異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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9章 人間と神竜そして竜闘祭

9.7 神竜族の話を聞いた話

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 出発したのはいいものの、サラーがお願いと称して何かの部品を創ってくれと頼んできた。

「何に使うんだ?」

「おにいちゃんに色んなことを教わったです。試してみたいことが一杯あるです!」

 書かれているのは大小様々な部品で、材質もばらばらので、これだけでは何を創りたいのか分からないが、試したいと言っているということは、まだ完成品のイメージが出来ていないのかもな。

 指定された寸法と形で、全ての部品を作成してサラーに渡してやる。

「おにいちゃん、ありがとです!」

 それなりの量になってはいるが、大きくはない分場所はとっていないのが幸いだ。

「これが磁石です?」

 サラーが不思議そうに磁石をくっつけたり、離したりしている。

「そうだ。これは永久磁石という物で、電気を通さなくても磁力が続く」

「頑張るです!」

 サラーは師のレオハルドが残した自分用の工具箱を手に取り、中身を取り出して部品を組み立て始める。

 やっとあの工具箱の、活躍の出番が来たってわけだ。

 相変わらずの集中力で、もう回りが見えていないし聞こえてもいない。
 オリービアは片付けのついでに、食材の下ごしらえ等を始めているようだし。
 2人の邪魔をしないようにと、その間は暇なので外に出る。

 外に出ると、既に渓谷を超えていたようで、荒地の上空に差し掛かることにより、森の中に比べて空気が乾燥している感じがする。
 こんな厳しい環境で神竜族は暮らしているというのなら、外界に出ようというのも分かるものだ。

「旦那さん、また出てきたの?」

 レグナがこちらに気づいたようだが、到着するまでの間はこいつと話してみるのもいいかもな。
 自分の周りに斥力の壁を展開し、風を防ぎながら歩いて頭の後ろで首に座る。

「どうしたの?」

「お前は何でいじめられてたんだ? 族長の息子だったんだろ?」

「おいらの性格のせいかな」

 性格が原因と言うか。
 俺のように、身体的特徴や生い立ちが原因ではないと思っていたが。
 俺は竜を良く知らないが、大きく立派な体をしていると思ったからな。

「性格っていうのは、菜食主義者だからってことか?」

「うん。おいらは昔から同族と戦ったり、獲物が苦しんでいるのを見たりするのが嫌いだったから。そういった考えが、軟弱者として・・・特に同世代の神竜族にとっては、気に食わなかったんだと思う」

「何故気に食わないんだ? 他の奴らには関係ないだろ」

「神竜族は互いの優劣を決めるために、時折勝負を挑んだりしているんだけど、おいらは挑んだことも無いし、挑まれても断ってたから。それもあるんだと思うんだ・・・」

 確かに動物界ではよくある事のように思える。例えば猿とかの群れでは、序列を戦って決めたりしていると、生物の授業で言っていたからな。

「お前は何で勝負しないんだ? 怖いのか?」

「怖い・・・というよりは、大事な仲間だから傷つけたくなくて」

 これを心優しいと取るのか、それとも弱気と取るのか。
 どうも図りかねるところがあるが、少なくとも理由に関係なく争いを好まない稀有な存在として、目立っていたのは想像できる。

「異端の存在とはいえ、族長の子をいじめるとはな」

「そういうのは関係ないから。神獣の中でも、特に神竜族は親子関係とかに疎いんだよね。あまりお父さんは、おいらに関心が無かったし」

「そうなのか」

「たまにする会話も、おいらが何でこんな感じに生まれて来てしまったのかと、嘆いている感じだったよ」

 神竜族全体に言えることなのかもしれないが、こいつも親に半ば見捨てられた存在だったのかもしれないな。
 オリービアの母のように子を守る親も居れば、俺の親のように道具としてしか思っていない親もいる。
 そして種族的とはいえ、子に興味がないのが基本であるにも関わらず、子に期待をして勝手に失望する。

 子供は親を選べないし、親は子供を選べない。
 だからこそ、幸せになる者となれない者の差を生んでしまう。
 こんな不完全な世界を創って、神はどうしたかったのだろうか。

「旦那さんは優しいよね」

「そんな事は無いと思うが」

「今だって話を聞いてくれてるし」

「暇つぶしだ・・・」

 勘違いも甚だしいが。もしこいつがそう感じているのなら、こいつも俺と同じで、誰にも話せず抱え込んでいたのかもしれない。
 それを吐露できたということは、正直こいつは俺より幸運なのかもしれないな。

 俺は死ぬその時まで、誰にも手を差し伸べてもらうことが無かったから。

「どんないじめを受けていたんだ?」

「噛まれたり、尻尾で叩かれたり、踏みつけられたりかな」

「反撃はしなかったのか?」

「多少はしたけど、結局みんなの方が強かったから。数も多かったし・・・震えて相手が飽きるのを待つしかなかったって言うか・・・」

 こいつは神竜族の中でも、力は下ということは本当のように思えるが、 震えていたというのは、弱気な性格も合わさって、単純に本来の力が出せなかっただけではないだろうかとも感じる。

 そんな目にあってまで、こいつは神竜族を憎んでいないのだろうか。

「何故そこまでされて、お前は神竜族を救おうとする?」

「だって・・・、おいらは神竜族に滅んで欲しくないから。それに、おいらのお父さんが守ってきた物を、得体のしれない存在に壊されたくないんだ」

「分からないな・・・」

「人間には分からないかもね」

 こいつの言う通り、人間には分からない価値観なのかもしれない。
 もしくは、俺には分からないのか。

 俺だったら、いじめてきていた奴らがどうなろうと構わないし、不幸な目にあったら喜んで笑っていただろう。
 だからこそ、こいつは俺ほどすさんではないのかもしれないな。

 それか・・・こいつには、支えてくれる存在がいたような感じがする。
 なんとなくだが、こいつはそれを避けて話をしている。話下手だから出てきていないのでは無く、意図的に話していない、そんな感じだ。

 まあ、そこまで興味があるわけでもないし、問いただす気もないが。
 そもそも、竜闘祭に出るこいつの支援をする予定も、今のところないしな。

 ・・・いや、もしかしたら、それ自体必要ないかもしれない。

「話を聞いてくれてありがとう」

 締めの言葉のようなものを投げかけてくる。

「おかげで少し気持ちが楽になったよ」

「そんなつもりは無かったが・・・」

「旦那さんはそう言うと思ったよ」

 こいつが何故か満足しているなら、まあそれでもいいかと思った時。

「見えてきたよ!」

 レグナの声に反応し、鼻先の方へと視線を移すと、その先にはエアーズロックのような一枚岩が現れる。
 見た目こそ似ている物の、大きさは圧倒的で、まるで島が陸に置かれているようだ。
 上部はほとんど岩と砂で形成されているようで、森林は三分の一あるかどうかで、しかもまばらに存在している。
 こんなところで暮らしていけるのだろうかとも思ったが、神竜族ならば可能なのだろうか。

「他の神竜族に見つからないように、おいらが隠れ住んでた所に降りるから」

 レグナは一枚岩の一番端にある、もっとも小さい森林地帯に降り立って行った。
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