明太子

ぽよ

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あなた

3話

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 金曜日の仕事終わりに先輩と事務所を出る。そのまま更衣室へと向かいながら話をする。

「ごめんね。予定外の残業になっちゃったわね」
「大丈夫ですよ。終電に間に合えばなんとかなります」
「今日予定あるんじゃなかったかしら?」
「あ、それは連絡してあります」

 更衣室で着替える。定時から1時間が経過した更衣室には誰もおらず、電気すらも消えていた。金曜日は基本的に定時で帰ることが暗黙の了解とされている雰囲気がある。 ありがたい制度だと思うこともあれば、めんどくさい風習だと思う時もある。
 会社の敷地を出てから先輩と解散する。先輩も電車通勤ではあるが、乗る路線が違うのだ。駅へと向かう道すがらでコンビニから出てくる後輩を見つけた。

「お待たせしました。ごめんね」
「いえ、大丈夫です。じゃあ、行きましょうか」
「えぇ、行きましょう」

 後輩と合流したコンビニから歩いて10分のところに合コン会場があった。なぜこんなに近いのかという疑問がありつつも、中に入る。

「あ、連れが中に入ってます」
「私もそれです」

 店員に案内されて、3人が座っているボックス型の6人席へと案内された。どうやら今日は5人で合コンらしい。合コンというものがそもそもわかっていない莉子は目の前の状況が盛り上がっているのかが分からなかった。
 席に座って飲み物を注文する。莉子はサングリア、後輩はビールだった。

「随分と勢いよくいくわね」
「先輩もワインなんて珍しいですね」
「まぁ家では飲まないからね」

 全員が店内に戻ったところで幹事の男が後輩と話をしていた。随分と仲がいいように見えた。少しだけ話した後、自己紹介が始まった。

「滝沢莉子です。よろしくお願いします」
「岩科由佳です。よろしくお願いしまーす」

 適当に自己紹介を終わらせてから、後輩に今回の詳細を聞いてみると、どうやら全員会社の人間らしい。規模は大きいが人間の幅は小さい。一応体裁としては合コンなので、気になる人間の連絡先は聞く。ひとまず波風を立てたくなかった。

「あ、連絡先教えてもらってもいいですか?」
「ラインでいいですか?」
「はい」

 連絡先の名前を見ると、望月隆弘という名前が書いてあった。全く見覚えのない名前だった。当たり前と言えば当たり前だが、社員名簿にこの名前があったかどうかも分からない。

「あ、望月さんと交換したんですね!私の部署の先輩です!」
「あら、そうなの」
「提案されて、先輩を誘うことにしました」
「なるほどね」

 つまり後輩はこの男に誘われたということか。後輩を誘うというのがトラブルの元になるのではないかとも思ったが、後輩はそれを気にしていないらしい。合コンと言いながら部署を跨ぐだけの飲み会だと判明したそれは、案外盛り上がっていた。
 適当に話を聞きながら酒を飲む。連絡先を交換した男も当然莉子に話しかけてくる。面倒だとは思いつつも、後輩のためと自己暗示しながら応じる。

「滝沢さんは恋人とか欲しいの?」
「全く考えてなかったんですけど、由佳に誘われてたのていい機会だったので来ました」
「なるほど。俺はいた方がいいと思うなぁ」

 その一言を聞いた瞬間に、この人が苦手だと直感した。普通に話をしている分には何も問題はないのだが、莉子の人生をその場で決められる筋合いはない。
 その場その場でなんとなく会話をしながら、波風の立たない方向でなんとか乗り切る。イライラすることはなくても、面倒だと思うことは何度かあった。
 飲み会も時間が来たら当然終わる。幹事の望月に会費を払って、挨拶をしてから解散。始まりこそ焦っていた合コンだったが、終わってみれば特に変なところのない飲み会だった。

「滝沢さんは2次会行く?」
「あ、私はパスで」
「あ、私もパスでお願いします」

 莉子が2次会には行かないことを伝えると、隣にいた後輩も同じ反応だった。
 結局2次会は開催されたのかどうかも分からないまま、後輩と駅へと歩いていく。

「なんか今日の合コン、微妙でしたね」
「あら、結構こういうのには参加する方なの?」
「まぁ年3回くらいですけどね」
「結構行くのね」

 今までその類のイベントに縁のなかった莉子にとってはなかなかの高頻度だが、後輩の中ではそうでもないらしい。
 駅に着いて、電車に乗ったタイミングで今回の合コンの話になった。

「あれって、合コンっていうよりただの飲み会よね?」
「でもアレで付き合って結婚した人いるらしいですよ」
「それ、なかなかすごい話ね」
「行動力がある人だったんでしょうね」
「あの幹事がすごいのかしら」
「望月さんですか?あの人は終わった後のフォローがいいっていう話は聞きますけど、具体的なことは聞いたことないですね」
「ふーん」
「先輩はどう思います?」
「私は苦手かな」
「そうですかぁ。私が普通に仕事してる時の望月さんは頼りになる感じなんですけどね」
「あら、そうなの」

 確かに話をしている時はいろんなことを決定していくのは得意そうだという気配はした。それが実務上では有用だということなのだろう。
 最寄駅に到着する。電車から降りてアパートへと歩いていく。高揚感は無いが不思議と疲れは感じていなかった。

「お疲れ様でした!また何かあったらお誘いしますね!」
「お疲れ様。えぇ、よろしくお願いしようかしら」

 後輩がドアを開けて部屋に戻るのを見てから莉子もドアを開ける。いつ帰ってきても同じ景色の部屋。それが逆に気楽になれるのだが、本当にこれでいいのかということも、考えの中にあった。
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