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二章 異世界ライフ

64話 極悪転移者、追放されててワロタ

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 「そろそろ新しいの買おうかな、でも金がな……」

 すっかり馴染んだ帝都の市場を歩きながら呟く。
 今日も今日とて買い物だ。生活必需品の他に、本も欲しい。本とは、語学に関する教科書の事だ。最近この世界で使われる言語について勉強している。その甲斐あってか、簡単な文なら解読できるようになった。それと自分は勉強は好きではない人間だが、いざやってみると案外面白かった。また、帝国で使用される文字の形がキリル文字に何となく似ていたからすぐに覚えられたというのもあるだろう。
 真面目に勉強している内に、既に教科書を2冊は読み切った。ノートも全てが下手くそな文字でびっしりだ。

 「あ、いいとこ発見」

 文房具や本を取り扱っている屋台を発見。店の規模は小さいが、かなりの量だ。特にノートの数は圧巻で、今にも道路へ溢れそうになっている。

 「これにするか」

 少々中二病臭いデザインの教科書を手に取ると、店主の所へ向かった。

 「あとこれもだな」

 ついでにノート数冊もだ。
 教材の確保を終えてあとは帰宅するだけという時、どこからかエンジン音が響いてきた。それは、段々とこちらに向かっている。

 何事かと大通りを振り向くと、バイクやトラック、馬に乗った日本兵と思われる集団が帝都の外へ走行していた。物凄く殺気立っているように見える。
 どういう状況なんだと黙って見つめていると、

 「あれは、悪名高い631部隊だな」

 いつの間にか横に立っていたラマスの指導者――――モハちゃんに語り掛けられた。
 驚きを覚えつつも、彼は何か知っていそうなので質問してみる。

 「この前、爆破したのは覚えているか?」

 転移者631部隊が管轄するハルビン特別区の爆破を、忘れる筈がない。

 「もちろんだ。今でもちゃんと覚えてるよ」
 「流石にそれはそうか。じゃあ、あの新聞も覚えていそうだな」
 「新聞……ああ、あれか」

 新聞と言われて一瞬何の事か分からなかったが、631部隊の悪行が載せられた新聞の存在をすぐに思い出した。 

 「あの後、どうなったか分かるか?」
 「いや、そこまでは」
 「631部隊の追放が決まったんだ」
 「追放だって!?」

 衝撃的な事実を告げられ、反射的に大きな声が溢れる。 

 「ああ、転移者に寛大な皇帝でさえも631部隊は危険だと判断したみたいなんだ」

 まあ彼の言っている事はごもっともだ。転移者とはいえ、無差別に人を攫い、麻酔無しで手術する連中を国家の中枢に放っておく訳にはいかないだろう。

 「これでとりあえずは安心だな。まあ、ラマスの俺が言えた事じゃないか」

 苦笑いしながら喋るモハちゃん。

 「……話している内に、消えたな」

 大通りに再び目を向けると、悪逆の限りを尽くした631部隊の隊列は完全に消滅していた。あるのはタイヤ痕と、ほのかなガソリンの臭いだけ。

 外部へ続く帝都の検問所を眺める。あんなに大きかった車列は、今や豆粒の如く小さい。だが砂埃や白煙を上げており、確かな威圧感と恐怖があった。その証拠に、市民は車列の存在を知りながらも目を必死に逸らしている。

 「これで、怪物は居なくなったんだな――――」

 意図せず、そんな言葉が漏れた。
 心のどこかで、安心したのだ。

 「ああ、その通りだな。でも、脅威はまだまだあるからな」

 モハちゃんが過ぎ去っていく631部隊を傍観しながら、表情を一切変えず冷静に答えた。

 「そうなのか?」
 「脅威はいっぱいあるんだ。まずここは異世界だ。だから魔獣なんてヘンテコな生き物も居るし、ああいう危険な転生人もまだまだ居る」

 魔獣はともかく、転生人にもまだ危ない人物が存在するのか?

 「危険な転生者って何だよ?」
 「例えば……そうだな、これとか」

 彼は少し苦しそうな顔で自分の体を指さした。

 「ど、どうしたんだよいきなり」
 「セルゲイ、何か忘れていないか?」
 「忘れるって何をだ」
 「これを見てくれ」

 懐から使い込まれた緑のハチマキを取り出すモハちゃん。これこそ何と書いてあるのか分からないが、アラビア語が刻まれているのは理解できる。

 「それは、ラマスのヘッドバンドじゃないか」
 「そうだ、このバンダナを持っている奴は、全員危険でまともじゃないんだ。俺含めてな」
 「いやいや、そんな事は……」

 自分を卑下する彼に肯定の言葉を掛けようと試みるが、

 「ニュースを思い出せ、ラマスは何と報じられていた?」
 「テロ組織だけど……」
 「そうだ。だから俺は真っ当な人間じゃない。レイプだってするし、拷問もするし、一般人も平気で殺せる非道な人間だ。それさえ分かってくれたらいいんだ」

 過去がどうであれ、この地のラマスが改心しているのは事実だ。その発言には少し賛同できない部分があった。
 けれど、彼が展開した意見も的を得ている。

 「とにかくだ、帝都はお前が思っている以上に危険だ」
 「は、はあ……まあ、頭に入れておくよ」

 重たい話を続けたせいか、彼と一緒に居るのが気まずい。何というか、現実の真理を知ってしまった気がする。
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