異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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11章 仲間と帰還そして帰還

11.10 打開策を思いついた話

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「主! 共に離れるのだ!」

「俺は大丈夫だ」

 ガルムは熱波から逃れるために距離を取り、俺の心配をしている。

 だが全身を包むサイコキネシス<念動力>で形成された斥力の壁は、あらゆる物理的干渉もエネルギーとしての干渉も遮断しているので、熱さは感じない。
 カマエルが”この力の使い方”と形容していたことを考えると、やはり大天使は同じ力の使い方をしているはず。

 つまり、こうなった状態の俺も、神鉄の武器でしか倒せないということになる。

 だから・・・オリービアの試みも失敗するということだ。

 オリービアはカマエルの戦斧をかわし、カマエルの両手首を掴んで頭突きをする。

「人間風情が僕に触れるな! 離れろ!」

 オリービアは蹴られようが振り回されようが、カマエルの手首を離さなずに耐えている。

 神鉄の鎧ドレスと、恐らく体にも鱗が発現している為か、痛がるようすもない。

 恐らくは手首を掴んで、白熱化した手の鱗で焼き潰そうとしているのだろうが、カマエルは熱がる気配すらない。

 この隙に背後に回り込み、カマエルの首を刀で斬り落とそうとするが、オリービアを盾にして防がれてしまう。
 刀を止めてまた背後に回ろうとするが、今度はオリービアを武器にして叩かれてしまった。

「ルシファー様!」

 この状態には堪らずオリービアも手を放し、一緒に飛ばされて地面に倒れ込む。
 仰向けに倒れた俺の上に、覆いかぶさるようにオリービアがうつ伏せで倒れ込んできた。

「や・・・やった」

 この状況でも喜ぶ余裕があるのか、こいつは。

 カマエルの追撃を恐れ、オリービアをどかそうとするが、カマエルはガルムとレグナに引き付けられており、交わされる攻撃に苛立っているようだった。

「安心してください、元からカマエルの目的は私達のようです。ルシファー様が手を出さなければ、こちらに来ることはないでしょう」

「カマエルは気が散りやすいのか、今相手にしている者意外は意識しないようだな」

「子供のような感じですね」

 上体を起こすと、オリービアは腰の部分に座り続けたままでいる。

「オリービア・・・どいてくれないか?」

「だって、こんな機会今度いつあるか」

「お前な・・・。上に座られていたら何かあったも動けな・・・そうか!」

「うえ!?」

 オリービアが驚きの声をあげるが、構わずに可能かどうかを考える。

「いけるな。少なくとも、やる価値はありそうだ」

「どうしたんですか?」

「俺たちはカマエルを倒すことに、こだわり過ぎていたんだよ」

「どういうことですか?」

 首をかしげながらも、オリービアは降りる気配が全くない。

「とりあえずどかないか?」

「必要があれば」

 いやあるだろうと思いもするし、後ろで戦っているガルム達が心配なんだけどな。

「ガルムさんが、あきれているようです・・・」

 思念が伝わってきたのか、オリービアが申し訳なさそうにしている。

「そうだ! 俺たちは、こんな落ち着いて話してる場合じゃないんだ」

「そうですよ! ルシファー様はどうするつもりですか? カマエルを倒すことにこだわり過ぎていた、とはどういうことですか?」

「悟られるわけにはいかない、オリービア・・・」

 自分が発しようとした言葉を考えて、口ごもってしまう。

「どうしたんですか?」

「・・・俺を信じて、指示通りにしてくれるか?」

「そんな確認も必要ありません。どうすればいいですか?」

 さも当然のごとく答え、オリービアは支持を待っている。

「お前らを仲間とも呼びながらも、信じなかった俺にそう言ってくれるのか」

「はい」

 オリービアはは手を取り、優しく胸の前で握ってくれる。
 その姿はまるで宗教画に出てくる、有名な聖母のようだった。

「あなたを慕って着いてきたんです。ずっと信頼を寄せていますよ」

 その笑顔を見た瞬間、顔が熱くなるのをマスク越しに感じた。

「そ・・・そうか」

「はい」

 オリービアと共に立ち上がり、ガルムとレグナの戦いを見ながら説明を始める。

「カマエルに気づかれないように、どうするかだけを伝える。あいつの狙いがお前らなのを利用し、注意を引き付け続けてくれ」

「それだけでいいのですか?」

「ああ。無理して倒そうとするな。あくまで挑発して冷静さを失わせ続けながら、とにかく気を引き続けてくれ」

「分かりました」

 オリービアがガルムたちの戦いに参戦しようと、駆けだそうとした時に呼び止める。

「オリービア、無理はするな。やられそうになったら・・・ガルム達と逃げろ」

「・・・それは」

「そうだよ。お前を心配してる」

「ルシファー様! では戦いが終わったら今日は子作りを!」

「さっきみたいにしていれば、少しは好意を抱いたものを・・・」

「なんですか?」

「いいから行ってこい!」

「ひゃい!」

 オリービアは慌てて駆けて行く。

 さて、俺もやることがある。

 力の操作を行い、戦いを見下ろす程のところまで飛び上がって上昇する。

 カマエルは対象となるもの以外に注意を向けなくなるようだから、俺が今していることに気づきもしていないはず。

 この状況を利用する。

 カマエルに傷を付けたのは神鉄の刀だけなのを考えると、何をやっても通用はしないだろう。
 そして俺の動きがカマエルを超えられない現状を鑑みれば、戦い続けても倒せる確率は低い。
 連携で紙一重を狙おうにも、それもことごとく失敗している。

 根競べのつもりで上手くいく機会を待つにしても、俺の力の限界があるのか分からない以上、試すのは危険すぎるし、長引けば狙われているオリービア達の危険も増えていく。

 万策尽きたかとも思ったが、それはあくまでカマエルを倒す場合に限ったこと。

「図書室で本を読み漁っていたのが、こんなところで役に立つとは。それを思い出させたオリービアにも感謝だな」

 上昇も頃合いになったころ、戦いを見下ろす。

 オリービア達は一心不乱に戦いを繰り広げていて、カマエルの注意を引き続けている。
 口が動いているところを見ると、カマエルを冷静にさせないために挑発を繰り返しているようだ。

 俺は・・・初めて誰かから、信じてもらえているのかもしれない。

 そして・・・俺はオリービア達を、信じているのかもしれない。

 だからこそ、俺は安心して行動できているのかもしれない。

「その答えは、この戦いが終わったら考えてみるとするか」

 そう呟き、俺は片手を空に向けて突き出した。
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