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6章 脅威と勧誘そして次の街へ
6.9 初めて団結した話
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夜になり、一行は野営の準備をしていた。
未だに意識が戻らず、熱も下がらないルシファーは、荷馬車の中で寝かされたままになっている。
ルシファーのタオルを交換したオリービアが、荷馬車から暗い顔をして出てくる。
「ご主人は大丈夫?」
「回復するようすはありません。ガルムさんのお母さんの時よりも、より強い解毒と回復効果にしているはずなのですが」
「奥方よ、伝えるのが躊躇れるのだが・・・主が今、生きている事が奇跡なのだ」
「ガルムさん、どういう事ですか?」
「神獣である、神狼族すらも侵せる毒。その強さは述べるまでもないが、それに加えて本来は、人に比べて巨体である我らに対して使う物。それを人の体躯である主が受けてしまったのならば、本来であれば亡くなられていても不思議ではないのだ」
「ですがルシファー様は、今も毒と闘われています」
「それが奇跡なのだ、奥方よ」
オリービアは悲痛な顔をする。
そんな話を聞いてしまえば、次見に行った時にはもう、ルシファーは死んでしまっているかもしれないという、持ち続けていた不安が頭からいっそう、離れなくなってしまったから。
全員が暗い気持ちでただ黙って火を囲んでいだが、その沈黙はサラーのお腹の虫で破られた。
「ごめんなさいです。こんな大変な時にです」
「どんな状況でも、お腹は減りますよ。じゃあご飯を作りますか」
オリービアは鍋に細かく刻んだ野菜を入れ、調味料で味を整えていく。野菜の原型がなくなるまで煮続け、栄養がとけきった飲みやすいスープを作った。
それはどう見ても、意識のないルシファーにも飲ませる事が出来そうなスープであった。
「サラーちゃん・・・今日はこれで我慢してね」
「とっても美味しそうです。我慢なんてとんでもないです!」
オリービアはサラーの器にスープを入れ、それを吹いて冷ましながら渡す。
続いて別の器にスープを入れ、それを冷ましながら荷馬車の中に入って行った。
サラーはそれを黙って見送る。自分が行っても手伝える事が無いという事が、分かっているから。
「ルシファー様」
スプーンで、ルシファーの口に少しずつスープを流し込む。
少しづつ、少しづつ、それは見ている方がもどかしさを感じるほどの遅さ。
呼吸を邪魔しないように、むせないように、飲んでいるかも分からないほどの慎重さで。
それはまるで、絵画に出てくる聖母のような献身であった。
飲ませ終わる頃には、鍋の余ったスープはすっかり冷めきってしまっていたが、サラーが温め直し、オリービアに差し出す。
「ありがとう・・・サラーちゃん」
「これ位、あたしにもやらせてくださいです」
元気のない笑顔を交わす2人。会話をしながらも、頭の片隅ではルシファーを助ける方法を常に考えている。
「ルルさん、お聞きしたい事が」
「何でも聞いてよ!」
普段忘れられがちなルルは、頼られている事を察して元気よく返事をする。
「どれ位休まずに走り続けられますか?」
「う~んと・・・ご飯をいっぱい食べれば、3日は走り続けられるよ」
「・・・ゴモラまで、不眠不休で向かいましょう」
突然のオリービアの提案。
「奥方、我らに異存はないが。何か妙案があるのか?」
「ありません。ですがゴモラの近くには、神緑の森があります。あの森は人知の及ばない物がたくさんあると、本に書いてありました。今のルシファー様に、明日は無いかも知れません。急いでゴモラで情報収集をして、神緑の森で毒を癒す物がないかを、探しましょう」
「確かに神緑の森は、大昔に神が多くの神的存在を残したと、伝えられているが。だが・・・あのガブリエルとやらが、我一族を襲って久しい。危険なのでは?」
「その危険を冒すだけの価値は、あると思います」
