異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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6章 脅威と勧誘そして次の街へ

6.3 魔術師と決着をつけて出発した話

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 魔術師が両手を広げ、独特な動きで魔法陣を空中に描き出す。
 呪文の詠唱や杖等の道具は必要ないようで、どうやら魔法陣を描けばいいだけのようだ。

 それにしても遅いな。この間に斬りに行ってもいいのだろうか。

 魔術師に付き合う必要は無いので、走り込み間合いを詰めて刀を振り下ろしてみると、魔術師を包み込むように球状の魔法陣が出現し、刀は鉄を叩いたかのように弾かれてしまう。

「このローブに付与している魔法陣です。物理攻撃を無効化します」

「ではその魔法陣はなんだ?」

「火炎を吹き出す魔法ですよ」

「楽しみだな」

 魔法陣が描き終わり、それ自体の光が強くなりだす。
 それを見て数歩下がり、方手を前にかざして、サイコキネシス<念動力>による見えない壁を作りだす。

「余裕のようですが・・・火炎に巻かれて後悔しなさい!」

 その言葉の後、火炎放射のように魔法陣から炎が噴き出すが、炎は見えない壁に阻まれ、空中に拡散して消えていく。
 勢いが収まり始め、魔法陣の輝きが消えると同時に、炎と魔法陣は消え去った。

「それが例の力ですか。面白いですね」

「お前は魔術師の中では、優秀な方ではないのか?」

「その通りですよ。やっと私の実力を理解したようで」

「ならば魔術師というのは、たいした事が無くて拍子抜けだ」

 歯を食いしばり、怒りをあらわにする魔術師。本当の事を言ったのだからしょうがないだろう。

「つまらないな。終わらせよう・・・同じ火の力でな」

「無駄ですよ、物質以外も同様に防ぐ魔法陣が付与されています。どうやらあなたの守りも、とても優秀なごようす。これではどちらが先に倒れるかは、根気の勝負になりそうですね。私は魔力量にも自信がある、とお伝えしておきます」

「一騎打ちの最中に、良くもまあ喋る奴だな」

 パイロキネシス<発火力>を発動させ、魔術師のローブの裾を発火させる。

「な!? 何だ!? 燃えている! うわああああ!」

 突然体に火が付いた魔術師はパニックになり、広がる火を消そうと奮闘している。

「貴様! 何をしたんだ!? 私の守りは完璧のはず! 消えない! 水の魔法陣を・・・ああ!」

 守りの魔法陣の発動条件が、剣を防いだ時と同じだとすると、外的要因にしか反応しないのだろう。
 魔法ではない神に与えられた力で、直接服に火を付けられるのは、守りの魔法陣の発動条件外という事か。
 これは良い情報を手に入れたな。俺の力は、魔法では防げないという事だ。

「私の負けです! 助けて下さい! お願いします!」

 ローブ全体に火が回り、絶叫して転がる魔術師。自信に満ちていた時と比べると、なんだか笑いそうになるな。

 とりあえず負けを認めたようなので、ハイドロキネシス<水態力>を発動して、魔術師が転がる所に水たまりを出現させる。

 転がる魔術師の火を消し、あたりに蒸気が漂うが、その中から火傷を負った魔術師が現れる。

 残念なことに、どうやら髪の毛は無くなったようだが。

 動けなくなった魔術師を、サイコキネシス<念動力>で騎馬騎士隊の隊長に向かって放り投げ、隊長の顔面が再び変形して、残った歯も抜け落ちたのを確認し、納刀して荷馬車に戻る。

「この決闘、我が主の勝利だ。文句はあるまいな?」

 ガルムが周りに威圧をかけ、何か言おうとしていた憲兵を無言のままにさせる。

 荷馬車に飛び乗り、オリービアの横に座ってルルに声をかける。

「起きろルル、行くぞ」

「う・・ん? わ! 分かったよ! ご主人!」

 ルルは起きて直ぐ走り出し、ガルムもそれに続いた。立ち去る俺達を見送る、憲兵を置いて。



 ルシファーと魔導士との戦いが行われた同じ頃、バビロアとゴモラの間にある森林。

「おや? 創造主と同じ力を感じますね。その力を発したものが近付いてきているようですが・・・」

 白の宗教服のような物を着て大木の枝に座り、毒を蓄えた矢じり携えた者が笑みを浮かべる。

「どうやら、創造主が探してらっしゃる者を、見つけられたようですね。創造主の為にも、お迎えにあがるべきですかね」

 枝から飛び降りた者は、その背に生える白鳥のような翼を広げ、大空に飛び立って行った。



 一方、街道をひた走る荷馬車では。

「やっと街から出られた。こんなに何日もかかると思わなかったな」

「そうですね、私のせいでもあるのですが・・・」

「お前を責めているわけではない」

「旦那様・・・」

 もはや隙あらば放りこんでくるな。金を渡したのに消える気配はないし、こいつ等はなんで着いてきているのだか。
 いや・・・俺はもう気づいているのかもしれない。でも・・・それを認められないだけなのかもな。

「まあ希少な存在の、魔導士と闘えたのは良かったかもな」

「ルシファー様の圧勝でしたね」

「おにいちゃんの戦う所、あたしも見たかったです」

「俺はお前の誘拐疑惑をかけられているからな。荷馬車から顔を出したら、あいつらの思う壺だったと思うがな」

「あたしが否定すれば問題ない気がするです」

「そうはいかないだろう。俺を有罪にする為の茶番だからな。どうせ真実なんて関係ない」

「噂には聞いてたです。この国の司法は本当に腐敗していたです」

 あの隊長から聞いてはいたものの、ここまでとは思わなかったな。
 半分は本当の話だが、貴族と商人の犯罪は無視。しまいには誘拐という捏造までしたのだからな。
 隣国の内戦に比べたら、真に人が心を病んでいるこの国の方が、危機に瀕しているのかもしれないな。

「ゴモラまでは馬で5日程度だったか」

「はい、ルシファー様。ですがこの速さなら、もう少し早く着くかと」

 ルルの走る速さは明らかに馬よりも早く、俺が飛ぶよりも早いのかもしれない。しかも息も切れずにこの速さを維持している。

 それにしてもこの荷馬車は凄い。ほとんど揺れないし、僅かな振動も上手く吸収している。

 そういえば、サラーに護身用の武器と、頼もうと思っていた発明があったな。
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