それもまた人生

八話

「ただいま」

　六畳一間のワンキッチン。狭くはないが広くもない。そんな部屋で一人暮らしをしながら日々自分の生き方を模索する。そんな生活ももう3年目だった。何一つ目標も達成できないまま生きてきた四半世紀、まだ人間としては腐っていなかった。
　帰ってきて、一休みしてから夕食を作る。一人暮らしに家事をしてくれる人間などいるはずもない。整理整頓掃除洗濯自炊買い出し。何から何まで自分でやるのだ。それもまた楽しいのも、ひとり暮らしのいいところだ。
　昨日に買った玉ねぎと豚挽肉2パックを取り出す。そして、違和感を覚える。

「なんだこれ」

　昨日半額で買った挽肉の色が変わっていた。いくら半額だったとは言え、1日冷蔵庫で置いていたのにダメになるとは思わなかった。トレーかかったビニールを剥がしてみるが、臭いで分かる。何もかもがダメになっていた。
　冷蔵庫の中身を見ながらため息を吐く。食材は玉ねぎともう一つの豚挽肉しかない。半額だったが故の弱点というやつなのだろう。片方のひき肉が生きていることに感謝しつつも、虚無感は拭えない。ため息をついてから、ポツリとつぶやく。

「それもまた人生、か」

　経験することでしかわからないこともある。その中で知見を深めて、新たなことを挑戦していく。その繰り返しの中で、人は強くなっていくのである。