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9章 人間と神竜そして竜闘祭
9.9 竜闘祭前夜の話
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「それで? 結局は手伝ってはくれないってこと?」
野営の準備をしている時、レグナが我慢できずに聞いてくる。
「既に同族に俺達がいることが分かっているし、単身で参加しろと言われている以上、手伝うわけにはいかないだろう」
「ラコーンを拘束した力があれば、おいらでも勝てると思ったのにな」
レグナはしょんぼりと俯き、そこら辺に生えている木の新芽を租借し始める。
草食の竜など聞いたこともないし、当然見たこともないから、何だか不思議な光景だ。
こいつが勇気を出しさえすれば、俺は優勝出来ると見込んでいるんだがな。
日も暮れ始め、夜の帳が顔を出し始めた頃、野営の準備が完了する。
その後夕食の準備を進めるオリービアと、ラコーンが去ったことで、荷馬車の中で何かを組み立を再開しているサラーを見ながら、椅子に丁度いい岩に腰掛けた。
ルルはレグナと同様にそこら辺に生えている草を頬張って、何かをしきりに喋っている。
「流石神域だよ! とってもおいしいよ! これは、最高級の・・・」
聞き耳立てて聞く内容ではなかった・・・。
「主よ」
ガルムが横に寄り添ってきて、犬の伏せのように体を横たえてくる。
いつもなら獲物を獲りに行ってくると思うのだが。
「狩りはいいのか?」
「この付近に獣の気配は感じない。神竜族の住処と聞き期待したが、この地は・・・何と言おうか・・・」
「何だ?」
「活力を失っていっているように感じるのだ」
言われてみれば上空から見たこの住処は、お世辞にも良い生活空間とは思えなかった。
住処を出て、人間を支配する・・・か。
もしこの土地が、俺が見た時に感じたように衰退していっているのであれば、外界に進出しようと思うのも、無理は無いのかもしれないな。
「お前が食べられるものを探しに行くか?」
「必要ないだろう。数日食べなくても問題はない」
そういえば狼って、数日食べなくても大丈夫なスタミナを持っていたと習った憶えがあるが、神狼族もそうなのだろうか。
どっちにしろ食糧事情としては、助かるからいいんだけどな。
それにレグナも、”人間は、毎日ご飯を食べないといけないんでしょ?”、という言い方をしていた。
俺の元居た世界にいた動物のように、毎日食事を取るというわけではないのだろう。
料理の準備をしてくれているオリービアの要望に応じて、枯れ木を集めて焚火の下準備をする。
火を付けるというレグナの申し出を断り、自分でパイロキネシスを発動して火を燃え上がらせると、レグナが驚いていた。
何かを自分の中で納得し、根掘り葉掘り聞かれることは無かったが、他にも力を発動するのではないかと、ずっと観察されるはめになってしまった。
その間オリービアは、肉を焼いて野菜と合わせてパンに挟み、それを更にあぶってきつね色にしていく。
周囲が暗くなり始めても、そのサンドイッチは美味しそうな見た目をしているのが、焚火に照らされて分かる。
オリービアは出来上がったサンドイッチを俺に渡してきて、その後に未だ荷馬車に籠っているサラーを呼びに行った。
オリービアの行き先を目で追うと、何故か荷馬車の中が明るく照らされている。
「ルシファー様!」
オリービアが大声で呼びに来て、強引に荷馬車に連れて行かれる。
「おにいちゃん! 出来たです!」
サラーの手には光り輝く電球が握られており、足元には箱型の電池に似た物が置かれている。
・・・こいつ、科学の知識を教えただけで、電球を創り上げたのか?
「電球を創ったのか・・・凄いな」
「電球ってこれのことです?」
「そうだが、名前を付けていたのか?」
「一応”電気白熱明光機”と名付けていたです」
「長い、却下」
「です!?」
サラーの付けた名前も的を得ているとは思うが、いちいちそんな長い名前を呼んでられないからな・・・。
電球で押し通したところ、渋々納得して電球と改めていた。
「これで夜も明るく過ごせますね」
「電球を創れるとは、恐れ入った」
「でもこれ、電球って名前なのなら、もう誰かが発明しているです?」
「俺の故郷ではあったが、この国では初めてのだと思う」
「おにいちゃんの故郷は凄いです! 負けてられないです!」
食事を取りながら、サラーにどうやって電池を創ったのか聞いてみたが、ゴモラで買ったレモンに似た果物の果汁を使っているとの事だった。
確かに教えはしたが・・・そこから実際に創れる奴がいると思う方がおかしいというものだ。
因みに電池も、最初は”電気蓄積機”だったが、電池に改名させた。
オリービアはちょっと可愛そうだと注意してきたが、獣ですら名前が変化しているので、これ以上違う名前が付けられていると、俺が混乱しそうだったから仕方ない。
それに、既に発明されていて名前が付いているとしると、サラーは先人に敬意を示すためにも、名前を改めるのがいいと納得していた。
サラーの新しい発明品の話を聞いていると、レグナがゆっくりと近づいてきて何か話すのを躊躇っている。
「あ・・・あのさ」
「なんだ?」
「どうにかして、竜闘祭で手伝ってもらう方法無いかな?」
またこの話か。そもそもそんなに自信がないのであれば、出なければいいものを。
「あんな奴ら守る必要は無いだろ。勝手に住処から出て行って、滅びればいいんじゃないか? 預言とやらの通りにな」
「・・・そういう訳にはいかないんだ。おいらは・・・」
やっぱりまだ隠してることがあるようだな。
