異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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10章 竜闘祭と決着そして別の戦い

10.7 あの日あった事を聞いた話

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「人間を支配か・・・。それは無理というものだ。人間は、我ら神竜族を生み出し創造主が残した、最後の創造物。それを支配などというのは、不敬に値する。それに我ら神竜族は、彼の地から離れると滅びるという預言が」

「人間は前創造主の失敗作って聞いてるから、問題ないとの事なのだ。後その預言も、この地に君達を留める為の方便と聞いているのだ」

 堂々とした簡単な否定を投げかけるカマエル。

 悠久の時の中を、与えられたものを信じて生きてきた神竜族にとって、その言葉は受け入れがたいものであった。
 もしカマエルが言っていることが本当であれば、今までの自分達の議論は何だったのだろうか。

 将来への不安は何のために感じていたのだろうか。

 そんな感情が渦巻いている中、遂にレビヤも会話に加わろうとする。

「人間を支配したとて、我らの衰退は止められるとは思えぬ。妾は・・・とても受け入れられぬ」

「受け入れられるか、受け入れられないかは関係ないのだ。創造主の指示に従う、それが創造された者の務めだと思うのだが?」

 カマエルは眉一つ動かさないものの、ゆっくりとその背に携えている戦斧に手を伸ばそうとしている。
 そのようすは、明らかに望むとおりに事が運ばれなければ、戦うことも想定している動きではあった。

 その意図を察し、族長とレビヤは直ちに臨戦態勢をとり、力の即時発動が出来るように、体内で神力を高めているようだった。

「そのような申し出、到底聞き入れられるものではない! 一族の誇りにかけて、我輩らは戦う!」

「妾と族長を相手にし、無傷で帰れると思うな! まがい物の天使が!」

 覚悟を飛ばされたのにも関わらず、今まで無表情であったカマエルが、不敵な笑みを浮かべ、空気だけを通して起こす乾いた笑いのように、僅かに笑い声も漏らす。

「創造主は本当に凄いのだ。ここまではおっしゃられた通りなのだ。後は・・・族長の方を始末するだけなのだ」

「な!? それはどういう!」

 族長の困惑した声が響く中、確かに目の前にいたはずのカマエルがいなくなる。
 その認識だけをした瞬間、カマエルは族長とレビヤの後方に姿を表し、戦斧に付いた血を振り払っていた。
 それと同時に、族長の左翼は切り落とされその質量に似合わない程、ゆっくりと小さい音を立てて地面に落下する。

 族長は何が起こったのか分からずにいると、やがて訪れる痛みの信号と共に、自らの翼が切り落とされたことを認識した。

「ぐ! ぐあああ!」

 堅牢な竜の体では、死ぬまで訪れることのない痛みの信号。それが今自らを襲っていることに動揺し、苦痛に声を漏らす。

「族長! 何故だ!? 竜の鱗を貫くことなど・・・」

「僕の戦斧は創造主に与えられた、神鉄の戦斧なのだ。神鉄であれば、竜どころか神獣も殺せるのだ」

「ぐ・・・馬鹿な。それは、我らが創造主が与えた」

 痛みの回廊の中で必死に冷静を保とうとし、カマエルの戦斧を観察する。
 確かに携えられている戦斧は、青みがかった色をしており、古来より伝えられている特徴と一致している。
 そしてなにより、自分の翼を切り落としたという事実が、それが本物の神鉄であることを物語っていた。

「これでいう事を聞く気になっていると、嬉しいのだが」

「なぜ殺さない?」

「創造主の命だからなのだ。君らがそう言ったら、翼を切り落とせとの仰せなのだ」

「これすら・・・貴様の意志ではないというのか」

「僕は創造主の武器であり、その命に従う者なのだ」

 抑揚もなく、まるで感情を忘れ去ってしまったかのようなカマエルの声。
 それはもの言わぬ人形が、下手な腹話術で喋らされているかのようにすら感じる。

「困ったのだ。この後どうすればいいのか、聞いていないのだが」

「ふははははは!」

 族長の高らかな笑い声が響き、カマエルはあっけに取られてしまう。それもそのはずで、今まで弱り切っていた竜が、翼を斬り落とされた事を忘れてしまったかのように、目の前で笑っているのだから。

