異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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10章 竜闘祭と決着そして別の戦い

10.2 レビヤの強さを知った話

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「旦那さんともう一つ、神域の力を使っているものがいる? これは・・・多分カマエルだよ! こっちの方向から感じる!」

 レグナが空を眺めながら、警戒心を高めている。

「それが本当なのなら、ルシファー様が大天使と戦い始めたのかもしれませんね」

「やはり、我だけでも駆けつけるべきだ!」

「おにいちゃんを助けに行くべきです!」

「駄目です。私の、もといルシファー様の指示に従ってください」

 そのオリービアの言葉に、ガルムは苛立ちを見せ、歯をむき出しにして威嚇しながらオリービアに近づく。

「主が負けたらどうするのだ!? 殺されはせずとも、捕縛されたりしては戻ってくることすら困難だぞ!」

「ルシファー様は、必ず帰ってきますよ」

「その保証がどこにある! よもや大天使とやらに勝ったとしても、昨日の主のようすでは、我らから離れて旅立ってしまってもおかしくは無いのだぞ!」

 ガルムの叱責の言葉は力をおび、近くの神竜族の目線を集めるのに充分であった。
 周りがその後に起こることは何かと観察している間も、オリービアは涼しい表情を崩さずにいた。
 飛び起きたルルに寄り添いながら、サラーも不安そうな目でオリービアの返事を待っている。

 ルシファーの変化により敏感だったガルムは、ルシファーが戻ってこなかった場合の心配が渦巻いている。
 その為、今にでも駆け出していきたい気持ちが強いようだ。

「その心配は必要ないですよ」

「どうしてそう言い切れる!」

「ルシファー様が、”必ず戻ってくる”と言っていたからです」

「そのようなもの・・・」

「ガルムさんは、ルシファー様の言葉を信じられませんか?」

「それは・・・」

 自分の思いと信頼の間で揺れるガルムは、言葉を失って黙り込んでしまう。

「私は信じています。だからここで、レグナさんの応援を続けます」

 レグナを見上げながら、オリービアは穏やかな笑顔を向ける。

 そのようすを見ながらサラーは不安がるルルを撫で、寝ていた間の経緯を説明し、自身もルシファーを信じていると言い、ルルを安心させていた。
 ルルも納得したようで、サラーに顔をすり寄せて自分も信じていることを伝えている。

「我も・・・主を信じているが」

「ならば、ここで待つのがいいというものでしょう?」

「奥方は、強いのだな」

「愛していますから。本当に」

 ガルムはその言葉を聞いて、数歩下がった後に地面に伏せ、深呼吸した後に闘技場へ目を移す。
 未だ不安の消えないような状態であったが、これ以上は何も言うべきではないと判断し、この竜闘祭を無事終えることだけを考えることにした。

「レビヤの試合が始まる」

 レグナの声を聞いてオリービアとサラー、ルルが目線を闘技場に移すと、レビヤの前には対戦相手である、翠の竜がすでに立っていた。
 翠の竜はかなり気合を入れているようで、鼻息を荒くして今にも飛び掛かりそうな様相だ。

「対戦相手、何か焦っている感じです」

「レビヤは一番強いからね。レビヤが出場するって表明した時、優勝は決まったようなもんなんだよ。だから今出場しているのは、基本的に一縷の望みをかけて出てる奴か、おいらのように、急進派の族長を排出したく無い奴だけだからね。集まっている神竜族も、レビヤがどうやって優勝するかを見に来ている感じなんだろうね」

「なるほど急進派の長であり、次期族長が確定している状態だからこそ、是が非でも止めたかった訳だな」

 ガルムの考察に同意するように、レグナは頷いている。

「神域の力を感じて、手伝いを頼もうと思ったのも無理はないな。さてそのレビヤとやらの実力を、見させてもらおうではないか」

 ガルムの呟きと同時に、試合が開始された。

「レビヤ! 貴様を族長とは認めない!」

「ならば妾を負かしてみよ」

 翠の竜が頭突きの構えで突進を始め、地面を揺らしながら駆けて行く。
 レビヤは笑みを浮かべながら、それを頭突きで迎え撃つ。

 あたりに轟音が響き、翠の竜はふらついているが、レビヤは何食わぬ顔をしている。
 ほとんどダメージが無いのか、意識を失いかけている翠の竜にゆっくりと近づき、翼の付け根に顔を近づけ始めた。

「その程度の力とは・・・嘆かわしいことだ」

 レビヤは呟きと共に翼の付け根を咥え、そのまま首を大きく持ち上げる。
 翠の竜はそのまま空中に持っていかれてしまい、未だはっきりしない頭を働かせて身を捩って逃れようとしている。
 だがその抵抗もむなしく、そのまま岩壁に向かって投げられてしまい、壁に激突して地面に倒れこんでしまった。

 行司役の竜がレビヤの勝利を告げ、あたりは歓声に包まれる。

「つ・・・強い」

 ガルムは驚愕したようで、その言葉だけ発して黙り込んでいる。

「おいらに優勝の可能性があるって、旦那さんは言っていたけど、やっぱりレビヤには勝てそうにないよ・・・」

 改めて見せつけられたレビヤの強さに、レグナは頭と尻尾を下げて落ち込んでしまう。

 暗い雰囲気が立ち込め始めた中、オリービアが意外な言葉を発する。

「私は勝てる見込みあると思いますが」

 驚いたレグナとガルムは、オリービアを見て目を見開いている。

「おねえちゃんは、なんでそう思うです?」

「なんとなくなのですが、レビヤさんは今のレグナさんより強いとは感じないんですよね。本当に感覚の問題なのですが」

「おねえちゃんは獣操師じゅうそうしになったです。もしかしたら、獣の強さがある程度分かるようになってるかも知れないです」

「そうですね、前には無かった感覚ですから」

「そんな曖昧な・・・」

「ルシファー様が離れてしまった以上、今は自分の力を信じて戦うしかありませんよ」

「決勝までに帰って来てくれないかな」

 レグナの未だ弱気な発言に、ガルムは呆れつつ溜息をつき、サラーはルルの首に跨って耳をもふもふし始めた。

 オリービアが少しでも元気づけようとレグナの前足を叩き、レグナはオリービアに顔を寄せて撫でてもらおうとする。

 その光景を見ながらレビヤは退場し、歓声が止んだ後に次の試合が行われた。

 残った1回戦の試合は全て終わったが、レグナとレビヤの試合以外は揉みくちゃになる泥仕合の様相だった。
 この事からも、現在のレグナとレビヤの力が突出していることが分かり、会場の興味はもはやレグナとレビヤにのみ注がれている。

 そのことがレグナにとっては自信に繋がったようで、2回戦が始まるころには今までとは違って前向きになっているようだった。

 オリービアは勝ち上がりだと、2回戦でレビヤと当たると心配したが、この竜闘祭は毎回組み合わせが変わるというのと、決勝で自分とレビヤを当てたいと考えるだろうと言うレグナの言葉に、一旦の安心を得ていた。

 やがて2回戦の開始が宣言され、レグナは闘技場に入っていく。

 戦いのようすから、脇で見ていることに危険を感じたオリービアは、観客席をかねている岩壁の一角に場所を用意してもらい、サラーを抱えて飛び上がる。

 ここなら大衆の目にさらされることもなくなり、安全も確保できる。
 ルルとガルムも飛び上がって観客席に収まり、レグナの試合を見守った。

 第2回戦、レグナの試合が始まろうとしていた。
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