異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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9章 人間と神竜そして竜闘祭

9.4 神竜族の住処に向かった話

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 朝が来る。

 起き上がり隣のベッドを見ると、サラーはオリービアにしがみ付き、まるで仲の良い姉妹のように寝ている。

 オリービアは神緑の森で、”今は無理でも、いつかは私達を信じてもらえると、私達は信じています”、と言った。

 俺が人を信じられるようになれば、世界が救われると神は言った。
 だが、未だ近しいこいつらでさえ、俺は信じているとは言い難い。

 俺は人を信じられるようになるのか?

 俺はもしかして、人を信じられるようになりたいと思っているのか?

 だから、俺は起きて直ぐこんなことを考えているのだろうか?

 いや・・・今は賭けに勝って、理想の世界を手に入れる事を考えた方がいい。
 だからこそ、ここでのごたごたが片付いた後、次の目標として誰もいない安住の地を探すことにしよう。

 そこで世界に何かが起こるのを待ち、俺はそれを見届けて神に勝利を宣言すればいいんだ。

 そうだ・・・俺が賭けに勝つために、ひっそりと暮らせる場所を探せばいいだけ。

「ん・・・おはようございます。ルシファー様」

 考えがまとまった時、丁度オリービアが起き上がって来た。

「準備しろ」

 淡白な返事を返し、ベッドから出て着替えたのち朝食を注文しておく。
 オリービアはサラーを起こして着替えさせた後、自分も着替えて旅支度をしていた。

 運ばれた朝食を食べ終わり、買い込んだ荷物と食料を持ち部屋を後にする。

 宿屋を出て厩舎に向かう途中レグナの所に寄って、神緑の森の境界で待ち合わせと告げ、先に飛んで行ってもらう。
 それを見届け宿舎に到着すると、ガルムが宿舎の前で伸びをしており、こちらを見つけると座って声をかけてくる。

「主、何かあったのか?」

「ん? 何だ?」

「雰囲気が、出会った頃に近くなっていると感じてな」

「久しぶりに人間らしい人間に会っただけだ。気にするな」

「我は何とも言えぬが・・・」

 気を使わせてしまっているようだ。だが、俺は・・・。

「おはようだよ、ご主人」

 ルルが顔をクシクシしながら厩舎から出てくる。

「うさぎよ、主を待たせるな」

「分かってるよ。荷馬車を付けて欲しいよ」

 サラーと一緒にルルに荷馬車を取り付け、乗り込んだ後にレグナの待つ神緑の森の境界へと急ぐ。



「おいらに乗ってけば良かったんじゃ?」

 レグナと合流すると、意外な言葉が飛び出てきた。
 ガルムが荷馬車を牽くのを嫌がったので、てっきり同じ神獣のレグナもそういったことは嫌がると思ったが。

「嫌じゃないのか?」

「何で? おいらのお願いで来てもらうのに、それを嫌がるのは筋違いでしょ?」

「・・・正論じゃないか」

「我も・・・今度荷馬車を牽いてもいいぞ」

 ガルムがプライドを捨てて荷馬車を牽くと言い出した・・・。
 何かの自分の立場に危機感を感じたのだろうか。

「それに、神竜族の住処には飛んで行かないといけないし、おいらに乗った方がいいと思うよ」

「そういう事は先に行ってくれ。・・・そうだな、どうせなら背中に取り付けられるように、荷馬車を改造しようか」

「久しぶりの私の出番です!」

 ルルから荷馬車を外し、どうすればレグナに荷馬車を取り付けられるかをサラーと話し合い、何かを思いついたのか一心不乱に設計図を書き出す。
 相変わらずの集中力で、ひたすらに羽ペンを走らせている。

「出来たです!」

 完成した設計図に目を通す。
 まずレグナの翼の付け根に回り込むように加工した、胸当て兼土台のリトグラフの鎧を装着する。
 その土台には球体のリトグラフをはめ込む事が出来るようになっており、新たに荷馬車の下に設置する結合部品と組み合わさることで、ある程度の角度を吸収し荷馬車内は水平に保たれるようになっている。球体に直接取り付ける支柱には、スプリングが内蔵されていて、上下の揺れも緩和している、といったところか。

 外から見ると割と不格好に見えるかもしれないが、快適性も備えてくれているし、乗ってしまえば関係ないので、そこまでの贅沢は言ってられないだろうな。

「おにいちゃん! お願いです!」

 しばらく発明のお預けを食らっていたからか、サラーは目を輝かせて楽しそうにしている。
 寸法と形がが書かれている部品の一覧を手渡され、それに合わせてゲネシキネシス<創造力>を発動して部品を創造していく。