「さしずめ貴様は、その創造主の使い走りと言ったところか! 考えもせず、ただ命とやらを遂行するだけの存在を創るとは、貴様の創造主とやらの底が知れるというもの!我輩たちを創りし創造主は、貴様と違って意思を与え、世界を与えた。貴様の創造主とは比べ物にならないほどの、偉大な方だ!」

「妾たちは、貴様のような者に屈することなどせぬ!」

 今度はこちらからしかけると、踏み込む体勢を取る族長とレビヤが、発した言葉を後悔するほどの怒気が覆いかぶさってくる。

「あ!?」

 今まで眉一つ動かさず、どこかけだるそうに接してきていたカマエルの顔は歪んでおり、何者も寄せ付けないような雰囲気に様変わりしていた。

「お前ら、僕をバカにするだけじゃ飽き足らず、創造主までも! 前創造主の遺物が! 調子に乗るな!」

 カマエルは激昂しながらも、戦斧を器用に回転させながら、族長へ急速に距離を詰めて前足を斬り落とす。
 悲鳴を上げる間もなく、胸部を深く抉られ順繰りと体を切り刻まれていく。

 やがてカマエルが動きを止めるころには、虫の息になった族長が自分の血で形成された絨毯に伏せているだけになっていた。
 自らも尊敬し、憧れの存在であった族長のあまりに悲惨な光景に、レビヤは動くことが出来ず、族長が切り刻まれていくのをただただ眺めるしかない状態にいる。

「次はお前の番だ!」

 もはや口調まで変化したカマエルは、歪んだ形相に笑みも加えて、異様を通り越した雰囲気でレビヤに近づいて行く。
 せっかく絞りだした声が、再び閉ざされてさえしまっている。

「お前も楽には・・・創造主?」

 あまりにも突然にカマエルは歩みを止め、驚いた表情で何者かと会話を始める。

「いや、しかし! 命であれば従いますが。こいつらは、創造主を」

 その隙を見逃しまいと、レビヤは尻尾を横に振りぬいてカマエルを攻撃する。
 だが当然とばかりに飛び上がって交わされてしまい、レビヤの尻尾は空を通過するだけで終わってしまう。

「問題ありません。お話の続きを・・・」

 カマエルはもはやレビヤと族長のことなど眼中に無いようすで、自らの創造主との会話に集中している。
 レビヤはこの隙に族長に近づき、顔を近づけて声をかける。

「族長・・・」

「レビヤ・・・我輩はもう永くないだろう」

 それは言われなくても分かる事。いくら強靭な体を持つ神竜族であっても、かろうじて原型を留める程度まで斬り刻まれては、生きていることなど出来ない。
 欠損した部位は痛々しく、そこから止まることない出血が続いている。

「なにか・・・方法が」

「もう我輩は助からない・・・いいか? よく聞くのだぞ」

「族長・・・」

「我輩の死後、通常の習わしに従って竜闘際を開き、お前が急進派の長として優勝するのだ。そして・・・カマエルに従うふりをしてこの地を離れろ」

「何を言っているのです!?」

「お主が急進派の長に推薦されている事は知っておる。ごく自然な流れであろう。そして一族を連れて、あのカマエルとやらに見つからないところへ逃げ延び、どんな状態でも種を絶やすでない」

 レビヤは与えられる情報を一つ一つ解釈していっているようだ。

「先祖返りのお前には感じなかっただろうが、幾日か前に・・・神狼族が我らとは異質の神域の力を持つものに、滅ぼされたようだ」

「その異質の力とは!?」

「カマエルと同じもの。つまり我らの創造主とは違う、奴らの創造主から与えられた神域の力。我輩は・・・カマエルを信用することは出来ぬ。その創造主もな・・・。もし繁栄を約束するのであれば、彼のような者を遣わすだろうか」

「それは、妾も同じ思いではあるが・・・」

 小さく咳き込む族長。
 もはや残された時は、あまりにも少ないようだ。

「もはやこの地に残ってもしかたない。新天地へはレビヤ・・・お主が導け」

「レグナは? レグナの力があれば・・・」

「レグナは優しすぎる。導き手にはなれん。それに、あの子は感情の赴くままに行動し、カマエルに戦いを挑むかもしれん。自らの父を殺した敵へ・・・」

「ですがこの状況が変わらなければ、同じ結果になるやもしれませんぞ」

「レビヤ・・・最後の頼みがある」

 最後の力をふり絞って、族長は頭を持ち上げる。

「我輩を・・・殺せ」
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