異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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10章 竜闘祭と決着そして別の戦い

10.3 決勝へ向けて決意を固めた話

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「両者用意はいいか?」

 レグナと対戦相手の薄翠の竜は頷く。

「では、始め!」

 行司役の竜の合図で、お互いに突進を始める。

 今度は闘技場の中心で2匹の竜が頭をぶつけるが、薄翠の竜はそのまま吹き飛ばされてしまい、自然と翼が広がって木の葉が舞い落ちるように、場外へ落下してしまった。

「しょ! 勝者! レグナ!」

 レビヤの時と負けないほどの声援が発せられ、レグナは恥ずかしそうに闘技場からオリービア達の所に戻る。

「やりましたね!」

 オリービアは拍手をしながら出迎え、サラーはレグナの前足を抱きながらはねて喜んでいた。

 喜んでいるのも束の間、羽ばたく音が聞こえやがて足元が陰に包まれていく。
 雨雲かとも思われたそれは、1匹の竜が自分達の所にゆっくりと降下してきているものであった。

 宙に浮かぶその竜はレグナと同じ位の体躯を持ち、そして燃えるように紅い体をしている。
 その姿を確認すると、まるで嘲笑しているかのようなレビヤが漂っていた。

「小物に勝ったくらいで、よくもまあそこまで喜べるものだな」

「そんなことまで言うようになってしまったんだね・・・」

「何を言う? 妾は元からこうであると思うがな」

 レグナはその言葉を受け止められないのか、頭を左右に振って無言の否定をした後、ただ寂しそうな目でレビヤを見上げる。
 それに対しレビヤは、何か言いたげな、でも堪えて言わないようにしているような、レグナとは別の寂しそうな目で見下ろしていた。

「妾とは決勝まで当たらないであろう」

「何でそう思うんだい?」

「竜闘祭と謳う以上、これは観客を楽しませる催し物でもある。妾とぬしは注目の的だ。決勝で戦った方が盛り上がるであろう?」

「おいらは、レビヤと戦えればそれでいいよ」

「勇ましいことよ。ぬしに何があったのやら」

 レグナは黙って事の成り行きを見守っている、オリービア、サラー、ガルム、ついでにルルを見て、僅かに笑ったような態度を見せてみる。

「シディムの谷を訪れて、神緑の森を抜け、人間の街に行ったら、おいらは本当に良いと思える出会いをしたんだ」

「住処を出ての出会いが、ぬしを変えたのであれば、神竜族が進出するのも否定はできまい」

「おいらは・・・人間を支配するために行ったんじゃない!」

 オリービア達も初めて聞く、レグナの憤りから来る強い語気の言葉。

 レビヤは僅かに驚いた顔をした後、一瞬だけレグナを悲しそうな目で見た。
 それはレビヤにとっても、初めて目にするレグナの、生の感情だったのかもしれない。
 
「変わったな・・・レグナ。どちらにしろ、決勝が終われば全てが決まるというもの」

「レビヤ、おいらと約束して欲しいことがある」

「約束するか分からぬが、申してみよ」

「おいらが勝ったら、何でカマエルの話に乗ったか、何でお父さんを殺したのか、全部答えてもらう!」

 レビヤは直ぐに返事をせず、ただただ黙って羽ばたきだけをしている。
 返事を待つレグナが、もう一度問いかけようとした時、やっと返答が来た。

「いいであろう」

「約束だよ」

「構わぬ。勝つのは妾だからな」

 レグナは4足歩行状態から後ろ脚だけで立ち上がり、胸を張ってレビヤを見下ろすように口を開く。

「勝つのはおいらだ」

「・・・それ程自身があるのなら、今妾を内倒せばいいものを。だから甘いのだ」

 それだけを言い残し、レビヤは反対側にある自分の観客場所に飛んで行ってしまった。

「う~ん」

 オリービアが前で腕を組みながら、目を閉じて何かを悩み始める。

「奥方、どうされたのだ?」

「いえ、う~んとですね。上手く言葉にできないのですが」

 再び悩み出すオリービア。腕を組み直立不動で目をつぶっているさまは、まるで哲学にふける若き学者のようであった。
 オリービアが何に悩んでいるのかわからず、ガルムは前に出て顔を覗き込んでみる。
 ふざけて軽く鼻息をかけてみるが、オリービアは僅かに驚いたあと同じ姿勢を続けている。
 ガルムは次に肉球をほっぺに当てて、自らフニフニしてみるが、オリービアは僅かに喜んだあと同じ姿勢を続けている。

