異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

文字の大きさ
80 / 107
9章 人間と神竜そして竜闘祭

9.9 竜闘祭前夜の話

しおりを挟む
「それで? 結局は手伝ってはくれないってこと?」

 野営の準備をしている時、レグナが我慢できずに聞いてくる。

「既に同族に俺達がいることが分かっているし、単身で参加しろと言われている以上、手伝うわけにはいかないだろう」

「ラコーンを拘束した力があれば、おいらでも勝てると思ったのにな」

 レグナはしょんぼりと俯き、そこら辺に生えている木の新芽を租借し始める。
 草食の竜など聞いたこともないし、当然見たこともないから、何だか不思議な光景だ。

 こいつが勇気を出しさえすれば、俺は優勝出来ると見込んでいるんだがな。

 日も暮れ始め、夜のとばりが顔を出し始めた頃、野営の準備が完了する。

 その後夕食の準備を進めるオリービアと、ラコーンが去ったことで、荷馬車の中で何かを組み立を再開しているサラーを見ながら、椅子に丁度いい岩に腰掛けた。

 ルルはレグナと同様にそこら辺に生えている草を頬張って、何かをしきりに喋っている。

「流石神域だよ! とってもおいしいよ! これは、最高級の・・・」

 聞き耳立てて聞く内容ではなかった・・・。

「主よ」

 ガルムが横に寄り添ってきて、犬の伏せのように体を横たえてくる。
 いつもなら獲物を獲りに行ってくると思うのだが。

「狩りはいいのか?」

「この付近に獣の気配は感じない。神竜族の住処と聞き期待したが、この地は・・・何と言おうか・・・」

「何だ?」

「活力を失っていっているように感じるのだ」

 言われてみれば上空から見たこの住処は、お世辞にも良い生活空間とは思えなかった。

 住処を出て、人間を支配する・・・か。
 もしこの土地が、俺が見た時に感じたように衰退していっているのであれば、外界に進出しようと思うのも、無理は無いのかもしれないな。

「お前が食べられるものを探しに行くか?」

「必要ないだろう。数日食べなくても問題はない」

 そういえば狼って、数日食べなくても大丈夫なスタミナを持っていたと習った憶えがあるが、神狼族もそうなのだろうか。
 どっちにしろ食糧事情としては、助かるからいいんだけどな。

 それにレグナも、”人間は、毎日ご飯を食べないといけないんでしょ?”、という言い方をしていた。
 俺の元居た世界にいた動物のように、毎日食事を取るというわけではないのだろう。



 料理の準備をしてくれているオリービアの要望に応じて、枯れ木を集めて焚火の下準備をする。

 火を付けるというレグナの申し出を断り、自分でパイロキネシス<発火力>を発動して火を燃え上がらせると、レグナが驚いていた。
 何かを自分の中で納得し、根掘り葉掘り聞かれることは無かったが、他にも力を発動するのではないかと、ずっと観察されるはめになってしまった。

 その間オリービアは、肉を焼いて野菜と合わせてパンに挟み、それを更にあぶってきつね色にしていく。
 周囲が暗くなり始めても、そのサンドイッチは美味しそうな見た目をしているのが、焚火に照らされて分かる。
 オリービアは出来上がったサンドイッチを俺に渡してきて、その後に未だ荷馬車に籠っているサラーを呼びに行った。

 オリービアの行き先を目で追うと、何故か荷馬車の中が明るく照らされている。

「ルシファー様!」

 オリービアが大声で呼びに来て、強引に荷馬車に連れて行かれる。

「おにいちゃん! 出来たです!」

 サラーの手には光り輝く電球が握られており、足元には箱型の電池に似た物が置かれている。

 ・・・こいつ、科学の知識を教えただけで、電球を創り上げたのか?

「電球を創ったのか・・・凄いな」

「電球ってこれのことです?」

「そうだが、名前を付けていたのか?」

「一応”電気白熱明光機”と名付けていたです」

「長い、却下」

「です!?」

 サラーの付けた名前も的を得ているとは思うが、いちいちそんな長い名前を呼んでられないからな・・・。
 電球で押し通したところ、渋々納得して電球と改めていた。

「これで夜も明るく過ごせますね」

「電球を創れるとは、恐れ入った」

「でもこれ、電球って名前なのなら、もう誰かが発明しているです?」

「俺の故郷ではあったが、この国では初めてのだと思う」

「おにいちゃんの故郷は凄いです! 負けてられないです!」

 食事を取りながら、サラーにどうやって電池を創ったのか聞いてみたが、ゴモラで買ったレモンに似た果物の果汁を使っているとの事だった。

 確かに教えはしたが・・・そこから実際に創れる奴がいると思う方がおかしいというものだ。

 因みに電池も、最初は”電気蓄積機”だったが、電池に改名させた。
 オリービアはちょっと可愛そうだと注意してきたが、獣ですら名前が変化しているので、これ以上違う名前が付けられていると、俺が混乱しそうだったから仕方ない。

 それに、既に発明されていて名前が付いているとしると、サラーは先人に敬意を示すためにも、名前を改めるのがいいと納得していた。

 サラーの新しい発明品の話を聞いていると、レグナがゆっくりと近づいてきて何か話すのを躊躇っている。

「あ・・・あのさ」

「なんだ?」

「どうにかして、竜闘祭で手伝ってもらう方法無いかな?」

 またこの話か。そもそもそんなに自信がないのであれば、出なければいいものを。

「あんな奴ら守る必要は無いだろ。勝手に住処から出て行って、滅びればいいんじゃないか? 預言とやらの通りにな」

「・・・そういう訳にはいかないんだ。おいらは・・・」

 やっぱりまだ隠してることがあるようだな。

「本当の理由を言え。その理由を聞かないと、何とも言えないからな」

 レグナは考え込んだ後、口を開く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...