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しおりを挟む時は少し遡り、風のいたずらで私の秘密を見られてしまったあとのこと。
男性は涙を流したまま微動だにせず、ただただ私の顔を見ているだけ。そこは顔ではなく、この髪を見るべきでは?と若干現実逃避をしそうになりながらも、なんとか男性に口止めをしなければと、思いきって切り出すことにした。
「わ、私に何かあればペンゼルトン公爵様が黙ってませんよ!」
「……」
「だ、だからこの髪のことは秘密にしてください!」
「……」
「……ちょっと、聞いてます?」
「……」
「おーい?」
「……これは、夢なのか?」
(この人大丈夫なの……?)
もしかしたら大丈夫ではないのかもしれない。だけど私はこのスローライフを守るために、何としても秘密にすると言質を取らなくてはならないのだ。
私は警戒しながらも男性に近づいた。
「あのー……」
「……」
「あの!聞こえてますか!」
「……はっ!」
ようやく私の声に気がついたようだ。先ほどまでとはずいぶんと様子が違う。本当にどうしたのだろうか。
(だ、ダメ!)
心配しそうになるものの、それどころではなかった。今は一刻も早く口止めをしなければいけないのだ。
「もう一度言いますよ?私はペンゼルトン公爵様の妻なんです!」
「つ、妻……!」
やはり公爵様の力はすごい。目の前の男性が目に見えて動揺しているのが分かる。これならいける、そう思った私は最後に止めの一言を口した。
「公爵様は私のことをとてもあ、愛してるんです!そんな私の秘密を口外すれば……あなた、どうなるかわかりませんよ?」
こう言えば、この人は貴族社会を生きていくために黙るしか……
「あ、愛し……うっ!」
男性は突然両手で顔を覆い、地面に膝をついて項垂れてしまった。
「……あ、あら?」
男性は項垂れたままピクリとも動かない。なんだか思っていた反応とは違かったが、これは口止めが成功したと思ってもいいだろう。
(さすがご主人様ね!)
人様の名前を使って人を脅す私は、まさしく虎の威を借る狐だろう。
公爵様からは公爵夫人であることは口外しないようにと言われていたが、今回ばかりは事情が事情だ。寛容な心で許して欲しい。
男性は未だに項垂れている。この人はいつになったら帰ってくれるのだろうか。このままここにいられても迷惑でしかない。この後も予定が詰まっているので、一刻も早く帰ってほしいけどうすれば……そう考えた時、ふと思い出した。
「あ」
(そういえばこの人、私に用事があるって言ってたわね)
その用事さえ済めばお引き取りしてくれるに違いない。それなら早くその用事とやらを終わらせてもらおうと、私は何かを呟きながら未だ項垂れている男性に声をかけた。
「そういえば私に何か用事があったんですよね?一体なんの用事でしょう……って、もしかしてこの封筒ですか?」
私は地面に見覚えのない封筒が落ちていることに気づき、手を伸ばし拾おうとしたのだが……
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