異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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9章 人間と神竜そして竜闘祭

9.6 創造主の話をした話

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「そのような神竜族がいるのか? レグナ殿は普段何を食べているのだ?」

 レグナの言う通り、流石に気になってしまう。

「植物を食べているけど」

 つまりこの竜は、非常に珍しいベジタリアンの竜という事か。

「レグナさん、何で獲物を獲って食べないのですか?」

「おいらは・・・獲物の悲鳴を聞いたり、血を見たりするのが嫌いなんだ」

「何故ですか?」

 当然の疑問だろう。それが食物連鎖の当たり前であり、それを嫌う動物がいるかというと、正直想像できない。

「だって・・・可哀想じゃないか」

 どうやら次からは想像できそうだ。その実例を見たから。

「レグナさんは優しいのですね」

「でも、おいらは異端としていじめられてきたんだよね」

 自分達と違う存在を受け入れられない、人間社会でよくある様式は、神竜族の中でもあるのだろうか。

「で・・・では我は、獲物を獲りに行ってくる」

 ガルムの方は、情報を処理しきれなかったのか、足早に森に入っていってしまう。

「お前の話は、後で聞く事にしよう」

 オリービアが料理を始めたのを確認し、それが出来るのとガルムが戻ってくるのを待つことにした。



「主よ、お待たせした」

 ガルムが自分の身の丈と同じくらいの大きさの鹿を引きずって帰ってきたころ、オリービアのシチューが完成したので、話しながら食べることにした。

「レグナ。聞いていなかったが、お前が急進派を止めたい理由ってなんだ? 住処の荒地が見えたが、俺もあそこから出て暮らした方がいいと思うが」

「住処を変えた方がいいと思っているのは、おいらも同じだよ。でも、それはあくまで神緑の森の中での話なんだ」

「だから、それは何故だ?」

「創造主の預言が残っているんだ」

 相変わらず話の進まない奴だな。

「その創造主の預言とやらは何だ?」

「創造主がこの世界を去る時に残して言った言葉で、”神竜族は彼の地を離れると滅ぶだろう”という内容なんだ。神竜族は、その預言に従って与えられた住処から離れることなく、今までおとなしく暮らしてきたんだ」

 思いのほか単純な預言だったな。それに暴虐武人な竜のイメージに反して、律儀な種族のようだが。

 だが、預言より気になる単語が出てきている。それは”創造主”だ。

「お前の言う創造主というのは、何者だ?」

「詳しくは知らないけど、7日間で世界を創って世界を治めていた存在って伝えられているけど」

 まるで聖書の一説に近いな。神は7日間で世界を創ったというところとか。

「そいつは今どうしてるんだ?」

「ある時期を境に、この世界から去っていったって伝えられている。そういえば、この世界を去る時にも預言を残したとか・・・」

「それはどんな預言だ?」

「確か・・・”この世界に混乱が訪れた時、救世主が訪れる”だったと思う」

 レグナが記憶しているのが、もし正しい預言だったとしたら。
 俺が会ったあの神が、この創造主と同一の存在としたら。

 もしかして、この救世主というのは自分の事なのではないだろうか。

 この世界に混乱が訪れた時というのは、神狼族への襲撃と神竜族への介入という、天使達が起こしている部分的な混乱が、今後拡大していく事を示唆していないか?
 現に神竜族が、実際に人間の生活圏に進出して、支配体制を構築したとしたら、混乱を極めるだろう。

