異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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6章 脅威と勧誘そして次の街へ

6.8 敗北と現れた脅威の話

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「神獣の体躯の為に創られた毒。人の体躯である貴方は、既に毒による激痛と、麻痺が広がり始めているはずですが。その状況でこうも・・・」

「痛みに耐えるのは、・・・得意でね」

 太ももの矢を引き抜き、ガブリエルに投げつける。当然弾かれて、地面に落ちるわけだが。
 虚勢を張ってみたものの、はっきり言ってしんどい。こうして浮かんでいるだけでも、精一杯だ。
 ガルムの母親は、これに耐えてあの洞窟まで逃げて来ていたのか。

 それにしてもガブリエルの同時発射の技、あんな事が出来たのか・・・。こいつは、手加減して俺と戦っていたということか。
 不愉快な奴だ。怒りを見せていながら、俺を倒すのでは無く、あくまで大人しくさせる為に戦っていたということだ。
 どこまでも、創造主の命にしたがっていたって事か。あの技を使われれば、俺は・・・負けていた。

「解毒と治療を行わせて頂きたい。創造主の元で・・・創造主!?」

 ガブリエルは急にうろたえ始め、空を見上げ始める。

「しかし・・・探していた方であるはず・・・承知いたしました」

 誰の声も聞こえないが、何らかの方法で創造主とやらと、話しているのだろう。

「創造主の命にて、この場は身を引かせて頂きます。あなた様を傷つけたご無礼を、お許し下さい。次こそは、創造主の元に参って頂きます。またお会いしましょう、ルシファー様」

 ガブリエルは天高く舞い上がり、その姿を雲の中に隠していった。

 朦朧とする意識の中、最後の力を使い徐々に地面に降りていく。

 地面に倒れ込む頃には、置き上がる事すらできなくなっていた。

「ルシファー様!」

「おにいちゃん!」

「主!」

「ご主人!」

 ぼやけた視界にみんなが映る。

「おにいちゃん! 目を閉じちゃダメです!」

(分からない・・・俺は誰も信じない・・・好き勝手に生きると・・・決めていたのに・・・お前らも・・・どうなろうが)

「ご主人! ダメだよ!」

(勝手に付いてきている・・・だけの存在なのに・・・体が勝手に・・・動いてしまった)

「主! 気をしっかり持たれよ!」

(俺は・・・誰もいらないのに・・・なんで・・集まってくる?)

「ルシファー様、なんで私達を庇って・・・」

(何故・・・オリービアは・・・こんなに泣いている?)

 俺はそこで意識を手放した。



「ルシファー様! 目を開けて下さい! ルシファー様!」

「落ち着かれよ奥方。今は気を失われただ。あまり揺すられると、主のお体に触る」

「おにいちゃん・・・」

「ご主人を荷馬車に運ぶよ!」

 野営用の布団を荷馬車に敷き、ルシファーを寝かせる。
 オリービアは傷口の止血を行い、サラーはオリービアの指示に従って、薬草を潰し始めた。

「奥方、我に手伝えることは?」

「ガルムさんは、あいつが戻って来ないか警戒をして下さい」

「奥さん、僕も手伝うよ!」

「ルルさんは荷馬車を引いて下さい。憲兵の事がありますから、バビロアに戻るよりゴモラに向かった方が、良いかと思います」

 ガルムは少し離れて周囲を警戒し、ルルは荷馬車を引き始める。
 
 オリービアは止血を終え、サラーは支持された薬草を潰し終えて、それをオリービアに渡す。

「あの時の道具が、こんなところで役立つなんて。嬉しくないですよ、ルシファー様」

「おねえちゃん、これも終わったです」

「ありがとう、サラーちゃん。この調合が終わったから、ルシファー様の傷に塗って」

 止血と消毒の役割を持つ、軟膏状にした薬草を、サラーは丁寧に塗り込んでいく。
 その間に解毒の為の調合に取り掛かるオリービア。その表情は真剣そのもので、今まで得た知識を総動員している。

「これをルシファー様に飲ませれば」

 マスクを外し、水と一緒に調合した解毒薬を、徐々にルシファーに飲ませていく。
 全て飲ませると、荒かった呼吸が僅かに落ち着き始める。

「おねえちゃん、おにいちゃんが凄い熱です」

「体を冷やさないと」

「あ! ちょっと待つです!」

 サラーは冷蔵庫を開け、冷やしていた水を取り出し、タオルに染み込ませる。

 それをルシファーの額に置いた。

「冷たい水、あれは何?」

「冷蔵庫です。食べ物と飲み物を冷やす事が出来るものです。おにいちゃんと作ったです」

「ありがとう、サラーちゃん」

 オリービアは傷口を確認し、包帯を巻いて掛け布団をそっとかける。

「少し落ち着いたようですから、様子を見るしかありませんね」

「はいです。おにいちゃん・・・しっかりです」

 荷馬車はは高速で走り続ける。



 その頃ガブリエルは、巨大な神殿に降り立っていた。

「なんだ? ガブリエル! 傷だらけじゃね~か」

 ガブリエルと同じような格好をした、フードで顔を隠したもう1人の天使が、入口を塞いでいる。

「そこをどいて下さい、ウリエル。創造主に呼ばれているのです」

「お前だけじゃね~よ。大天使全員招集だってよ。お前の失態せいじゃね~だろうな?」

 ガブリエルは歯を食いしばり、ウリエルを睨みつける。

「悪かったって。からかい過ぎたよ」

「創造主の元へ向かいましょう」

 神殿の中に入り、大広間へ向うと、置かれた玉座に人影が見える。

 玉座の前には、他に5人の天使が既に居て、7人は共に並び出て跪く。

 玉座に座る者は、後光がさしており顔が見えない。

「良く集まってくれましたね」

 跪く天使達は、より頭を下げる。

「ガブリエル、彼はどうでした?」

「はい。ルシファー殿は、万全の力を備えていない御様子でした」

「そうみたいね」

「それと・・・私は彼に、致命傷を与えてしまいました。この失態、償えるのであればなんなりとお申し付け下さい」

「その必要はありませんよ。こうなる事も予定通りですから」

「と・・・おっしゃいますと?」

「私がそれ位も分からずに、貴方を送り出したとでも?」

「滅相もございません」

 ガブリエルは緊張の頂点に到達し、額を汗が流れている。

「今回の件で、彼はさらに強くなるのですよ。今の彼では、私とメシアを創る事が出来ませんからね。私が見た未来の光景と、同じ事が起っています。ですから、貴方を罰することなどありません」

「寛大なお言葉・・・」

「立ってください、私の最高傑作達、7大天使達よ」

 その言葉に、軍隊のように規律正しく立ち上がる、7人の天使達。

「いよいよ、貴方達も表舞台に出てもらいます。私の究極の目標を達成する為、力を貸して下さいね」

 大広間に天使達の声が響き渡った後、それぞれの使命をまっとうする為に、その場を後にする天使達。

 大広間には、王座に残る人影だけが残った。

「私は・・・メシアを、救世主を生み出す聖杯。貴方は、聖杯を満たす血のワイン。会える時を楽しみにしていますよ」
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