異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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11章 仲間と帰還そして帰還

11.5 戦いにすらならない話

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 カマエルが踏み込み、低空で滑空しながらオリービアに迫る。
 あっという間にオリービアの目の前まで近づき、戦斧を振り下ろそうとしたその時、オリービアはその場で垂直に飛び上がり、その背後からレグナの尻尾が現れる。

 鞭のようにしなった尻尾は、そのままカマエルを吹き飛ばす。

 体を一回転させて発生したその膂力りょりょくは、カマエルに抵抗も回避も許さず、重力を失ったかのようにカマエルを飛ばしていた。

「ガルムさん!」

神狼の崩口しんろうのほうこう!」

 未だ体勢を整えられないカマエルに対し、ガルムが衝撃波を飛ばして追い打ちをかける。
 衝撃波は地面を抉りながらカマエルに迫るが、その到達とともにカマエルは翼を広げて一回だけ大きく羽ばたき、衝撃波を交わして上空に逃れた。

「いいのだ! いいのだ! 少しは戦いの様相を呈しているのだ!」

 手加減のないレグナの強力な一撃を食らっても目立ったダメージがなく、隙のない連続攻撃を簡単に避けるカマエル。
 更には上空へ逃れながら、子供のように無邪気にはしゃいでいた。

「追撃です! 神狼の崩口しんろうのほうこう

 オリービアは空中でガルムの技を放ち、動きを止めたカマエルへ衝撃波を放つ。

 今度のカマエルは避けるのではなく、戦斧を両手持ちにしてから大きく背後に振りかぶり、横一文字に衝撃波が到着すると同時に振りぬく。
 渦を巻いて迫っていた衝撃波は、霧散してそよ風よりも弱い風を起こし消えてしまう。

 打ち消したのだろうか。何が起こったのかすら分からなかった。

「何ですかそれ!」

 オリービアは納得が出来ないようで、地面と着地すると同時に文句を飛ばしている。

「奥方、奴から神力を感じた。恐らくは神力をぶつけて相殺された」

 ガルムがオリービアに駆け寄り、何が起こったのか推測を話す。

「おいらも、驚く程の神域の力を感じた。改めて思ったけど、ガルムさんとおいらの神域の力と、あのカマエルの神力は似て非なるものに感じる」

 レグナも頭を下ろし、オリービアたちの会話に加わる。

「どうしましょう・・・全く勝てる気がしません」

「諦めるのは早いぞ、奥方。奴はガブリエルのように毒を使わず、ウリエルのように炎を使わない。これであれば・・・」

「その通りなのだ。だから早く遊ぼうなのだ」

 待ちきれないとばかりに、不敵な笑みを浮かべたまま手招きをし、挑発するカマエル。

「とりあえず、できることは全部してみますか」

「我もそのつもりだ」

「おいらも全力で行く」

 オリービアはガルムに飛び乗り、ガルムは大回りで空中に浮遊するカマエルの背後に回ると同時に、レグナは自らに流れる神力を高め、父の技を再び発現する。

神竜の炎鱗しんりゅうのえんりん!」

 技の発現と同時に、レグナの漆黒のうろこは発熱を始め、それはあっという間に白熱化し、神秘的とも思える紅き発光を始めた。
 瞳も紅く染まり、顔が動くたびにその軌道に沿って紅い残光が残る。

「そんなことも出来るとは、やや意外なのだが。ウリエル程ではないが、とても美しいとも思えるのだ」

「おいらはもう一人じゃない、お前を焼失させる! カマエル!」

 レグナは地面を蹴り上げ突進を開始し、そのまま翼を羽ばたかせ、地面から足が離れていく。
 羽ばたきを強くし、一気にカマエルの元まで上昇。あっという間に眼前へと迫った。

 そのようすを見ながら、カマエルは余裕の表情を浮かべたまま、石のように動かないでいる。
 そのカマエルに対しわずかに苛立ちを感じながらも、冷静さを失わないように観察をしながら、レグナはその大きな口を開け、カマエルを灼熱の口内で焼きながら白熱した鋭い牙で噛み砕こうとした。

「速く強くなったのだ。でも、期待したよりは・・・なのだが」

 意識の隙間で捉えられる僅かな瞬間に、レグナは確かにその言葉を聞いた気がした。

 カマエルは体を捻らせながらかみ砕こうとする口をかわし、戦斧を振りながらそのまま体ごと回転、横回転の力をそのまま縦に振り下ろす力に変えた後、一撃でレグナの首を切り落とそうと戦斧を振り下ろす、
 レグナは物事が全て遅くなるような感覚に陥り、唐突にそれが自分の最後の瞬間なのだと理解してしまう。

