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★vs張学良★
【張学良VS柏原②】
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忻州市上空に着くと、やはり張学良本隊らしき大部隊はそこに留まっていた。
私は操縦士たちに礼を言いコクピットを離れて爆弾倉のある荷室に移る。
落下傘を装着しはじめると、荷室担当の兵士たちが木箱を持ってきたので、何かと思って聞くと彼らは木箱に入った沢山の紙の中から1枚を取り出して見せてくれた。
紙には『これから、お互いのために重要な話し合いをする特使が降下するので、丁重に指揮官のもとへ連れて行くように』と中国語で書かれていた。
「君たち、それをいつの間に?」
私が聞くと、下士官の男が今朝私の任務を聞いて、みんなで書きましたと言った。
「中国語は知らなかったので、最初の何枚かは空港に居た職員に書いてもらいました」と他の者が付け加えると、貨物室に居た兵士たちが集まって来て言った。
「読めますか?」
「文字は、あっていますか?」
「これから、これをバラ撒こうと思っているのですが、宜しいでしょうか?」と。
「ああ、あっている。上手だ。私のために、ありがとう」
私が言うと、皆は喜んでくれ、ドアを開けて紙をばら撒き始めた。
パイロットも、そのことを分かっていて機を低速で張学良軍の周りを旋回させていた。
落下傘を装着し終わり、最後に懸垂幕を装備すると、皆がそれは何ですかと聞いた。
張学良への貢物かと聞いて来る者も居たので、大使館の人たちが私の安全を祈って書いてくれた懸垂幕だと言うと、彼らは納得して「やはり誰もが平和を望んでいるんですね」と言ってくれた。
私は、その言葉を本当に嬉しいと思った。
軍人でありながら平和を願う気持ちに、心を打たれた。
紙をバラまき終わり、更に何回か旋回した後、パイロットが降下高度に達したことを告げた。
私は皆にありがとうと礼を言い、敬礼して空に飛び降りた。
空に出ると今まで経験した事のない風に覆われる。
時速200キロ前後の飛行機から飛び降りるのは、生まれて初めて。
更に心臓が持ち上がるほどの速さで、体が落ちて行く感覚も。
あまりの気持ち悪さに、吐きそうになるのを堪えて、落下傘を開くための紐を引っ張ると、体に強い衝撃を感じた。
落下傘用のベルトが閉まり、降下速度が急に減速したが、それでも思っていた以上に早い。
懸垂幕を下ろすために紐を解き、私はユラユラと揺れながら地上へと向かった。
*
「張学良閣下! このようなものが、空から落ちてきました」
彼の幕僚の一人が、空からばら撒かれた紙きれを持ってきた。
「何と書かれている?」
張学良は、落下傘で降りて来る男を双眼鏡で見ながら、男から目を離さないまま幕僚に聞いた。
幕僚が書かれた文字を読み上げる。
「なるほど、よほど重要な任務らしいな……あの空から降りて来るヤツを、無傷でここに連れて来るように下知せよ」
「承知しました!」
幕僚は慌てて戻って行った。
*
落下傘で降下中、空から巻いたビラや垂れ下げている懸垂幕の効果もなく、地上からは単発的に銃を撃つ音が聞こえてくる。
何故だろうと考えてみれば、日本では当たり前である文字の読み書き、つまり識字率が違うことに気がついた。
日本では江戸時代ごろから武士や僧侶による平民への教育が盛んになり、当時から識字率は高く、読み書きができるのは成人として当たり前だと思っていた。
確か現代(1946年当時)我が国日本の識字率は控えめな資料で世界でもトップクラスであり、私の知る限りでは95パーセントほどあり世界一の識字率を誇るはず。
だから文字さえ書けば、誰もが読んでくれると思っていた。
しかし中国の識字率を私は知らない。
知らないが、日本より低い事は確か。
もし兵たちたちの中に、文字の読めない人たちが居たとしたら、ビラも懸垂幕も何の効果もない。
これはマズい。
いまは空中にいるから弾も当たらないが、地上に近付くにつれて弾を食らう確率は上がり、地上に降りたら瞬く間に兵士たちに取り囲まれリンチに遭って殺されてしまう。
初めからその覚悟を持ってここまでやって来たのだが、私のために気遣ってくれた皆にすまないと思った。
