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しおりを挟む『この家すごく素敵だわ!』
普通の貴族であれば、この家を見たら間違いなく顔をしかめるだろう。しかしフローリアの家は生粋の貧乏だ。そんな彼女から見れば、この家は可愛らしい家になるのだ。
寝るのには困らないし、料理もできる。お風呂にも入れるし、畑だってある。それにたしか御者の人が言っていたが、年に一度生活費をもらえるらしい。
『これって控えめに言っても最高じゃない?』
もちろん家族が側にいないのは寂しい。だけどそれはこの縁談を受け入れた時に覚悟していたことだから大丈夫。むしろ心配していたのは、公爵家の女主人としての務めが自分に務まるのかということ。それに跡継ぎのことだってある。
でもここに住むということは、その心配をする必要はまったくないということ。私が一人で勝手に心配していただけで、公爵様は初めから私に公爵夫人としての役割など求めていなかったのだ。
ただどうして私に縁談を?とは思う。もしかして公爵様は身分違いの恋をしているのだろうか。それとも本当は男性が好きとか……
『まるで小説みたいね』
大好きなロマンス小説ではよくある話だ。もしも本当にそういった理由だとしたら素敵だなと思う。
まぁ実際のところは本当の理由は分からない。ただ私に公爵夫人としての役割を求めていないことだけはたしかだ。それなら私は自分の役割を全うするために、ここで大人しく暮らそう。
私にとって公爵様は旦那様ではなくご主人様だ。
公爵様のおかげで家族も領民も救われたのだ。だから私は公爵様の望みに従うまで。
別に傷ついたりしていない。なぜなら私は公爵様から愛されたいわけでも、公爵様を愛しているわけでもないのだから。
『よし!ここで暮らすのならまずは掃除をしないと。それから食材の確認とお庭も見てみて……あ!家族に手紙を送っていいかだけは確認しなくちゃ!』
そんな理由で結婚と同時に、この家での生活が始まった。もちろん使用人はいないので私一人。だけど家事全般は何でもこなせるし、それに近くには町があるこで不便なことは何もなかった。
それから十年。
特に大きな問題もなく、自由にそこそこ楽しいお一人様生活を送っていた私。それなのにまさかここにきてこんなことになるなんて……
◇
「……ねぇ」
「はい。何でしょうか」
「……あなたはここにいてもいいの?」
「はい。どうか私のことはお気になさらないでください」
「そう言われても……」
私はこの家に十年もの間住んできたが、これまで私以外の人間がこの家の中に足を踏み入れたことは一度もなかった。
しかし今家の中には、私とお仕着せを着た女性が一人。その女性は私の三歩後ろに立っている。
所謂メイド?侍女?なのだろうとは思うが、何分私の実家にはいなかったので、どちらが正しいのかわからない。
この家に他人がいることは非常に落ち着かないが、追い出すわけにもいかず……
私はチラリと女性を見る。すると女性は何を考えているか分からない表情で、微動だにせず立っていた。
「……はぁ」
私は視線を戻しため息をつく。どうしてこんな状況になってしまったのか。原因は分かっている。それは先ほど出会ったあの貴族男性のせいだ。
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