「これが、神域の力なのか」

「主にとって、この程度造作もないことだ」

「いつ見ても、不思議な光景ですよね。私はルシファー様と子供を作りたいですけど」

 雑音に邪魔されないよう必死に集中して部品を創り終え、その全てをサラーは丁寧に確認していく。

「問題ないです!」

 サラーの確認が終わったので、レグナにふせてもらい取り付けていく。

 サイコキネシス<念動力>を発動し、その体に積み木を組むように装着していくが、流石なのは、それぞれの部品ははめることによって装着できるようになっているので、溶接やネジなどの接合処置をしなくてもいいというところだ。

 改めてサラーの才能には驚かされたが、化学も取り入れればもっといろんなものを創れるかもしれない。
 そんなことを感じさせるものだった。

 最後に荷馬車を浮かせて土台に設置し、固定されているかを確認して完成となった。
 これで飛んで行けるようになったが、サラーがあることに気が付く。

「今気づいたです。これどうやって乗るです?」

 そういえば竜の背中だけでも体高があるのに、それに対して荷馬車はさらに高い。
 これでは乗れないと思ったのだが。

「俺は空を飛べるし、今となってはオリービアも跳躍力があるからな。サラーは俺が抱えて飛べば問題ないだろ。飛び立った後は荷馬車の外に出ることも無いだろうしな」

「・・・ガルムさんとルルさんはどうするです?」

「それは考えていなかったな」

「ちょっと待ってほしいです」

 サラーは更に設計を書き出し、やや大型の荷馬車を設計した。
 この荷馬車は今までの物より大きく、かつ屋根の前後に買い物かごのような取っ手がついてる。

「簡単な仕組みです。レグナさんがここを持って飛ぶです」

「連結部分もあるということは、普段は後ろに取り付けて使えるという事か」

「そうです。屋根も開閉式にしたです。狩猟した獣を運ぶのにも使えるです」

「流石だな」

 サラーの頭を撫でると、満面の笑みでその時間を堪能している。
 対照的にオリービアは、明日世界が終わるような表情をしてこちらを見てきていたが、とりあえず無視しておいた。

 部品を創造しそれを設計図通りに組み立てる。
 回を重ねるごとに効率が良くなっているのか、この程度なら直ぐに終わるようになってきていた。

「忘れていたが・・・レグナ、これを持って飛べそうか?」

「奥さんと契約? というのをしてから、凄く体が軽いから大丈夫だと思う」

 創るのに夢中で、物が出来てからの確認だったが、問題は無さそうだな。

「ガルム、ルル、この中に入ってくれ」

「主の指示ならば」

「分かったよ!」

 荷車に入った事を確認し、サラーをおんぶして背中の方に設置した荷車に飛んで行く。
 後ろの扉を開けてそのまま乗り込んだところ。

「私が抱っこされる予定だったのに!」

 オリービアが文句を言いながら、自分で飛び上がって乗り込んでくる。
 こいつは本当にブレないな。

「レグナ! 出発してくれ!」

「了解! 旦那さん!」

 レグナは飛翔を開始し、下の荷馬車を4足でバランス良く掴んで上空へと向かう。
 エレベーターに乗っているような感覚を味わった後、レグナの声が聞こえてくる。

「神竜族の住処の手前までは行くからね!」

 レグナは住処に向かって進み始め、徐々に速度を上げて行った。



 神緑の森、神竜族の住処近く。
 小高い岩山の頂上にある大岩に座る、ローブのフードを被り背中に羽を生やした者が、自分の身の丈ほどある戦斧せんぶを磨いている。

「おや?」

 何かの気配に気づいたように、ゴモラがある方を見る。

「この気配は、創造主のお求めの方のようだが」

 ゆっくりと立ち上がりながら、戦斧せんぶを背中に取り付けて気配のする方を観察する。

「こちらに近づいているようだが。困ったものだ・・・創造主の命を邪魔されたくは無いのだが。もしこちらの邪魔をするというのであれば、戦わざるおえないというものだが・・・」

 翼を広げ羽ばたき、ゆっくりと上空に向かっていく。

「ウリエルもガブリエルも創造主の命を果せなかったが。今度はこのカマエルこそが、命を果しすためにも邪魔をしてほしくないのだ」

 カマエルは、遠く離れた自らの創造主が居ると思われる方を見て、自信が現れた笑みを浮かべていた。
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