異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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6章 脅威と勧誘そして次の街へ

6.5 使いが迎えに来た話

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「ガードの部分も刃になっているです。これで貫通する時も問題ないです。刀身も切断に支障が無い状態に保って、薄く細くしているです。これで剣の切断力と槍の突く力を両立しているです。リトグラフであれば、この形状でも折れたりする心配はないです」

 ガードというのは刀の鍔に当たる部分か。鳥が翼を広げたような形状で、刀身から続いて刃が付いているから、そのまま貫通出来ると言う訳か。

 確かに刀身が細いが、普通の剣とレイピアの間くらいといったところか。

「背中に取り付けられる、これ専用の鞘を考えてくれないか? 出来れば6本納まるような」

「6本です!? おにいちゃんの手は2本しかないです!」

「上手くいくか分からないが、この全てを操る方法があるかもしれないんだよ」

「見てみたいです!」

 鞘の設計も簡単にしてくれて、背中に取り付ける部分はリトグラフで作った骨格で、肩と腰を挟むように留められるようになっており、そこに斜めに3本ずつ、クロスする形で鞘がある。剣を鞘に入れた状態で正面から見ると、両肩から剣の柄が刺のように伸びているように見えるわけだ。

 剣と鞘を創造し、早速背中に取り付けて見る。

「これどうやって剣を取り出すです?」

「それも込みで実験だよ」

「分かったです」

「ありがとうな、サラー」

 頭を撫でると、堪らなく嬉しそうな顔をする。

 俺は頭を撫でられたことが無い。正直、今喜んでいるサラーの気持ちは分からないが、何となく伝わるものがある。

 未だにオリービアもサラーも、俺に出来ない事を補う要員という、認識以上のものが生まれない。

 俺が人を信じられるようになったら、この世界は救われると神は言った。
 だが女性に慕われても、おにいちゃんと信頼を寄せられても、俺は何1つ変わっていない。
 美少女に好意を寄せられれば嬉しいだろう、子供に懐かれたら可愛がるだろう。そんな普通の事が俺には出来ないし、しようとも思わない。

 大なり小なり、ヴァリアブルハンターズにいる人間は、まともな人生を歩んでいないからか、どこか常識から逸脱した壊れた部分を持っている。
 オリービアは俺の加虐性を見ても逃げなかった。サラーはコジモを暴行する俺を見ても、優しさを見せた。

 だが・・・オリービアは人を愛する心を持ち、サラーは他人を思いやる心を持っている。
 でも俺には何も無い。人の為にしているように見える事は、全部自分の為にやっている。

 神よ、賭けは俺の勝ちで終わるだろう。この世界は救われない。

「おにいちゃん?」

「・・・何でもない」

 考えを巡らせていた間、手は動きを止めて、サラーの頭に置いているだけの状態になっていたようだ。

「おねえちゃんのは作るです?」

「オリービアは現状戦闘要員ではないし、剣も鎧もある。お前のように護身武器を用意する必要もないだろう」

「分かったです」

 その時、荷馬車が急ブレーキを踏んだように止まる。
 前方に飛ばされるサラーを受け止め、前方の縁に掴まって踏んばる。

 オリービアがどうなったのか分からないが、吹き飛ばされていない事を祈るばかりだ。

 荷馬車が完全に停止するのを待ち、蛇腹の扉を開けて外の様子を確認する。
 オリービアは飛ばされたようだが、ルルの柔らかい背中に落ちたようで、毛にしがみつき難を逃れている。

「ルシファー様!」

「その状況で聞くのも何だが・・・無事か?」

「はい!」

「何があった?」

「ガルムさんが急に前に出て、荷馬車を止めたのです」

 オリービアの言う通り、こちらに尾を向けて唸り声を出しているガルムがいる。
 馬車を飛び降り、ガルムに近づいて理由を確認する。

「何があった?」

「主よ、お許しを。こうするしか無かったのだ」

「だから何があった?」

「あいつが、現れたようなのだ」

 ガルムの視線の先、街道の真ん中に佇む・・・人? それがゆっくりと歩いてくる。
 いや・・・あれは人ではない。背中に見えるのは翼か? それにあれは、神の着ていた服に似ている。
 その姿は、宗教絵画に描かれている、聖なる存在に似ている。

 そうだ・・・あれはまさに、天使のようだ。

「お初に御目に掛かります」

 神聖な雰囲気を感じさせなが、軽く会釈をしてくる天使らしき存在。
 中性的な顔で、男なのか女なのかも分からない。セミロングの金髪で、金色の瞳をしている。

「まずは確かめさせて頂きます」

 そう言った後、人では到底出来ない速さで弓に矢をつがえ、引き絞って矢を放つ。
 とっさに手をかざして矢を空中で止めるようとするが、矢は止まる事無く飛び続ける。
 それに驚いている時間すら無く、すんでの所で刀を抜き矢を弾いた。
 弾かれた矢は、弧を描いて力なく地面で金属音をたてた。

 自分の力が通用しないのは初めてだ。神から与えられた力が、通用しない存在がいるのか?
 この世界で初めて味わう、戦闘の緊張感。だからこそ、攻撃してきた理由を確かめなければ。

「いきなり何をする?」

「確かめたかったのです。創造主の預言された方なのか」

「なんの話をしている?」

「私の名前はガブリエル。お迎えにあがりましたよ」

 ガブリエルと名乗ったそれは跪き、翼を広げて微笑んだ。
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