 そもそも、それだけで終わるとは思えないが。

 こんな変化が起こり始めた時に、俺が神によってこの世界に来た。
 これを偶然と片づけるのには、大分無理があるだろう。

 ただこの仮定が正しかった場合、天使を生み出した創造主は別に存在することになる。

「ガルムは、そういった話を聞いた事は無いのか?」

「我は聞いたことがない。神狼族には、そのような伝承の類は無いのでな」

 神狼族だけに伝わる伝承なのか、それとも他の神獣族は別のものを持っているのか。

 それを知るすべはないが・・・。

「レグナ。その創造主というは、どんな見た目をしていたとか伝わっているか?」

「伝わっているけど、姿形は無く存在や概念のような御方という伝わり方だね」

 俺が会った神は、どこかの宗教の頂点みたいな、爺さんの姿だった。
 確信を得られると思ったが、ますます分からなくなってきたな。

「そうか・・・。ところで、天使は当時からいたのか?」

「いたらしいけど、同じく姿形は無かったらしいよ。創造主の為に働いてたとか」

「どういうことだ? そういえば、お前は天使の事を”翼の生えた人間”と言って、天使とは言わなかったな」

 レグナからカマエルと聞いた時、こいつは天使とは言っていなかった。

「あれが天使とは思わなかったけど」

 つまり、今いる天使はこの世界に前にいた創造主とやらに創られた者ではなく、今天使が創造主と呼ぶ存在に創られたということになる。
 これで創造主が2人いる事は、ほぼ確定といったところか。

「私も気になっていたのですが、あのガブリエルもウリエルも、そしてカマエルというのも本当に天使なのでしょうか? ガブリエルもウリエルも自分を大天使と自称していましたけど、昔この国にもあった宗教では、天使も悪魔も姿形は描かれていなかったそうですし、ましてや名前も無かったと思います」

 言われてみれば、オリービアはガブリエルの襲撃時も、その姿を見て天使と判断はしていなかったな。
 天使や悪魔の存在は知っているのに、反応が無かった理由が今更分かった感じか。

 ここでふと、忘れていた事を思い出す。

「そういえば、隣国で旧宗教と新宗教がぶつかって、内戦していると聞いたな。えっと・・・確か」

「この国ラハムの西に位置する、巨大宗教国家ヤブコのことですね。コジモもそこに武器を輸出して儲けようとしていましたね」

 旧宗教が特徴的に、前にいた創造主の宗教だとすると、新興宗教の方は今いる創造主の宗教という事か。

 徐々に話が繋がってきたな。

 ここまでの情報を大雑把につなげると、ある仮説が出来上がる。


 この世界は、俺が会った神が創った世界。
 そして何かがありこの世界を離れた。
 長い時が流れて、新たな創造主とやらがこの世界を訪れる。
 その創造主は、この世界に混乱を招くやり方で世界を治めようとしている。
 それが分かっていた神は、預言を予め残していて、その時期に俺をこの世界へと送り込んだ。

 救世主として。


 辻褄は合うが・・・、大枠過ぎて詳細までは当然分からないな。

 だが、これで神との賭けに勝つための、対策が立てられると言うものだ。
 それはつまり、今いる創造主の邪魔をしないこと、に限るという事。
 そうすれば、この世界は救われずに俺が賭けに勝つ可能性が高い。

 レグナとの出会いも、無駄では無かったという事か。
 ・・・あるいは、これも預言の一部なのか。

 こればっかりは分からないな。

「おにいちゃん?」

 食事に手を付けず、考え込んでいる俺を心配したのか、サラーが手を握ってくる。

「考え事をしていただけだ」

「天使の事を考えていたです?」

「というよりは、天使を送り込んでいるのは、隣国の新興宗教の崇拝される立場の奴じゃないかと思ってな」

 賭けの事や俺が1度死んでいるなどを説明する必要もないし、説明したところでややこしくなるだけなので、現状全員が得ている情報での結論だけを話すようにする。

「つまり、過去にいた創造主という存在とは違う創造主が現れて、この世界を都合のいいように変えるために、天使を派遣しているんじゃないかと思ってね」

 その場にいる全員が納得したように頷き、口を閉じて考えを巡らせている。

「主よ、その真意に迫る為にも、其奴が何故主を求めているのかも、知るためにはやはりカマエルと接触するのが最善と思う」

「俺もそう思うよ。思いの外時間を使ってしまったな。話は終わりにして出発しよう」

 その合図で出発の準備をし、再びレグナに荷馬車を取り付けて上空へと向かう。

 この渓谷を超えれば、神竜族の住処に直ぐ着くだろうが、果してどんな事が起きるのやら。
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