ルルは神獣の住む地の一つである、神緑の森に行く事へ不安を感じ、ガルムは襲撃者の再来に不安を感じ、オリービアは提案したものの、ルシファーを救える物が存在するかどうか、不安に感じている。
この沈黙の中、最初に言葉を発したのはサラーであった。
「おねえちゃんに賛成です。おにいちゃんを助けられる可能性があるのなら、何でもやるべきです」
1番最年少の小さい女の子の言葉は、弱気になった心には一番の薬となったようだ。
「我の母を救いし御方に、付き従う事を誓ったのだ。ガブリエルの襲撃からも、守って頂いた。今度は我が御守りする番だ!」
「僕は・・・みんなみたいなご主人との出来事はないけど、純粋にご主人が好きだから頑張るよ!」
ガルムはルルに熱い視線を送り、ルルはうざ可愛いドヤ顔で返す。
若干距離が縮まった感じを出したガルムは、そのルルの顔を見て後悔を感じていた。
「そうですね、私はルシファー様の妻! こんなところで、未亡人になる訳にはいきません! 絶対にルシファー様を、治す手立てがある筈です!」
「流石! それでこそ奥方だ」
「ご主人の奥さんは強いんだね!」
「大変です! 突っ込み役がいないと、引っ込みがつかないです! 早くおにいちゃんを治して、突っ込みをしてもらわないと、散らかったままになるです!」
将来の家庭を夢見て、やる気をみなぎらせるオリービア、主にふさわしい眷属となる為に、強くあろうとするガルム、純粋に大好きなご主人の為に、奮闘しようとするルル、混沌とした状況を、収集する人が帰ってくる事を願うサラー。
それぞれの思いは違えど、全員が同じ目標に向かって団結した瞬間だった。
「ともあれ、襲撃を受けた日の深夜の移動は危険。我は明日の出発を提案する」
「そうですね、ガルムさんの言う通りです」
「寝ずの番は我がしよう。奥方達は寝られよ。そこのうさぎもな・・・」
「ありがとうございます。ガルムさん」
「ガルムさんが警戒してくれるなら安心です」
「さっき仲良くなった感じだったよ!? 何か距離を置かれているよ!」
ガルムが警戒する中、一行は眠りにつく。
未だに意識が戻らず、熱も下がらないルシファーは、荷馬車の中で寝かされたままになっている。
ルシファーのタオルを交換したオリービアが、荷馬車から暗い顔をして出てくる。
「ご主人は大丈夫?」
「回復するようすはありません。ガルムさんのお母さんの時よりも、より強い解毒と回復効果にしているはずなのですが」
「奥方よ、伝えるのが躊躇れるのだが・・・主が今、生きている事が奇跡なのだ」
「ガルムさん、どういう事ですか?」
「神獣である、神狼族すらも侵せる毒。その強さは述べるまでもないが、それに加えて本来は、人に比べて巨体である我らに対して使う物。それを人の体躯である主が受けてしまったのならば、本来であれば亡くなられていても不思議ではないのだ」
「ですがルシファー様は、今も毒と闘われています」
「それが奇跡なのだ、奥方よ」
オリービアは悲痛な顔をする。
そんな話を聞いてしまえば、次見に行った時にはもう、ルシファーは死んでしまっているかもしれないという、持ち続けていた不安が頭からいっそう、離れなくなってしまったから。
全員が暗い気持ちでただ黙って火を囲んでいだが、その沈黙はサラーのお腹の虫で破られた。
「ごめんなさいです。こんな大変な時にです」
「どんな状況でも、お腹は減りますよ。じゃあご飯を作りますか」
オリービアは鍋に細かく刻んだ野菜を入れ、調味料で味を整えていく。野菜の原型がなくなるまで煮続け、栄養がとけきった飲みやすいスープを作った。
それはどう見ても、意識のないルシファーにも飲ませる事が出来そうなスープであった。
「サラーちゃん・・・今日はこれで我慢してね」
「とっても美味しそうです。我慢なんてとんでもないです!」
オリービアはサラーの器にスープを入れ、それを吹いて冷ましながら渡す。
続いて別の器にスープを入れ、それを冷ましながら荷馬車の中に入って行った。
