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しおりを挟む久しぶりにあの時のことを思い出したのは、きっと目の前に座る彼がとても成長していたからだろう。あの時彼が言っていた成長とは心のことだと思っていたが、もしかしたら身体の成長のことだったのかもしれない。
「ねぇ、カシウス。あなたずいぶん立派に成長したようだけど、もしかして“愛を知る”ってことと何か関係があるのかしら?」
「……あの時の話を覚えていてくれたんですね」
「忘れるわけないじゃない。あなたと過ごす時間が、あの頃の私の唯一の楽しみだったんだもの」
「アナベルさん……」
「あっ、でもさっきの質問はあまりにも個人的なことだったわね。私ったら久しぶりにあなたに会えて浮かれているみたい。だからさっきのは聞かなかったことにしてくれるとありがたいわ」
どうやら私は浮かれやすい性格のようだ。この性格のせいで悲惨な結婚生活を送ってきたのだし、それに私もいい年齢である。もう少し落ち着かないとダメだなと反省していると、彼が口を開いた。
「あの……もし迷惑じゃなければ僕の話を聞いてもらえますか?」
彼は私の目を見つめながら、昔よりずいぶんと低くなった声で話しかけてきた。低くなった声のせいだろうか、私は少しドキリとした。
「……ええ、もちろんよ」
「この見た目の話ですが、僕の身体には生まれた時から呪いがかけられているんです」
「呪い?」
「はい。僕の家はちょっと特殊で、必ずこの呪いを受けて生まれてくるんです。この身に宿った呪いは“愛の試練”と呼ばれていて、愛を知らなければ一生子どもの身体のまま、愛を知ることができれば大人へと成長することができるのです」
「……なんだかおとぎ話のような話ね。だから当時のあなたは成人を過ぎていたにも関わらず、見た目が子どもだったということなの?」
「そうです」
「でも今は立派な大人に成長した……。じゃああなたは愛を知ることができたのね」
「……はい」
「愛を知ったってことは誰か大切な人ができたのかしら。あなたが愛する人は、きっと素敵な人なんでしょうね」
「……その人はとても優しくて、自分のことより僕の心配をしてくれる、笑顔がとても素敵な美しい女性です」
彼は照れているのか頬を赤く染めながらも相手のことを教えてくれた。どうやら彼の愛する人は、とても素敵な女性のようだ。
それに彼は昔から整った顔立ちをしていたが、今は幼さが抜け貴公子のような美しい青年となっている。きっとお似合いの二人なのだろう。
「ふふっ、その女性のことが本当に好きなのね」
「~~っ!……はい、大好きです」
「もしかしてその女性とは一緒に住んでいるの?」
アトリエと言っても住居も兼ねているのでなかなか広い。ここなら二人で生活もできるだろうと思い聞いてみると、思いもしない返事が返ってきた。
「彼女はその……結婚してるんです。だから僕の気持ちを彼女は知りません」
彼は愛を知ったと同時に失恋をしてしまったようだ。愛する人が他の男性と仲睦まじく過ごす姿を見るのは辛かっただろう。私も遠い昔、同じ思いをしたことがあるから彼の気持ちが理解できる。だから私は彼を励まそうと声をかけた。
「でもあなたは愛を知ることができた。今は辛いかもしれないけど、あなたならもっと素敵な人に出会えるはずよ」
「……あなた以上の女性はいません」
「え?ごめんなさい、よく聞こえなくて……」
「い、いえ、何でもありません!僕のことは大丈夫なので気にしないでください。それよりアナベルさんがここに来るなんてどうしたんです?急ぎの注文でもありましたか?」
「あっ!……実はね、今日私がここに来たのはあなたに大切な話があるからなの」
「大切な話、ですか?」
「ええ」
久しぶりに会えたのが嬉しくて本題に入るのが遅くなってしまった。彼は今や世界中で人気の画家だ。そんな彼の時間を無駄にするのはよくない。だから私はここに来た理由をはっきりと彼に伝えた。
「あなたに会いに来た理由はね、私たちの契約を終わりにするためよ」
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