異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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6章 脅威と勧誘そして次の街へ

6.6 使いに攻撃された話

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 ガブリエル・・・どこかで聞いた事がある。

 そうだ、前の世界の聖書にいる、啓示の大天使だ。

 自分の名前の由来を調べようとして、図書館で読んだ聖書に書かれていた、神の使い。

 風貌といい、名前といい、こいつが俺の知っている聖書のガブリエルならば、俺の会った神が、俺を迎えに来させたという事になる。

「先ほどお使いになったお力、私の創造主と同じ力とお見受けしました。もはや創造主が預言された方に間違いありません。共にに参りましょう」

「創造主・・・ああ、あの爺さんの事か。俺を送り出しておいて数日で戻って来いとは、何を考えているのか」

「爺さん? どちらの方の事でしょうか?」

 どういう事だ? 俺が知っている神とは違うのか? 聖書によれば、天使は神が創造した使いのはず。

「お前を生み出したのは、神ではないのか?」

「神とは人が呼ぶ時の言葉。私達は、敬意を込めて創造主と呼びます」

「その創造主の見た目は?」

「偉大なる御方。その姿を語るなど、恐れ多く」

 話がかみ合わない。恐らくだが、人と超常の存在での認識の差なのかもしれない。

 物事の認識が違いすぎて、会話にならない。

「どうやら俺の知っている神と、お前を創った神は違うようだな」

「創造主が他に居る筈は、無いのですが」

「何?」

「私達大天使を創造せし方は、たった御1人。人の言葉を借りるのであれば、唯一無二の神になります」

 神は唯一無二・・・聖書にもそう書いてあった気がする。そして天使は、唯一の神に創られた存在だと。
 こいつの言ってる事が本当だとしたら、俺の会った神は・・・本当に神なのか?
 神は複数いるのか、それとも・・・俺があったあの爺さんは、神ではなかったのか。 

 とりあえずこいつは、俺が会った自称神が言っていた”世界を救う”事に関係があるのは間違いないだろう。
 人を信用できるようになれば救われるとは、天使を信用して着いて行ってはいけないという、解釈になるのではないだろうか。
 ダメだ・・・推測の域を出ない。あまりにも、分からない事が多すぎる。

「何故、お前の創造主は俺を呼んでいるんだ?」

「あなたは創造主と共に、人々をこの腐敗した世界から救う、偉大なる救世主、メシアをお創りになるのです。そう創造主が預言されたのですよ」

 人々を救う救世主を創ろうとしている創造主・・・聞いていると、悪い奴という印象は受けない。
 寧ろ、天使を使役している存在として君臨する、まさに神という存在だと感じる。 

「お前の創造主は、どこにいる?」

「人間の物差しで測るのなら、隣国で人々を救い、守り、間違った信仰を正しております」

 そういえば騎馬騎士隊の隊長が、隣国ヤブコで新興宗教と旧宗教が内戦をしていると言っていた。こいつは、その新興宗教側の天使ということなのか?
 だとすれば、新興宗教側の頭は本物の神、という事になるのではないだろうか。

 ・・・ここで考察をしていてもしょうがない。ここはガブリエルに付いて行き、早めに正体を確認するべきなのかもしれない。

「・・・お前の創造主の元に、案内しろ」

「素晴らしい、創造主も御喜びになられます」

 未だ跪き続けているガブリエルは、そのまま深々と頭を下げる。

「なりません! 主よ! こやつは、我等神狼族を襲いし者! 貴様の矢じり、間違いなかろう!」

 ガルムの言うとおり、転がっている矢を見ると、ガルムの母に刺さっていたのと同じ形状になっている。
 青みがかった特徴的な光沢、つまり・・・神鉄で出来ている矢じりのようだ。失われた加工技術を、多数が持っているとも思えないし、形状も同じな筈が無い。
 ということは、ガブリエルが神狼族を襲った犯人と見て、間違いないだろう。

「あなたは神狼族の生き残りですか?」

「貴様・・・生き残りと言ったのか!?」

「はい。神狼族は耳が良いと聞いていましたが・・・」

 生き残り。その言葉の指す意味は容易に想像できる。
 ガブリエルは、全く悪気がないように振舞っている。1つの種族を滅した事に対して、何も感じていないようだ。

「貴様! 我の一族を!」

「煩わしいですね。それに生き残りがいるというは、創造主の命が果たせていないという事」

 ガブリエルが無表情で矢を構える。俺はその瞬間に距離を詰めて斬りかかるが、ガブリエルは上空に飛びあがり、ガルムに向けて矢を放つ。
 それを剣で弾き、即座にブロントキネシス<雷電力>を発動し、刀に雷を纏わせた後ガブリエルに稲妻を飛ばす。

「ぐう!」

 落雷の衝撃で地面に追い落とす事に成功するが、膝をついて着地したガブリエルは涼しい顔で立ち上がる。
 服に付いた土埃を払いながら、今度は嬉しそうな顔をしている。

「素晴らしいお力です。それぞ正に、創造主と同じ創造の力の一旦。創造主はお喜びになるでしょう」

 余裕の態度・・・ダメージを負った形跡もない。放った稲妻の威力から考えれば、黒焦げになっているはずだが。サイコキネシス<念動力>といい、俺の力が通用しないのか?

「何の為に神狼族を皆殺しにした?」

「創造主の命だからです」

「その目的は?」

「それは私の知が及ばない所。私はただ、創造主の命に従う者です」

 つまりこいつは、目的も知らずに命じられたから殺したという事だ。
 それが俺の知っている、天使のする事なのだろうか? うる覚えの聖書でも、そんな事を天使はしていなかったはずだ。

「ガルム、下がっていろ。こいつとは俺が闘う」

「此奴は神狼族の敵、主と共に闘う」

「こいつは命とやらに従うだけの人形。だが、神獣を殺せる存在でもある。命令だ、下がっていろ」

 ガルムは無理矢理自分を納得させ、下がってルルと共にオリービアとサラーを守る体制をとる。
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