異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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11章 仲間と帰還そして帰還

11.4 仲間が集まった話

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 オリービアはあの速度に対応する、身体能力を発揮している。
 恐らくは神竜族との契約を経て、かなりの強化がされているからだろう。
 純粋な速さと力ではもはや、神に強化されているこの肉体を超えているのかもしれない。

 これなら、カマエルとかなりいい勝負ができるのでは? と思った時だった。

 互いに見合って動きがないカマエルとオリービアだが、オリービアの手は僅かに震えているように見える。
 カマエルの戦斧を弾いた影響だろう。剣との重量差もあるのだろうが、純粋な力の差も影響しているのだろう。
 それをけたたましい金属音が物語っていた。

 こんな状況なのに、俺の体はまだ動きそうにない。

 初めてだ・・・誰かを助けたいと思っているのも、それが出来ない悔しさを感じているのも。

「来ないと退屈なのだが。どうしたのだ?」

「どうやったら、あなたを倒すことが出来るのか。それを考えていたのですよ」

 オリービアだけが気付いていた事実がある。リトグラフで出来た、自分の剣が刃こぼれを起こしていることに。
 見るからに神鉄で創られた戦斧、それと打ち合えば当然の結果だ。このままぶつけ合えば、先に武器が壊れるのは明白であった。

 ルシファーに買ってもらった大切な剣。
 それがオリービアに攻撃を躊躇わせる、思わぬ要素になってしまっていた。

「つまらないのだ・・・もう一度あの動きを見せて欲しいのだ」

 カマエルが戦斧を振りかぶった時、迷いを振り切ったオリービアがレグナの頭から飛び跳ね、空中で静止していたカマエルの頭に剣を振り下ろす。
 僅かに口元に笑いを浮かべながら振りかぶっていた戦斧を、間に合うのが当たり前かのように振り戻してから、両手で横に寝かせて柄の部分でオリービアの剣を防ぐ。

 あの状態から間に合うのか! そう思った時だった。

「何なのだ!?」

 カマエルが僅かに発した、慌てるような声。

「やあああああ!」

 カマエルはオリービアの雄たけびと共に増した剣圧に負け、勢いを殺すことが出来ずに地面に追い落とされる。
 かなりの威力で降下させられたものの、カマエルは翼を大きく羽ばたかせ、まるで重力が無くなったかのような浮遊を地面すれすれで行った後、広げた翼で空気を包むようにし、木から離れた枯れた葉のように、ゆっくりと地面に足をつけた。

「面白いのだ! 創造主が求めてる御方よりよっぽど」
「ふん!」

 カマエルが余裕を見せる中、着地に合わせてレグナが尻尾の鞭をお見舞いする。
 レグナの鋼鉄をも超える鱗で覆われた、全身の力をふり絞って行う鞭の威力は創造するだけでもぞっとする。

 そんなもので薙ぎ払われれば、いくらカマエルといえど抵抗も許されずに吹き飛ばされるというもの。

 吹き飛ばされたカマエルは、揉みくちゃになりながら転がっている大岩に激突し、土埃を立てて見えなくなった。

「凄いです! レグナさん!」

「なんかこうすればいい気がしたよ!」

「契約をすると、意思疎通のようなことが出来るそうです。私達が連携すれば、あのカマエルも倒せるかも」
「調子に乗らないで欲しいのだが」

 風切り音と同時に、カマエルが翼を大きく羽ばたかせ、土埃を霧散させてその姿をあらわにする。

「確かにいい動きなのだが、所詮は人間と前世代の遺物なのだ」

 まるでやっと見つけたおもちゃが期待外れであったかのように、落胆の様相を呈している。

「無傷ですか・・・」

「結構渾身の攻撃だったのに・・・」

 カマエルは着ている宗教服のようなローブに付いた汚れを振り払い、身だしなみまで整える余裕を見せている。

「どうしようか悩むのだが。あの竜と同じような死を望むのだ?」

「カマエル!」

「冷静になりましょう。実力で劣る私達が挑発に乗っては、より勝てる確率を下げるだけです」

 オリービアの言葉で、レグナの性格からはかけ離れているようにすら感じる、怒りの感情は鳴りを潜め、カマエルを見据えて動きを観察するものに変わる。

「僕に勝てる確率が、あると思っているのは心外なのだが」

 カマエルは飛ぶのを止め、人のように歩いてオリービアとレグナに近づく。

 今まで気が付かなかったが、カマエルが地面を踏むたびに、砂利と砂が混じった荒地の大地は僅かに沈んでいる。
 戦斧の柄の中心を、細い右腕で下に向けて斜めに持っている影響か、右足の沈みの方が僅かに深く見える。

