異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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9章 人間と神竜そして竜闘祭

9.8 神竜族の住処に着いた話

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「ここは一番小さい森林で、獲物になる獣も居ないから、神竜族はめったに来ないよ」

 森林に降り立った後、レグナから荷馬車を外しながら安全であると説明される。

「数で押し切られない限り、襲われても大丈夫ではありそうだが」

「それが虚勢だけではないことが、主の恐ろしいところではある」

 ガルムとルルも荷馬車から出てきて、伸びをしている。
 この移動手段も急場しのぎであるためか、改良する必要があるな。

「まさかと思ったが、レグナではないか!」

 周りの木々の葉を揺らすほどの大声が響き、木々の間を歩きながら蒼い竜が近づいてきた。
 レグナに比べればやや小さい体躯で、角はリーゼントのように左右1本ずつ生えている。

 うん・・・。分かってる。正直ダサい。

 レグナの角は、左右12本に枝分かれしているが、もっさりしながらも少しは格好よく見える分、この角の見た目は小物感が凄い。

 見た目に目が行ってしまったが、こいつが飛んできたのなら気づかないはずがないだろうから、予めここに潜伏していたのだろう。

「白々しい言い方をするじゃないか。ここで待ち構えていたのだろう? 出て行ったレグナが、竜闘祭までに戻ってこないかとな」

「人間ごときが気安く話しかけるなど。レグナ! 何故神竜族の住処に、人間がいるのだ!」

「こ・・・この人間達は、おいらの・・・」

「はっきりと言え!」

 レグナが震えている。この震えは叱責されてからのものではなさそうだ。

 という事は・・・。

「レグナ、お前をいじめていたというのは、こいつか?」

「う・・・うん。名前はラコーンで、こいつが取り巻きと一緒にいじめてきたんだ」

「もしかして、急進派の頭というのもこいつなのか?」

「そ・・・それは、違う神竜族がやっているけど」

「お前ら! 我輩を無視するでない!」

 ラコーンという蒼竜は怒りをあらわにし、数歩こちらに近づいて唸り声を上げている。
 レグナ以外の者を全て観察しているようで、ガルムもオリービアとサラーの前に出て、臨戦態勢を整えている。
 ルルは・・・オリービアとサラーの後ろに隠れて、頭隠して尻隠さずをしている。

