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16 医者視点

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 私はなぜこんな場所にいるのだろうか。
 窓もなく湿っぽくてカビ臭い場所に。それも手足に鎖を付けられて。私にはこんな場所は似合わない。
 私は皇后陛下専属の医者だ。華々しい出世の道を進んできた優秀で選ばれた人間なのだ。それなのにそんな私が地下牢に入れられているなどとても受け入れられない。

 確かに十数年前までは医者として食べていくこともままならなかった。そんなある日、突然私の目の前に現れたお方により皇后陛下の専属の医者になることができた。
 それからは生活が一変した。金には困らないし散々私を馬鹿にしてきた人たちが私に媚を売るようになった。私はとてもいい気分だった。

 そしてしばらくして仕事にも慣れてきた頃、あのお方の遣いからあるものを渡される。『毎日皇后陛下に飲んでもらうに』という伝言を伝えられた。
 何だろうと思い渡されたものを確認するとそれは茶葉だった。そしてその茶葉の中に説明書きが一緒に入っており読んでみると血の巡りをよくする効果があるらしい。なるほど、と私は理解した。きっとあのお方は早く皇后陛下のご懐妊を望んでいるのだ。だがあのお方には立場がある。だから私に託したのだと。私はその日から早速皇后陛下にあのお茶を勧めたのだった。

 しかしそれから一年、三年、五年、十年とどれだけ時間が経っても皇后陛下は子に恵まれることはなかった。さすがに私は焦った。このままではあのお方から失望され見捨てられてしまうのではないかと。だがあの茶葉が定期的に私の元に届いているうちは大丈夫だとも思っていた。

 それなのになぜか私は捕まり地下牢へと放り込まれた。理解できなかった。私は十年以上に渡り皇后陛下に尽くしてきた医者なのにこの扱い。まるで罪人のようではないか。
 取り調べではなぜかあの茶葉のことを聞かれたが、あれはあのお方の皇后陛下に対する真心だ。それを口にするのは野暮というもの。だから私は口を閉ざした。そうしたら兵士から明日の朝までに口を割らなければ拷問だと言われた。私はさすがに拷問という言葉を聞いて考えを改めた。あのお方もきっと許してくれるはずだと。
 そして兵士が来るのを待っているがまだ来ない。私はいつでも話す準備ができているというのに。



 ――コツ、コツ、コツ


 ようやく来たなと思ったら食事が運ばれてきただけだった。なんだと思いながらも腹が減っていたのでちょうどいい。それにここに入れられてから食べた食事よりも豪華でうまそうだ。私は早速食事に手を伸ばす。食事を運んできた者が兵士ではない者だということになど気がつかずに。


「うまいな!こんな上等な食事が出されたんだ。きっと俺はもうすぐここから出られ…っ、うっ!げほっ、ごほっ!…血?うっ、く、くるし……」


 そうしてそのまま医者は動かなくなった。
 自分が犯罪に加担していたこと、そしてあのお方に切り捨てられたということなど知らないままに。
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