 いったいあの戦斧は、どれ程の重量を持っているのだろうか。

 そう思った時だった。

 大口径の衝撃波がカマエルを包み、地面を抉っていく。

 その衝撃波が収まるころ、知っている声達が耳に届いた。

「主! 奥方!」

「おにいちゃん! おねえちゃん!」

「ご主人を助けに来たよ!」

 ガルムの背に乗り、サラーが声を上げている。
 ルルも後ろに続いていて、今回ばかりは勇ましい登場をしているようだ。

「あれがカマエルみたいだよ! やっつけるよ!」

「獣風情が、僕に勝てると思っているのが不思議なのだが」

「とりあえず距離をとるよ!」

 カマエルの睨みつけにより一瞬で威勢のよさが吹き飛んだルルは、突進を止めて回れ右して俺に近づいてくる。

「ご主人!」

 寄り添うと同時に額を擦り付けてくるが、うっとうしいことこの上ない。
 せっかく珍しく格好良く登場したのに、秒で全てが台無しになってないか?

「主! 娘を頼む!」

 遅れてやってきたガルムがサラーを下ろして直ぐに、踵を返してオリービアとレグナの元に向かった。
 流れるような行動の選択を見ていると、オリービアと連携が取れていることがうかがえる。

「あたし・・・また足手まといです」

 そうつぶやくサラーの表情は、あまりにも悔しいような感じだ。

「お前らも来たのか・・・」

「当たり前です! おにいちゃんが危ないなら当然です!」

「ご主人傷だらけだよ」

 サラーが膝をついて弱っている自分の脇を持ち支え、ルルは傷口を丁寧に舐めてくる。

「お前らまで何で・・・俺を。俺は助けに来るような、価値のある人間じゃ」
「えいです! うぎゅう・・・」

 サラーがマスク越しにビンタをするが、叩いた手の方が痛かったのか悶絶している。
 真っ赤になったてのひらを吹いて、痛みが収まったころに改めて向き直った。

「おにいちゃんは何もわかっていないです! 価値がない人間なんていないです! あたしは、おにいちゃんに居て欲しいです! それだけで充分です!」

 痛みから来ているのか、それともこの叫びに近い言葉から来ているのか、涙ぐみ必死に何かを伝えようとしている少女の姿があった。

「そうか・・・。すまない、こんな時に俺は、どうすればいいか分からない」

「こういう時は、お礼を言えばいいです!」

「あ・・・ありがとう」

「よし! です!」

「ご主人が珍しく素直だよ! 痛い! 痛いよ!」

 なぜかルルにイラっとしたので、おもむろにぐいぐいと髭を引っ張ってみる。

「何で!? 何でかわからないよ!」

「いや・・・その、なんとなくな」

「酷いよ!」

 ルルが後ろ足をダンダンと踏み鳴らして抗議しているのを見えると、大きいだけのうさぎなんだなと改めて感じる。

「うう・・・」

「どうした? サラー」

「あたしはまた足手まといです」

「さっきも言ってたが、そんなことはないと思うんだが」

「でも・・・でも! あたしも戦えれば、役に立てるのにです」

「充分に役に立ってる。人には得手不得手があるから、気にする事は無い」

「うう・・・」

 納得いってないようすのサラー。こんな事を気にするようになっていたとはな。

 だが今はオリービア達だ。傷は順調に回復していっているが、まだ戦いには参加できそうにはない。
 ルルが舐めている傷の回復が早いのが謎だが、野生動物って舐めて治すと習った覚えがある。・・・もしかしてそれだろうか。

 サラーが変な考えを起こさないよう、見張りながら戦いを見守るしかなさそうだ。



 ガルムはオリービアとレグナと合流し、横並びでカマエルとの間に壁のように立ちはだかっている。

「神竜族に神狼族、それに強い人間。面白い組み合わせなのだ」

 品定めするかのようにカマエルは僅かに笑いながら、それぞれに目線を移して観察している。
 カマエルは戦斧を両手で持ち替えて、腰を落として初めて型のような姿勢をとる。

「うわあ・・・なんかあれって、本気っぽいですね」

 オリービアのこめかみから一筋の冷汗が流れ、緊張感が高まっている。

「奥方、我らはレグナとの契約で更に強くなっているはず。ここは連携を強めて向かい打つのが得策だ」

「おいらも協力するよ」

「そうですね! ウリエルの時とは違うということを見せましょう!」

 三者三葉に踏み込みの姿勢をとり、カマエルの次の行動を待つ。

「ああ・・・楽しみなのだ。どうか僕を楽しませてほしいのだ」

 カマエルは力を込めて、へこみが出来るほどの力で地面を蹴り上げた。
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