異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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8章 獣操と招集そして神獣

8.7 負けた理由を知った話

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「ご名答。その通りだ」

 あれだけ攻防を繰り広げれば、嫌でも分かるというものだ。

「君達はただ剣を振っているだけだ。その場の状況に合わせてね。だから偽の剣筋に騙されるし、場当たり的な受け方しかできない。故に君達がいくら早く強かろうが、対応も予測できるし、いくらでも隙を生み出せる」

「オリービアも俺も、剣術など習ったことがないからな」

 言われるまで気づいていなかったのか、オリービアは開いた口が塞がらないといったようすだ。

「もちろん、オリービア君は神狼族の力を使えるし、君も噂の力を使える。相互的な戦闘力では敵わないが、剣のみでの戦いであれば、私にも分があるということだ」

「身体能力で言うのであれば、マナンダと契約している獣操師のお前もなかなかだった。剣術など必要ないと思うが?」

「獣操師とはかなり杞憂な存在なんだよ。強い獣と契約すれば、それに比例して強い力となるが、そもそも強い獣と契約するには、元から強くなければならない」

「なるほど。その為に剣術を習得・・・つまり、ここで行われている訓練というのは・・」

「獣と契約するために、剣術や鎗術、弓術になるというわけだ」

「だからこそ、ここには獣操師になった後の訓練は存在しないということだな」

「ご名答」

 訓練ではなく、模擬戦を行ったのはその為か。

「獣は瀕死に追い込まなければならないし、魔獣には自分を認めさせなくてはならない。神獣も話を聞く限り、魔獣と同じようす。・・・神獣に認めさせる人間などいない、それが通説だったはずだが・・・」

「オリービアという存在が現れたと」

「そうなんだ。武を納める前に、神獣と契約するなんてな」

「場合によっては、武術など必要ないという事か」

「稀有な事例だと思うがね。武術というのは弱者の術、なので本来は弱い立場の人間が編み出し身に着けてきたものだ。その身に着けた武術で、獣操師は獣と契約してきた。その理から外れてしまうとはな・・・」

「取り合えず、獣操師の情報と力の行使方法は手に入れた。ここにも最早用は無いな。あんたには礼を言うよ」

「帰るのかい?」

「ここに残る理由はもう無いだろ?」

「私はそうは思わないが」

 何か含みがある言い方だが。

「例えば?」

「俺達も、武術を納めてはどうだね?」

「必要ないね」

「何故?」

「不思議なことを聞くな。今あんたは、オリービアも俺も制約なく力を使っていれば、勝てないと言ったばかりじゃないか」

「確かにそうだが、もしその力が通用しない相手が現れたら? もしそうなったら、最後に物をいうのは、努力で身に着けた地力だと思うけどね」

 確かに、天使が現れてその状況になってはいるかもしれない。
 エルシドが天使の存在を知っているとは思わないから、この発言は偶然なのだろうと思うが。
 現状勝っても負けてもいないが、それは天使が撤退したからだ。
 あのまま戦い続けていたら、戦いの結果はどうなっていただろうか。

「あんたのいう事も分かるが」

「ではどうだろう? ここで武術を学んでいってみては?」

「・・・断る」

「どうしてだ?」

 こいつは親切すぎる。
 何か裏があるような感じがする。だが、俺の悪意センサーには反応していない。
 だから悪巧みの類ではなさそうだが、何かしらに利用するつもりではある感じがする。

 それに現状、天使との戦いも不利というわけではない。

「理由は特に無いが、とにかく断る」

「そうか。残念だ」

 割と粘った勧誘にしては、あっけなく引き下がったな。

「報酬は? いくら渡せばいい?」

「それこそ必要ないよ」

 報酬も必要ないと言うのか。何を考えている?

「心配しなくても、君達の情報を漏らしたりはしないよ。これで情報を売るような真似をするのなら、平民から訓練教官の長にまで昇りつめてないからね」

「そうか」

「最後に言っておくことがある。オリービア君の事でね」

「何だ?」

「契約出来る獣の数は、獣操師に備わっている命力の総量に比例する。オリービア君の命力は驚異的で、まだまだ余裕があるようだが、契約する獣の数が多くなると負担も大きくなるから気を付けるんだな。もしオリービア君の睡眠時間が長くなったり、直ぐに疲労を感じるようになったら、要注意だと思ってくれ」

「そうか・・・気を付けるとするよ」

 丁度話が終わった時、1人の男の職員が闘技場に慌てて入ってくる。

「プラチナランクの狩猟者、ルシファー様でありますか?」

「そうだが」

「狩猟組合から緊急招集がかかっています! 至急組合に向かってください!」

「緊急招集? そんなのがあるのか・・・断れないのか?」

「組合に属する者の義務なのですが・・・」

「権利には義務が伴うという事か・・・。あんたには世話になったよ」

 エルシドに背を向け、一応の礼を言って闘技場を後にした。



 1人取り残されたエルシドは、誰もいなくなった後膝をつく。

「力を酷使しすぎだ」

 レオンが呆れたように近づき、声をかけた。

「底の知れない命力を持つオリービア君、驚異の身体能力と不思議な力を持つルシファー君。彼らと戦うには、短時間とはいえ全力を出すしかなかった」

「何者なのだろうな。あいつらは」

「分からないが、やはり逸材だとは思う」

「お前は彼等を、組織の仲間にするつもりだったのだろうが、行ってしまったな」

「いいや、彼らは戻ってくるよ。もうすぐ行われる催し物を知ればね」

「あいつらが参加するとは思えないが?」

「情報によると・・・理由は分からないが、やたらと稼ごうとしているらしいからな。恐らく参加する筈だ」

「なるほどな。だから、もう一度ここに来るというわけか。次は勧誘するのか?」

「それはないだろう。私は彼等を勧誘するつもりではあるが、まだまだ彼らの底が知れない。どういう思想を持ち、どう行動する人間か見極めてから、誘うつもりだ。私達の計画が、無用に知られる訳にはいかないからね」

「あやつは・・・他人に興味があるようには見えなかったが。誰かの為に何かをするとは思えないし、そもそも人間を信用しているとも思えない」

「それは同感だが。だが仲間からの通達では、彼は横暴な貴族と大商人に制裁を加え、憲兵までも鎮圧したそうだ。悪逆非道を許さないという心持であるなら、私は彼を引き入れたい。だが、本当にそういう人間なのかは、慎重に見極める必要があるだろうな」

「お前の好きにするといい」

 レオンは闘技場の出口に向かいながら、呆れたように言い捨てていく。

「手段は選べない。彼等を利用できるなら利用するまで。この国を・・・正しい形に戻す為にな」

 エルシドは立ち上がり、拳を力強く握りしめた。
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