それもまた人生

ぽよ

文字の大きさ
上 下
10 / 12

十話

しおりを挟む
 日曜日の朝。眠気も疲れも残っているが、何故か目は覚めてしまう。スマートフォンの時計には8時と表示されていた。社会人5年目ともなると体が完全にリズムを覚えてしまう。良いことなのか、悪いことなのかはまだ分からない。
 布団で寝転がりながら予定を決める。今日は何一つすることが決まっていなかった。米を買い出しに行くことだけは決まっていたが、まだスーパーすらも開いていない。

「さて、動き始めますかね」

 立ち上がって洗面台へと向かう。顔を洗い歯を磨き、トイレを済ませる。今日という日も平穏にすぎていくのなら、それに越したことはないのだが、どうあっても体の老化は止められない。最低限のことが終わればクーラーのかかった部屋に戻る。
 スマートフォンの時計が9時を表示している。やらなければいけないこともある。もちろんやりたいこともある。クーラーの効いた部屋から出て、灼熱の外へと飛び出していく。
 体の老化は止められない。分かっていても、対策ができるわけじゃない。若さというのは武器だった。身に染みて感じた。
 駅までの遠い道のりを歩きながら、信号で立ち止まる。ふと虚空を見上げて、呟いた。

「それもまた人生、か」

 人生の上で立ち止まって、考えて、行動して分かることがある。その連続の中で、人は成長していくのだろう。そして、その結果の中で何かを得る代わりに何かを失う。若さを失った先にあるものが何か。その答えはまだ出そうにない。
しおりを挟む

処理中です...