「神狼族に魔獣もいるではないか! 答えろ!」

「こ・・・この人達は! おいらの・・・竜闘祭で・・・助っ人で」

 言葉さえも震えてしまっているな。相当こいつを怖がっているようだ。

「ふははははは!」

 うわ・・・耳鳴りがした。馬鹿みたいな笑い方する奴だな。
 典型的な子悪党みたいな笑い方をされると、何だか小物にしか見えなくなってくる。

 それにレグナもレグナで、”分からないように手伝ってほしい”と言っていたのにも関わらず、怖がり過ぎて言ってしまっているじゃないか。

 ひとしきり笑った後、ラコーンは見下すような表情でレグナを見下ろしてくる。

「レグナ、竜闘際に参加するのか? 弱虫のお前がか? それに、無い知恵を絞ってただの人間を助っ人にだと? お前は、本当に笑わせてくれるわ! ふははははは!」

 まあそれはそうなるだろうな。

「あ・・・あれ? ただの人間? あの、ラコーンは何も感じないの?」

「何がだ? それに、ラコーン様だろうが!」

 怒るところそこなのかよ。

 感じるというのは、俺が神に与えられた力のことだろうか。確か・・・神域の力と言っていたな。
 神に与えられたのなら当然なのだろうが。

 会話の内容から察するに、レグナにはそれを感知できる能力があるが、このラコーンという奴にはそれがないのだろう。

「なるほど、そういうことであれば・・・その人間と共に竜闘祭に参加してみるといい。これは歴史に残る、面白い祭りになりそうだ。レグナが人間と共に逃げ回る姿でな!」

「そ・・・そんなこと、しない・・・」

 レグナは相変わらずだし、こいつも容赦なく煽ってくるな。
 だがこの煽り方、どうも気になる。

「まるで、レグナに竜闘祭へ出場して欲しくないような言い方だな」

「2度も口を挟むとは・・・」

 おっと、矛先がこちらに向いたようだ。

「俺には、お前がレグナを恐れているように見えるぞ?」

「何を世迷言を」

「おかしいじゃないか? 先程の煽り文句を言ったのでは、レグナが逃げてしまうかもしれないだろ? 祭りを盛り上げたいのなら、言わない方がいいじゃないか」

「それだけで、我輩がレグナを恐れていると考えるなど、所詮は人間か」

「いいや? それだけじゃないが」

 そう、こいつが歩み出て日の光にさらされたことで分かったことがある。

「答えてみよ、人間」

「お前さ、体中に細かい傷がついているよな? だけど、レグナは対照的に綺麗なんだよ」

「それはレグナが臆病者で、戦いに身を投じなかったからだ」

「それはおかしいな?」

「何が言いたい! 人間!」

 苛立っているラコーンからは、全く圧力を感じない。
 それはガルムやオリービアも同じなようで、レグナと戦った時ほどの緊張感は無い感じだ。

「お前ら結構手酷いいじめをしていたのだろう? なのに、レグナが綺麗なのはおかしいじゃないか」

「それは・・・」

「お前らいじめを行っていた奴らは、レグナに傷1つ付けられない、つまりは・・・レグナより弱いということだ」

「そんな・・・事はない!」

「今もレグナが帰ってきて、竜闘祭に参加されたらやばいと思って、ここでずっと待っていたんだろ?」

「人間風情が!」

 図星突かれて頭に来たか。
 考えなしの突進してくるが、サイコキネシス<念動力>を発動して動きを止めてしまう。

「あ! あれ!?」

 レグナは翼で自らとオリービア達を覆って守ろうとしたようだが、いつまでたってもラコーンが来ないことを不思議に思い、恐る恐る翼を広げて前を見る。

「ラコーンが・・・止まってる!?」

 片足を上げたまま、自分を包む斥力の壁に抗っているのか、小刻みに震えている。

「レグナのように震えているじゃないか? 臆病者はお前のほうじゃないか?」

「こ・・・この震えは・・違う。人間、我輩に何をした!?」

「さあな・・・」

 レグナが横に出てきて、顔を近づけてくる。

「こんなことも出来たの?」

「ああ。不思議とお前には使おうと思わなかったのだが、多分本能的に通用しないことが分かっていたのかもしれないな。その証拠に・・・」

 レグナにサイコキネシス<念動力>を発動して拘束しようとしたが、本人は何でもない様子だ。

「おいらには、旦那さんの力が効いてない?」

「大雑把に言えば、あのラコーンとやらよりは強いのだろうな」

 今の言葉で自信をつけたのか、もう震えてはいないようだな。

 さて、ラコーンを始末してしまおうか。
 ゆっくりと時間をかけながら、ラコーンの顔の前で歩いて行き、刀を抜いて眼球の前に持っていく。

「な・・・何をする気だ!?」

「目を通して脳を破壊するか、このまま首を落としてしまうか」

「や・・・やめろ」

「お前に教えてやるよ。俺の力はレグナには通用しなかった。でも、お前には通用した。これがどういう意味か分かるか?」

「ま・・・まさ・・・か」

「お前の方が弱いってことだ」

 大きな目玉の瞳孔が開き、信じられないと言わんばかりの目をする。
 その目は振りかぶられる刀を追い、体は本当の震えを始めるが。

「旦那さん! 待って! 殺さないで」

 その言葉を聞き、俺は一旦下がってから、サイコキネシス<念動力>を解除してラコーンを自由にする。

「ハァ!ハァ!ハァ! レグナ! 竜闘祭には単身で参加しろ! そこで、真の強者を決めてくれる!」

 動けるようになったラコーンは捨て台詞を残し、上空へ飛び上がってあっという間に見えなくなる。
 ちゃっかり俺の参加を拒否しているあたりが、小物感を醸し出しているな。

「旦那さん、おいらの頼みを聞いてくれて感謝するよ」

「そうじゃない。よくよく考えれば、ここで始末するよりは、竜闘祭でお前が倒した方が面白いと思ってな」

「じゃ・・・じゃあ! おいらを手伝ってくれるの?」

「いいや、その必要は無いと思うぞ」

「え!? それってどういう・・・」

「とりあえず、野営の準備をしようじゃないか。話はそれからだ」

 動揺するレグナの額を撫で、オリービア達に合図を送った。
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