 その光景を見て、サラーはあることを思っていた。おにいちゃんが不在の時は、やはりこうなってしまうのだと。
 そしてルシファーが飛び去った方向へ、両手を組んで祈る姿勢をとり、早く帰って来てくれ! と思うのであった。

「えっと・・・何? この感じ?」

「ご主人がいないとこうなるんだよ。直ぐに慣れるよ!」

「ルルさん! あたしの味方だったです!」

「いや・・・だからさ? どうすんのこれ?」

「一通り終わるのを待つしかないです」

 サラーの言葉に何かを諦めたのか、レグナは喜怒哀楽以外の目で、オリービアとガルムの謎の駆け引きを見守るのだった。

「尻尾は反則ですよ!」

「我が尻尾は極上の触り心地であろう?」

 下らない事をしている間にも試合は進み、レビヤの試合が次に控えている状況になって、オリービアはついにガルムの尻尾に陥落していた。

「私が言うのも何ですが、ガルムさんってそんな感じでしたっけ?」

「我は・・・」

「違うです」

「違うよ」

「おいらは知らないけど」

 何かが恥ずかしくなったのか、ガルムは黙り込んでから伏せて顔を隠してしまう。
 尻尾がへたって震えているところを見ると、よほど恥ずかしかったのだという事が伝わってくる。

「それで? 何を悩んでいたの?」

「それなんですけど、あのレビヤさんの事なんです」

 ちょうど反対側で観戦していたレビヤが飛び立ったのを見て、オリービアは指をさす。レビヤが闘技場に降り立ったとき、自分が指を刺されていることに気づき、やや不機嫌なようすで顔をそむけた。

「なんとなくなのですが、レビヤさんが優勝しようとしているのって、レグナさんの為な気がするんですよね」

 どういう事と言わんばかりに、レグナは首をかしげている。

「でも・・・お父さんを殺したのは事実なわけで」

「そうなんですよね。でも私の受けた印象は、そうではなかったんですよ」

「おねえちゃんは、今回の件に秘密があると思うです?」

「そうなんですよね」

「どうしてそう思うです?」

「女の勘です!」

 サラーもレグナも目が点になり、根拠がない話であったことに愕然としているが、ルルだけは何故か納得したように頷いている。
 そんなルルをみて、サラーは更に混乱の渦に飲まれていく。

 ちょうどその時、やっとふっきれたのか、ガルムが立ち上がり口を開く。

「どちらにしろ、話させるためには勝つほかあるまい」

「・・・そうだね」

 レグナがそう呟いた時、大きな破裂音に似た音が響き、会場に再びの歓声が上がる。

 闘技場に目をやると、レビヤが対戦相手の竜を踏みつけて戦闘不能にしていた。突進をしてきた竜の頭を踏みつけ、そのまま意識を奪ったようだ。
 その光景は、とても長になるような者には見えなかった。

「レビヤは、おいらが倒す」

 その決意も新たに、竜闘際はレグナとレビヤの独壇場状態で進んでいき、多くの敗者を生みながら決勝を迎える。

 対面して以降、レグナとレビヤは話すことはなく、お互いの試合を観察し底を知ろうとしていたが、お互いに必勝のきっかけを得ることはできず、この決勝の場に足を踏み入れた。

 竜闘祭決勝、その最後の戦いの場で、レグナとレビヤが互いを睨みながら相まみえる。

 会場の全ての竜は静まり返り、この戦いの行方を見守っていた。

 次期族長、その誕生を待っているのだ。

 闘技場でにらみ合うレグナとレビヤの横で、行司役の竜が試合開始の合図をする頃合いを図っている。

 一筋の風が吹き込み、それにより巻き起こる砂埃が収まった時だった。

「始め!」

 漆黒の竜と深赤の竜は同時に走り出し、闘技場の真ん中で轟音を立てて頭をぶつけ合う。
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