「本当の理由を言え。その理由を聞かないと、何とも言えないからな」
レグナは考え込んだ後、口を開く。
野営の準備をしている時、レグナが我慢できずに聞いてくる。
「既に同族に俺達がいることが分かっているし、単身で参加しろと言われている以上、手伝うわけにはいかないだろう」
「ラコーンを拘束した力があれば、おいらでも勝てると思ったのにな」
レグナはしょんぼりと俯き、そこら辺に生えている木の新芽を租借し始める。
草食の竜など聞いたこともないし、当然見たこともないから、何だか不思議な光景だ。
こいつが勇気を出しさえすれば、俺は優勝出来ると見込んでいるんだがな。
日も暮れ始め、夜の帳が顔を出し始めた頃、野営の準備が完了する。
その後夕食の準備を進めるオリービアと、ラコーンが去ったことで、荷馬車の中で何かを組み立を再開しているサラーを見ながら、椅子に丁度いい岩に腰掛けた。
ルルはレグナと同様にそこら辺に生えている草を頬張って、何かをしきりに喋っている。
「流石神域だよ! とってもおいしいよ! これは、最高級の・・・」
聞き耳立てて聞く内容ではなかった・・・。
「主よ」
ガルムが横に寄り添ってきて、犬の伏せのように体を横たえてくる。
いつもなら獲物を獲りに行ってくると思うのだが。
「狩りはいいのか?」
「この付近に獣の気配は感じない。神竜族の住処と聞き期待したが、この地は・・・何と言おうか・・・」
「何だ?」
「活力を失っていっているように感じるのだ」
言われてみれば上空から見たこの住処は、お世辞にも良い生活空間とは思えなかった。
住処を出て、人間を支配する・・・か。
もしこの土地が、俺が見た時に感じたように衰退していっているのであれば、外界に進出しようと思うのも、無理は無いのかもしれないな。
「お前が食べられるものを探しに行くか?」
「必要ないだろう。数日食べなくても問題はない」
そういえば狼って、数日食べなくても大丈夫なスタミナを持っていたと習った憶えがあるが、神狼族もそうなのだろうか。
どっちにしろ食糧事情としては、助かるからいいんだけどな。
それにレグナも、”人間は、毎日ご飯を食べないといけないんでしょ?”、という言い方をしていた。
俺の元居た世界にいた動物のように、毎日食事を取るというわけではないのだろう。
料理の準備をしてくれているオリービアの要望に応じて、枯れ木を集めて焚火の下準備をする。
火を付けるというレグナの申し出を断り、自分でパイロキネシスを発動して火を燃え上がらせると、レグナが驚いていた。
何かを自分の中で納得し、根掘り葉掘り聞かれることは無かったが、他にも力を発動するのではないかと、ずっと観察されるはめになってしまった。
その間オリービアは、肉を焼いて野菜と合わせてパンに挟み、それを更にあぶってきつね色にしていく。
周囲が暗くなり始めても、そのサンドイッチは美味しそうな見た目をしているのが、焚火に照らされて分かる。
オリービアは出来上がったサンドイッチを俺に渡してきて、その後に未だ荷馬車に籠っているサラーを呼びに行った。
オリービアの行き先を目で追うと、何故か荷馬車の中が明るく照らされている。
「ルシファー様!」
オリービアが大声で呼びに来て、強引に荷馬車に連れて行かれる。
「おにいちゃん! 出来たです!」
サラーの手には光り輝く電球が握られており、足元には箱型の電池に似た物が置かれている。
・・・こいつ、科学の知識を教えただけで、電球を創り上げたのか?
「電球を創ったのか・・・凄いな」
「電球ってこれのことです?」
「そうだが、名前を付けていたのか?」
「一応”電気白熱明光機”と名付けていたです」
「長い、却下」
「です!?」
サラーの付けた名前も的を得ているとは思うが、いちいちそんな長い名前を呼んでられないからな・・・。
電球で押し通したところ、渋々納得して電球と改めていた。
「これで夜も明るく過ごせますね」
「電球を創れるとは、恐れ入った」
「でもこれ、電球って名前なのなら、もう誰かが発明しているです?」
「俺の故郷ではあったが、この国では初めてのだと思う」
「おにいちゃんの故郷は凄いです! 負けてられないです!」
食事を取りながら、サラーにどうやって電池を創ったのか聞いてみたが、ゴモラで買ったレモンに似た果物の果汁を使っているとの事だった。
確かに教えはしたが・・・そこから実際に創れる奴がいると思う方がおかしいというものだ。
因みに電池も、最初は”電気蓄積機”だったが、電池に改名させた。
オリービアはちょっと可愛そうだと注意してきたが、獣ですら名前が変化しているので、これ以上違う名前が付けられていると、俺が混乱しそうだったから仕方ない。
それに、既に発明されていて名前が付いているとしると、サラーは先人に敬意を示すためにも、名前を改めるのがいいと納得していた。
サラーの新しい発明品の話を聞いていると、レグナがゆっくりと近づいてきて何か話すのを躊躇っている。
「あ・・・あのさ」
「なんだ?」
「どうにかして、竜闘祭で手伝ってもらう方法無いかな?」
またこの話か。そもそもそんなに自信がないのであれば、出なければいいものを。
「あんな奴ら守る必要は無いだろ。勝手に住処から出て行って、滅びればいいんじゃないか? 預言とやらの通りにな」
「・・・そういう訳にはいかないんだ。おいらは・・・」
やっぱりまだ隠してることがあるようだな。
「本当の理由を言え。その理由を聞かないと、何とも言えないからな」
レグナは考え込んだ後、口を開く。
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