 覚悟すら間に合わないその瞬間、まさに戦斧が迫った時、カマエルの背後にオリービアが現れる。

神竜の炎牙しんりゅうのえんが!」

 レグナとの契約によって得ていた、神竜族の技を発動し、オリービアは自らが持つリトグラフの剣を熱し、白熱化させてカマエルの脇腹へ振りぬく。
 僅かにカマエルから声が漏れた後、そのままの勢いを保ったままカマエルは地面に追い落とされた。

「鬱陶しいのだ。同時に攻撃なんて卑怯なのだ」

 カマエルは体を翻して着地をすると同時に、人間のように苛立った表情に変わっているが、それとは裏腹に、傷一つ無い体のまま立ち上がる。

「奥さん! 助かったけど、今のおいらに近づいたら危な・・・いよ!?」

 レグナは自分の首に着地したオリービアを心配するが、その姿を見て驚いている。

「大丈夫です!」

 オリービアの頭にはレグナと同じ形の黒い角が生えており、鎧ドレスの下からは尻尾が覗いている。
 さらには手と足にも鱗が形成され、それは首の根元まで覆っていた。

「え!? どういうこと?」

「説明はあとです! 私もこんな姿を、ルシファー様に見せるわけにいきません。だから早くカマエルを倒しましょう!」

「それって神竜族のだよね? ”こんな姿”って酷くない!?」

「酷くありません!」

 相変わらずの緊張感の無い会話を聞きながら、カマエルは戦斧を構えなおして、この戦いを終わらせようとするが。

「我を忘れてないか? 神狼の崩牙しんろうのほうが!」

 後ろに現れたガルムは、カマエルが振り返る間もなく、神狼の崩牙しんろうのほうがを発動し振動によって切断力を上げた状態でカマエルの胴を噛み、そのままつぶそうとする。
 だがどれだけ力を込めても、牙が刺さる気配すらない。

「困るのだ。これ以上、創造主から頂いた服を汚されたくないのだ」

 そこに力が存在しないかのように、カマエルは戦斧を持ったまま両手を広げ、ガルムの口を開いて見せた。

「ばふぁな!」

 ガルムが驚愕するほどのその膂力りょりょくにより、カマエルは開いた口の中から飛び出し、着地と同時に地面を蹴ってガルムに戦斧を振り下ろす。

「ちぃ!」

 ガルムは神狼族にふさわしい脚力で難を逃れるが、地面に振り下ろされた戦斧は轟音を上げ、乾いて硬化していた大地にひび割れを作り、棚氷をたたき割ったかのように砕いて見せた。

 そのようすを見て、ガルムは警戒の感度を上げると同時に、当たればその時点で絶命を覚悟しなければいけないことを認識する。
 もしまともに食らえば、その後にはかつて自分だったものの、欠片しか残らないだろうと。

「意外に動けるのだ。でもそろそろ飽きてきてもいるのだが」

 戦いといえるのか分からないものが始まってから、カマエルは全てにおいて余裕な態度を崩さない。

「焼失させてやるぞ! カマエル!」

 今度はレグナが青い炎を吹き出すが、神竜の炎鱗しんりゅうのえんりんも発動させているのもあるのか、今までで最大の範囲を包んでいた。

 ガルムはその効果範囲から逃れ、オリービアはそれを確認してからレグナの首の上で大きく息を吸う。

「ぼあああああ!」

 なんとも言えない声を発しながら、オリービアも赤い炎を噴き出して見せる。

 その炎は互いに混ざり合い、青と赤のグラデーションを作りながら一帯を焼き尽くした。

「どうだ!?」

「私もついに炎が出せますか・・・」

 空気すら燃やす炎が消えていき、やがてカマエルが姿を表す。
 ある意味では予想出来たものの、こうもなにも通用しないというのは大きく精神を削っていく。

 オリービア、レグナ、ガルムが、どうすればいいのかすら分からなくなっていた。

「そんな感じにならないで欲しいのだが。僕としては結構楽しめたのだ。それでも期待外れではあったのだが」

 カマエルが浅いため息をつき、戦斧を片手にゆっくりと歩いてきていた。
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