特に薫さんには。
「薫さん……出来るなら、もう一度だけ会いたかった」
私は操縦士たちに礼を言いコクピットを離れて爆弾倉のある荷室に移る。
落下傘を装着しはじめると、荷室担当の兵士たちが木箱を持ってきたので、何かと思って聞くと彼らは木箱に入った沢山の紙の中から1枚を取り出して見せてくれた。
紙には『これから、お互いのために重要な話し合いをする特使が降下するので、丁重に指揮官のもとへ連れて行くように』と中国語で書かれていた。
「君たち、それをいつの間に?」
私が聞くと、下士官の男が今朝私の任務を聞いて、みんなで書きましたと言った。
「中国語は知らなかったので、最初の何枚かは空港に居た職員に書いてもらいました」と他の者が付け加えると、貨物室に居た兵士たちが集まって来て言った。
「読めますか?」
「文字は、あっていますか?」
「これから、これをバラ撒こうと思っているのですが、宜しいでしょうか?」と。
「ああ、あっている。上手だ。私のために、ありがとう」
私が言うと、皆は喜んでくれ、ドアを開けて紙をばら撒き始めた。
パイロットも、そのことを分かっていて機を低速で張学良軍の周りを旋回させていた。
落下傘を装着し終わり、最後に懸垂幕を装備すると、皆がそれは何ですかと聞いた。
張学良への貢物かと聞いて来る者も居たので、大使館の人たちが私の安全を祈って書いてくれた懸垂幕だと言うと、彼らは納得して「やはり誰もが平和を望んでいるんですね」と言ってくれた。
私は、その言葉を本当に嬉しいと思った。
軍人でありながら平和を願う気持ちに、心を打たれた。
紙をバラまき終わり、更に何回か旋回した後、パイロットが降下高度に達したことを告げた。
私は皆にありがとうと礼を言い、敬礼して空に飛び降りた。
空に出ると今まで経験した事のない風に覆われる。
時速200キロ前後の飛行機から飛び降りるのは、生まれて初めて。
更に心臓が持ち上がるほどの速さで、体が落ちて行く感覚も。
あまりの気持ち悪さに、吐きそうになるのを堪えて、落下傘を開くための紐を引っ張ると、体に強い衝撃を感じた。
落下傘用のベルトが閉まり、降下速度が急に減速したが、それでも思っていた以上に早い。
懸垂幕を下ろすために紐を解き、私はユラユラと揺れながら地上へと向かった。
*
「張学良閣下! このようなものが、空から落ちてきました」
彼の幕僚の一人が、空からばら撒かれた紙きれを持ってきた。
「何と書かれている?」
張学良は、落下傘で降りて来る男を双眼鏡で見ながら、男から目を離さないまま幕僚に聞いた。
幕僚が書かれた文字を読み上げる。
「なるほど、よほど重要な任務らしいな……あの空から降りて来るヤツを、無傷でここに連れて来るように下知せよ」
「承知しました!」
幕僚は慌てて戻って行った。
*
落下傘で降下中、空から巻いたビラや垂れ下げている懸垂幕の効果もなく、地上からは単発的に銃を撃つ音が聞こえてくる。
何故だろうと考えてみれば、日本では当たり前である文字の読み書き、つまり識字率が違うことに気がついた。
日本では江戸時代ごろから武士や僧侶による平民への教育が盛んになり、当時から識字率は高く、読み書きができるのは成人として当たり前だと思っていた。
確か現代(1946年当時)我が国日本の識字率は控えめな資料で世界でもトップクラスであり、私の知る限りでは95パーセントほどあり世界一の識字率を誇るはず。
だから文字さえ書けば、誰もが読んでくれると思っていた。
しかし中国の識字率を私は知らない。
知らないが、日本より低い事は確か。
もし兵たちたちの中に、文字の読めない人たちが居たとしたら、ビラも懸垂幕も何の効果もない。
これはマズい。
いまは空中にいるから弾も当たらないが、地上に近付くにつれて弾を食らう確率は上がり、地上に降りたら瞬く間に兵士たちに取り囲まれリンチに遭って殺されてしまう。
初めからその覚悟を持ってここまでやって来たのだが、私のために気遣ってくれた皆にすまないと思った。
特に薫さんには。
「薫さん……出来るなら、もう一度だけ会いたかった」
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