サラーはそれを黙って見送る。自分が行っても手伝える事が無いという事が、分かっているから。
「ルシファー様」
スプーンで、ルシファーの口に少しずつスープを流し込む。
少しづつ、少しづつ、それは見ている方がもどかしさを感じるほどの遅さ。
呼吸を邪魔しないように、むせないように、飲んでいるかも分からないほどの慎重さで。
それはまるで、絵画に出てくる聖母のような献身であった。
飲ませ終わる頃には、鍋の余ったスープはすっかり冷めきってしまっていたが、サラーが温め直し、オリービアに差し出す。
「ありがとう・・・サラーちゃん」
「これ位、あたしにもやらせてくださいです」
元気のない笑顔を交わす2人。会話をしながらも、頭の片隅ではルシファーを助ける方法を常に考えている。
「ルルさん、お聞きしたい事が」
「何でも聞いてよ!」
普段忘れられがちなルルは、頼られている事を察して元気よく返事をする。
「どれ位休まずに走り続けられますか?」
「う~んと・・・ご飯をいっぱい食べれば、3日は走り続けられるよ」
「・・・ゴモラまで、不眠不休で向かいましょう」
突然のオリービアの提案。
「奥方、我らに異存はないが。何か妙案があるのか?」
「ありません。ですがゴモラの近くには、神緑の森があります。あの森は人知の及ばない物がたくさんあると、本に書いてありました。今のルシファー様に、明日は無いかも知れません。急いでゴモラで情報収集をして、神緑の森で毒を癒す物がないかを、探しましょう」
「確かに神緑の森は、大昔に神が多くの神的存在を残したと、伝えられているが。だが・・・あのガブリエルとやらが、我一族を襲って久しい。危険なのでは?」
「その危険を冒すだけの価値は、あると思います」
ルルは神獣の住む地の一つである、神緑の森に行く事へ不安を感じ、ガルムは襲撃者の再来に不安を感じ、オリービアは提案したものの、ルシファーを救える物が存在するかどうか、不安に感じている。
この沈黙の中、最初に言葉を発したのはサラーであった。
「おねえちゃんに賛成です。おにいちゃんを助けられる可能性があるのなら、何でもやるべきです」
1番最年少の小さい女の子の言葉は、弱気になった心には一番の薬となったようだ。
「我の母を救いし御方に、付き従う事を誓ったのだ。ガブリエルの襲撃からも、守って頂いた。今度は我が御守りする番だ!」
「僕は・・・みんなみたいなご主人との出来事はないけど、純粋にご主人が好きだから頑張るよ!」
ガルムはルルに熱い視線を送り、ルルはうざ可愛いドヤ顔で返す。
若干距離が縮まった感じを出したガルムは、そのルルの顔を見て後悔を感じていた。
「そうですね、私はルシファー様の妻! こんなところで、未亡人になる訳にはいきません! 絶対にルシファー様を、治す手立てがある筈です!」
「流石! それでこそ奥方だ」
「ご主人の奥さんは強いんだね!」
「大変です! 突っ込み役がいないと、引っ込みがつかないです! 早くおにいちゃんを治して、突っ込みをしてもらわないと、散らかったままになるです!」
将来の家庭を夢見て、やる気をみなぎらせるオリービア、主にふさわしい眷属となる為に、強くあろうとするガルム、純粋に大好きなご主人の為に、奮闘しようとするルル、混沌とした状況を、収集する人が帰ってくる事を願うサラー。
それぞれの思いは違えど、全員が同じ目標に向かって団結した瞬間だった。
「ともあれ、襲撃を受けた日の深夜の移動は危険。我は明日の出発を提案する」
「そうですね、ガルムさんの言う通りです」
「寝ずの番は我がしよう。奥方達は寝られよ。そこのうさぎもな・・・」
「ありがとうございます。ガルムさん」
「ガルムさんが警戒してくれるなら安心です」
「さっき仲良くなった感じだったよ!? 何か距離を置かれているよ!」
ガルムが警戒する中、一行は眠りにつく。
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