりのバビロアです」

「お前どんな生活してたんだよ」

「師匠に外に出るなと言われていたのです。でもお金も持ってなかったので、街に行く理由が無かったです」

「何で外に出るなと言われたんだ?」

「あたしの独創性や、発想力が失われるからだそうです」

 妙だな・・・。そもそも孤児院に居た時から、才能あふれる状態だったのではないのか。今更街に行ったからといって、失われるものでもなさそうだが。

「小遣いは欲しくなかったのか?」

「正直欲しかったです。あたしも・・・かわいい服を着たり・・・したいと思ったことがあるです。でも、これ以上の生活を望むのは・・・失礼だと思ったです」

 出来た子じゃないか。こんな子を弟子にしたレオハルドは家宝もんだな。

「そういえばレオハルドは、師匠は何で死んだ?」

「ルシファー様・・・」

 再びオリービアが、お前は空気が読めないのかと、言わんばかりの呆れ顔で見てくる。

「バビロアから帰る途中に、夜道で馬車に轢かれたそうです」

「随分淡白な言い方だな」

「正直言うと、必要最低限の会話しかしていなかったです。親類を失ったような悲しさは無かったです。あったのは唯一の、自分の居場所を失ったような損失感くらいです」

 干渉されないという意味では、俺と同じような、人からの愛を感じたことが無いということか。そう思うと、俺の小学生時代によく似ている気がする。

 誰かの愛を渇望してはいるが、それは自分には手に入らないと思っている、諦めの心を持っていた時期。こいつの孤独感は、俺もよく知るものだったという事か。

「おにいちゃん・・・」

 気がつくと自然に、サラーの頭を撫でている自分がいた。

「ルシファー様! 私もお願いします!」

 いちいち張り合うのはどうかと思うぞ。こんな子供に。

 それに・・・俺の中に僅かな変化を起こしたのはお前だ。こういう行動に出てしまったのも、お前が原因なんだぞ。

 思ったよりも騒がしく、荷馬車はバビロアの街を進んでいく。



「ここです」

 やっと大商人の屋敷に着いたが、見た目が如何にも成金が住みそうな、どことなく下品な屋敷だ。
 豪華さを極めて、機能性を排除した屋敷なんだろうな・・・。またろくでもない奴な気がする。

「コジモ様にご注文いただいた品を、お届けにあがりましたです。レオハルド工房の者です」

 門を守る剣を携えた警備兵に、サラーがそう告げる。それを聞いた警備兵は一旦屋敷に向かい、数分後に出てきて門を開けた。

 ルルに荷馬車をゆっくり引いてもらい、正面玄関の前で止めてもらう。
 そのままガルムとルルは外で待っててもらう事にし、開かれた扉から俺とオリービアとサラーだけが中に入った。

「よくぞ来られた。まさかと思ったぞ」

 メイドを侍らせて、赤いローブに身を包んだ痩せた男が立っている。

 こいつがコジモって奴か。

「レオハルドが亡くなり、あたしが代わりに納品に来たです」

「君が噂の一番弟子か。会った事が無かったが、将来有望な美人だとは思わなかったな」

 下卑た笑いをする奴だ。それにレオハルドが死んだ事に、何の言葉もないのか。

「私の自室で話そう」

 コジモに案内され、多くの芸術品に囲まれた絢爛豪華な部屋に通される。

 絵画に彫刻、金の力を惜しみなく使わなければ出来ないことだ。

「かけたまえ」

 椅子が3つ用意され、机をはさんで座る。

 このコジモという奴、何で俺達に触れないんだ? サラーの警護だとでも思っているのだろうか。

「こちらになりますです」

 サラーはコジモの机に、巻いた布を解いてオートボウガン置いた。

「素晴らしい出来だな・・・」

「こちらで空気を入れて使ってください」

 手押しのポンプも渡し、細かい使い方を聞いているコジモ。

 やはり違和感がある。

 こいつはまるで、レオハルドがいなくても、サラーがこれを完成させる事が出来ると思っていたような感じだ。

 サラーのところに手下を寄越し、発明を続けさせるよう打診するのは、あまりにも不確定要素が多すぎないだろうか。

 報酬を回収して、他の手段を考えるのが普通だと思うが。

「では以上で依頼完了です。帰りますです」

「待ちたまえ」

 コジモの雰囲気が僅かに変わる。

「なんです?」

「これを見てくれるか?」

 コジモは立ち上がり、棚から手のひらサイズの置時計を出してくる。

 この世界に時計ってあったのかよ。

「これは・・・あたしが、課題で設計した時間測定回転針です」

 サラーが驚いた目で、出された物を見ている。

 何故かまた、面倒な事に巻き込まれてしまったようだ。
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