4 / 55
恋愛
適応
しおりを挟む
「もう、一年、か」
恋人と別れてから、1年が経過していた。早いものだった。別れは突然だった。別れる1週間前には愛を伝える手紙を送り合っていたというのに、唐突に愛想が尽きたと言われてしまった。そこからは、色を失ったように俺の人生は変わった。忘れるために必死だった。特に何かを頑張ったわけではないが、とにかく空いた時間を作るのが怖くなっていた。考えるのが、恐ろしくなっていた。去年始めた物書きに没頭したり、読書をしたり。料理を頑張ってみたり、知らない土地を歩いてみたり。いろんなことをしてみたけれど、どこで何をしても、恋人は頭から消えてくれなかった。自分でも不思議なくらいだった。これまで失ったり、出来なくなったものは色々ある。友情などの無形なものからおもちゃやゲームなど有形のもの。それがなくなってしばらくは落ち込んだりしていたけれど、1ヶ月もすればその環境に慣れ、体が求めることも無くなっていた。しかし、今回は違った。心が、体が、求めている。あの人を。もう、ここにはいないあの人を。それだけ濃い時間を過ごし、互いに尊重し合い、いろんなことをしてきた2人だった。そんな2人にはもう戻れない。頭では理解していた。けれど、体は現在も何一つ理解していない。今、どこで何をしているのか。それすらも、さっぱり分からない。いつかまた、どこかですれ違ったりすることもあるかもしれない。その時は、どんな顔をすればいいのだろう。どうやっても横を通ればいいのだろう。そんなことを考える。その頃にはきっと、僕との時間は過去のものになっているかもしれない。それでも、いい。あの人が幸せになってくれるのなら。この命だって投げ出してもいい。そんな覚悟を、持っている。しかし、僕もいつかは変わらなきゃいけない。もう終わったことなんだ。もう、何をしても取り戻せないんだ。だから、もう。前に進むんだ。
「さて、そろそろ動きましょうかね」
珍しく朝から窓を開けて過ごしていた。暦的には春とは言いつつも、3月の外気から送られてくる風はまだ少しだけ肌寒かった。この寒さも終わり、いよいよ春がやってくる。僕も、今の環境に適応して頑張っていかなきゃいけない。そんな思いを胸に、出かける準備をする。今日は、春一番の風が吹くらしい。この湿ったままの気持ちも、その風で乾かしてくれないか、なんてことを考えながら。
恋人と別れてから、1年が経過していた。早いものだった。別れは突然だった。別れる1週間前には愛を伝える手紙を送り合っていたというのに、唐突に愛想が尽きたと言われてしまった。そこからは、色を失ったように俺の人生は変わった。忘れるために必死だった。特に何かを頑張ったわけではないが、とにかく空いた時間を作るのが怖くなっていた。考えるのが、恐ろしくなっていた。去年始めた物書きに没頭したり、読書をしたり。料理を頑張ってみたり、知らない土地を歩いてみたり。いろんなことをしてみたけれど、どこで何をしても、恋人は頭から消えてくれなかった。自分でも不思議なくらいだった。これまで失ったり、出来なくなったものは色々ある。友情などの無形なものからおもちゃやゲームなど有形のもの。それがなくなってしばらくは落ち込んだりしていたけれど、1ヶ月もすればその環境に慣れ、体が求めることも無くなっていた。しかし、今回は違った。心が、体が、求めている。あの人を。もう、ここにはいないあの人を。それだけ濃い時間を過ごし、互いに尊重し合い、いろんなことをしてきた2人だった。そんな2人にはもう戻れない。頭では理解していた。けれど、体は現在も何一つ理解していない。今、どこで何をしているのか。それすらも、さっぱり分からない。いつかまた、どこかですれ違ったりすることもあるかもしれない。その時は、どんな顔をすればいいのだろう。どうやっても横を通ればいいのだろう。そんなことを考える。その頃にはきっと、僕との時間は過去のものになっているかもしれない。それでも、いい。あの人が幸せになってくれるのなら。この命だって投げ出してもいい。そんな覚悟を、持っている。しかし、僕もいつかは変わらなきゃいけない。もう終わったことなんだ。もう、何をしても取り戻せないんだ。だから、もう。前に進むんだ。
「さて、そろそろ動きましょうかね」
珍しく朝から窓を開けて過ごしていた。暦的には春とは言いつつも、3月の外気から送られてくる風はまだ少しだけ肌寒かった。この寒さも終わり、いよいよ春がやってくる。僕も、今の環境に適応して頑張っていかなきゃいけない。そんな思いを胸に、出かける準備をする。今日は、春一番の風が吹くらしい。この湿ったままの気持ちも、その風で乾かしてくれないか、なんてことを考えながら。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
幽縁ノ季楼守
儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」
幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。
迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。
ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。
これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。
しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。
奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。
現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。
異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー
様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。
その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。
幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。
それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。
徒野先輩の怪異語り
佐倉みづき
キャラ文芸
「助けて、知らない駅にいる――」
きさらぎ駅に迷い込み行方不明となった幼馴染みを探す未那は、我が物顔で民俗学予備研究室に陣取る院生・徒野荒野を訪ねる。
あらゆる怪談や怪奇現象を蒐集、研究する彼の助手にされた未那は徒野と共に様々な怪異に行き当たることに……
「いつの世も、怪異を作り出すのは人間なんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる