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私
9話
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仕事終わりに駅まで歩く。見慣れた景色を歩いていても、そこにいるのは毎日別の人間だ。莉子は毎日ほぼ同じ時間に歩いていても、別の人間がそうであるとは限らない。
「先輩!お疲れ様です」
「あら、お疲れ様。今日は定時なの?」
「営業は金曜だけは絶対定時なんですよ!」
「なるほど、それは知らなかったわ」
同じ会社なのに、別の部署は外国のように遠い。それは、総務と営業も同じことだった。同じ階に部署がないというのもそれを加速させているのかもしれない。
「先輩、このあと暇ですか?」
「私はこのあと溜まった家事をやるために家に帰るわよ」
「そうですか」
残念そうな顔をする後輩を見ながら、何かする予定だったのかと考えてみる。最近は少し連絡を取る機会が多かったけれど、特に変わった様子もなくいつも通りだった。お互いに変化のない生活を送っていたと思っていたが、そうではなかったのかもしれない。
しばらく歩いて駅に着いたところで、後輩が唐突にこっちを向く。いつも以上に唐突で鬼気迫る表情だった後輩は、私の手を掴んで、駅の方向と逆方向に歩いていく。
「どうしたの」
「飲みに行きましょう!」
「え?えぇ、別に構わないけれど」
いつも以上に唐突な後輩の誘いは、飲み会だった。しかも2人で。意図がわからなければ、なぜ私なのかという人選もさっぱり分からない。
歩くこと10分。世間でも有名な大衆居酒屋に到着する。金曜日の仕事終わりなんて混んでないわけがないと思いながら店の扉を開けると、後輩が店員と話をしていた。何事かと思っていると店の中へと入っていく。
「予約したんです」
「え、いつ?」
「昨日の夕方」
「2人で?」
「いえ、1人で」
後輩の意図が全く汲めないまま席へと通されるままに歩いてひとまずの着席。喧嘩したわけでもないのにどことなく気まずい空気になる。
「え、1人で予約したのに2人で入れたの?」
「話ししたら席が空いてたので」
「ラッキーだったのね」
「えぇ、まぁ」
苦笑して見せる後輩。未だ意図は見えてこない。店員が持ってくるおしぼりとお茶をもらって、メニューを開こうとすると後輩の口の開いた。
「私、結婚するべきなんでしょうか」
「唐突ね」
「最近ずっと悩んでるんですよね」
「結婚ねえ」
「先輩はする予定ありますか?」
「今のところはないわよ。恋人もいないし。好きでもない人と一生一緒に暮らせるほど私は私自身に余裕がないの」
「なるほど」
結婚という社会制度を俯瞰した時に、私には到底成し遂げられないと思った。そもそも同棲も異性も好きにならないのに、そんなものができると思えるほど楽観的に生きていなかった。
メニューを一通り見てから飲み物と食べ物を注文する。お互い好みはなんとなく理解しており、苦手なものは頼まないようにしている。全ての注文が終わり、店員が戻ると、また、相談が再開された。
「前話したと思うんですけど、ちょっと前まで彼氏いたんですよ。その彼氏とは結婚してもいいかなぁとか考えてたんですけど、その彼氏と別れた途端に、私って結婚できるのかって不安になったんです」
「うーん、難しい問題ね。私は結婚どころか彼氏すらいないからなんとも言えないわ。でも、結婚じゃなくて、ルームシェアとか、そういうレベルの生活ですら私には多分無理だから、適切なアドバイスができるかどうかは分からないわよ」
「いいんです!今日は私の話を聞いてください!」
まだ、飲み物も届いていないのに酔った客のようなテンションで話す後輩。それほど悩んでいたと見るのが正しいか、仕事でのストレスと相俟ってそうなったのか。後輩の話を色々と聞きながらゆっくり待っていると、飲み物と枝豆が運ばれてきた。
「今週もお疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。大変だったわ……」
何はともあれ、今週も仕事が無事終わった。唐突に誘われた飲み会だったけれど、いざ開いてみれば楽しいものだった。ふと先輩に言われたことを思い出した。これもまたいつもと違う選択肢の一つ。こうした少しずつの変化から、自分を見つけたり、見つめ直したりすることができるのかもしれない。アドバイスをくれた先輩と提案をしてくれた後輩に感謝しながら、飲み会を楽しむことにした。
