異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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5章 発明士との出会いそして旅へ

5.5 発明士の真実を知った話

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「これは1日を24分割にして、今を針で教えてくれる発明だ」

 24時間表記にしているが、これは時計だな。

「それはあたしが、師匠の課題で設計したものです。なんで持っているです?」

「これはな、私がレオハルドに依頼したものなんだよ。因みに、これは見覚えがあるかな?」

「それは・・・方位指針器です」

 どう見てもコンパスだな。

「ではこれは?」

「文章入力機です・・・」

 これは・・・確か歴史の授業で見たな。そうだ、タイプライターだ。

「これは何かな?」

「インク自動付加羽ペンです・・・」

 どう見てもボールペンだ。

 その後も多くの発明品を出されたが、全てサラーが答えていく。

「コジモ様、これはどういうことです?」

「そうだね、そろそろ答えた方がいいだろうね」

 コジモは座り、頬杖をついて話を始めた。

「結論から言うとレオハルドは、君という道具を手に入れてから、君に発明をやらせていたのだよ」

 先ほどのサラーの言葉から察するに、課題と偽って自分が受けた仕事を、サラーにやらせていたのだろう。

「レオハルドは君を弟子に取る大分前から、いわいるスランプに陥っていてね。依頼を受けては発明出来ずに、違約金を払って資産を削る毎日。しまいには、期待はずれの天才などと言われる始末」

 サラーは黙って聞いている。

「迷走したレオハルドがどこで知ったか知らないが、孤児院に才ある子供がいると聞き、レオハルドが引き取ったのが君だ。あとは想像の通りだ。君に設計をさせて、製造は自分で行って富を得る」

「師匠はそんな事をしなくても・・・」

「君は発明のいろはを、彼に教わったかい?」

 サラーが俯いて喋らなくなってしまう。恐らく、コジモの言う通りなのだろう。

「だから君に部品を作る、製造の知識を教えなかったみたいだね。君が一人前になって出ていってしまっては、自分が食えなくなってしまうからね。あんな別の工房まで作って、君に見つからないように製造を行っているなんてね。極めつけはバビロアに行くのも禁じ、金も与えずに物欲まで抑えていたのだから」

「師匠・・・」

「部品の製造知識と技術が無い君が、オートボウガンを持って来た時は驚いたが、一緒に来た者を見て納得はしたよ」

 唇を噛むサラー。自分の信じていたものが、崩れていっているのだから当然だろう。
 尊敬していた人に搾取されていた現実は、11歳の子供には酷い事実だろうな。

「おい」

「これはこれは失礼した。ルシファー殿」

 俺の名前まで知っているのか。

「”一緒に来た者を見て納得した”というのは、俺の事か?」

「もちろんですよ。あなたにどうにかして接触し、レオハルドの工房に行ってもらうつもりでしたからね」

「一応理由を聞いておこうか」

「あなたは何かと話題の人ですからね。特に興味深かったのは、何も無い所に荷馬車を出現させた事です」

 何故それをとも思ったが、俺のゲネシキネシス<創造力>を目撃した人間は、オリービアと騎馬騎士隊とサラーだけだ。

 荷馬車を創造したのは騎馬騎士隊の隊長が見ている前、あいつなら情報を売って儲けようと考えてもおかしくない。

 オリービアとサラーに関しては疑うまでもないしな。

 今後騎馬騎士隊の隊長に会う機会があったら、二度とこんな事をしないように、体に教え込んでやるか。

「騎馬騎士隊の隊長から、情報を買ったといったところか」

「ご名答です。そこであなたが市場に処分を依頼した、荷馬車を取り寄せたのですよ。いや~、実に素晴らしい出来でした」

 自分で処分するべきだったか。こんな利用のされ方をするとは思わなかった。

「溝の掘られた柔らかい物で作られた車輪、地面からの衝撃を吸収する伸び縮みする鉄、鉄と鉄を止める回す釘。これら自体が全てレオハルドの発明で、レオハルドにしか製造出来ないものだ。それを無から作りだす、不思議な黒衣の男」

「なるほどな。そこで俺とサラーを組ませれば、製造が出来ると思ったんだな」

「そうですよ。ですが、私が動く前に望んだ結果になったのは、とても素晴らしい事です」

「話が回りくどいぞ。とっとと俺とサラーを組ませた本当の理由を言え」

「あなたは聡明ですね。それとも人を信用していないのですか?」

 後者だよ。特にお前のような奴はな。

「今隣国で戦火が広がっているのは、ご存知ですかな?」

「ヤブコの事か。新興宗教と旧宗教で内戦をしているそうだな」

「そうです。そこで武器の需要が、とても伸びているわけですよ」

「なるほど、武器を量産して輸出すれば、金が大量に入ってくるわけだな」

 軍需産業と同じ発想か。戦争は金になるとは、良く言ったものだ。

「話の飲み込みが早くて助かるね。だが、既存の武器では買い手がつかない。当然、ヤブコでも作っているからね。そこでレオハルドの出番というわけですよ。いや、そこにいるサラーだったか。これは期待以上の物が出来上がったよ。今回発注する武器の概要は伝えていたが、まさか自動的に引き絞って矢が装填されるようになっているとは。さらに単発と連射の使い分けまで」

 興奮を隠しきれないようで、舐め回すようにオートボウガンを観察している。

「これなら大量に売れるだろう。ただちに量産をする必要があるな。どうだろう、2人でオートボウガンの量産と、新たな武器の発明をしてくれないか? そうだな・・・オートボウガンは1つにつき銀貨10枚、新たな武器の発明は、その度に金貨10枚でどうだろう」

「断る」

「・・・何故だね?」

 雰囲気が変わったな。明らかな不快感が伝わってくる。

「俺は狩猟をすればもっと稼げる。何故、そんな非効率的な事をしなくてはならない? それに俺はもう街を出る」

「なるほど。・・・ならば仕方ない!」

 ゴジモはオートボウガンを構え、サラーに向けて矢を連射し、俺は咄嗟に射線上に手をかざして、放たれた矢を全て空中で止めた。

 それを見たコジモは、俺とオリービアまで狙いだし、即座に力の範囲を広げて、全て空中で止める。

 矢がなくなるまで連射は行われ、最後に弦だけが揺れる音がし、トリガーを引く乾いた音が続いた。

 矢がなくなった事を確認し手を下すと、目の前に作られた矢の壁は、一斉に地面に力なく落下する。

 サラーはそれと同時に俺の後ろに隠れ、オリービアは俺の横に並びレイピアを抜いて構える。

「な!?」

 矢が落ちきると、オートボウガンを構えたまま、信じられない物を見たという顔をしたコジモが現れる。

「何の真似だ?」

「おまえ・・・何をしたんだ!?」

「お前が知る必要は無いだろ。俺の質問に答えろ・・・何の真似だ?」

「こ・・・これは・・・」

 当然だが、この状況は想定していなかったのだろう。だから言葉が上手く出てこないようだ。

 俺は地面に手をかざし、矢を1本だけ浮かび上がらせて、コジモの左肩に飛ばして突き刺す。

「ぐあああ!」

 鈍い声で苦痛を上げ、オートボウガンを落して数歩後ずさる。

「答えろ」
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