「先輩!お疲れ様です」
「あら、お疲れ様。今日は定時なの?」
「営業は金曜だけは絶対定時なんですよ!」
「なるほど、それは知らなかったわ」
同じ会社なのに、別の部署は外国のように遠い。それは、総務と営業も同じことだった。同じ階に部署がないというのもそれを加速させているのかもしれない。
「先輩、このあと暇ですか?」
「私はこのあと溜まった家事をやるために家に帰るわよ」
「そうですか」
残念そうな顔をする後輩を見ながら、何かする予定だったのかと考えてみる。最近は少し連絡を取る機会が多かったけれど、特に変わった様子もなくいつも通りだった。お互いに変化のない生活を送っていたと思っていたが、そうではなかったのかもしれない。
しばらく歩いて駅に着いたところで、後輩が唐突にこっちを向く。いつも以上に唐突で鬼気迫る表情だった後輩は、私の手を掴んで、駅の方向と逆方向に歩いていく。
「どうしたの」
「飲みに行きましょう!」
「え?えぇ、別に構わないけれど」
いつも以上に唐突な後輩の誘いは、飲み会だった。しかも2人で。意図がわからなければ、なぜ私なのかという人選もさっぱり分からない。
歩くこと10分。世間でも有名な大衆居酒屋に到着する。金曜日の仕事終わりなんて混んでないわけがないと思いながら店の扉を開けると、後輩が店員と話をしていた。何事かと思っていると店の中へと入っていく。
「予約したんです」
「え、いつ?」
「昨日の夕方」
「2人で?」
「いえ、1人で」
後輩の意図が全く汲めないまま席へと通されるままに歩いてひとまずの着席。喧嘩したわけでもないのにどことなく気まずい空気になる。
「え、1人で予約したのに2人で入れたの?」
「話ししたら席が空いてたので」
「ラッキーだったのね」
「えぇ、まぁ」
苦笑して見せる後輩。未だ意図は見えてこない。店員が持ってくるおしぼりとお茶をもらって、メニューを開こうとすると後輩の口の開いた。
「私、結婚するべきなんでしょうか」
「唐突ね」
「最近ずっと悩んでるんですよね」
「結婚ねえ」
「先輩はする予定ありますか?」
「今のところはないわよ。恋人もいないし。好きでもない人と一生一緒に暮らせるほど私は私自身に余裕がないの」
「なるほど」
結婚という社会制度を俯瞰した時に、私には到底成し遂げられないと思った。そもそも同棲も異性も好きにならないのに、そんなものができると思えるほど楽観的に生きていなかった。
メニューを一通り見てから飲み物と食べ物を注文する。お互い好みはなんとなく理解しており、苦手なものは頼まないようにしている。全ての注文が終わり、店員が戻ると、また、相談が再開された。
「前話したと思うんですけど、ちょっと前まで彼氏いたんですよ。その彼氏とは結婚してもいいかなぁとか考えてたんですけど、その彼氏と別れた途端に、私って結婚できるのかって不安になったんです」
「うーん、難しい問題ね。私は結婚どころか彼氏すらいないからなんとも言えないわ。でも、結婚じゃなくて、ルームシェアとか、そういうレベルの生活ですら私には多分無理だから、適切なアドバイスができるかどうかは分からないわよ」
「いいんです!今日は私の話を聞いてください!」
まだ、飲み物も届いていないのに酔った客のようなテンションで話す後輩。それほど悩んでいたと見るのが正しいか、仕事でのストレスと相俟ってそうなったのか。後輩の話を色々と聞きながらゆっくり待っていると、飲み物と枝豆が運ばれてきた。
「今週もお疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。大変だったわ……」
何はともあれ、今週も仕事が無事終わった。唐突に誘われた飲み会だったけれど、いざ開いてみれば楽しいものだった。ふと先輩に言われたことを思い出した。これもまたいつもと違う選択肢の一つ。こうした少しずつの変化から、自分を見つけたり、見つめ直したりすることができるのかもしれない。アドバイスをくれた先輩と提案をしてくれた後輩に感謝しながら、飲み会を楽しむことにした。
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