35 / 55
花言葉
嘘
しおりを挟む
「やあ」
「うっす」
夏の立川駅。僕は改札を出てすぐの通路で待ち合わせをしていた。目の前に現れたのは、幼馴染というにはちょっと歴の浅い、でも昔からの友人だった。
「久しぶりだね」
「2ヶ月ぶりぐらいだけどね」
「前会ったのって6月くらいだっけ?」
「梅雨の大雨だったよ」
「そうだったっけ」
前に彼女に会ったのは、6月の大雨の日だった。梅雨の季節にしては珍しい大雨で、二人で傘を差しながら街をうろうろした。いつ電車が止まるかとヒヤヒヤした記憶が蘇る。立川駅で特に会話することもなく二人ともスマートフォンを操作していたが、疑問だったことを聞いてみた。
「そういえば、今回は何するの?」
「適当に」
「適当か」
「うろうろしよう!」
「こんなに暑いのに」
「気にしたら負けだよ!」
やけに勢いがある。恋人と何かがあったのだろうか。彼女が前を歩いていく。その後ろをついていく形で僕も歩いていく。前回ここに来てから立川には一度も来ていなかったが、安定して何も変わらない街だった。北口も南口もそれなりに発展している。趣味嗜好が変わればどちらに出るかは変わるだろうが、欲しいものがなければ反対側に行けば手に入る。足早に歩く彼女について行って到着したのはカラオケだった。関東圏にチェーン店があり、関西を通り越してなぜか中国地方にチェーン店があるところだ。休日の昼だというのに空いており、二人で2時間で予約し入っていく。
「君も相変わらず変わらないね」
「音ゲーしかしてないからね」
「彼女とか作らないの?」
「女友達は無限にいるからね」
「またそうやって」
あながち間違いでも強がりでもない。交友関係に困るほど変な人間性をしているつもりもない。一通り雑談も終わってから二人で曲を入れ続ける。カラオケも久しぶりだった。思えば半年ぶりくらいかもしれない。ボーカロイド曲や、JPOPなどの比較的早い曲を頑張って歌う。彼女はゆったりとしたバラードから早口言葉のような曲まで歌い分けることができる。僕には習得できないであろう技術だった。
二人で1時間ほど歌って、一旦休憩になる。一息ついて飲み物を飲んでいる時に彼女が話しかけてくる。
「私さー、彼氏と別れたんだよね」
「まぁそんなところだろうとは思ってた」
「バレてたんだ」
「なんとなくね」
「そっか」
なんとなくその人が放つその日の気配で分かる。昔からそうだった。この人が分かりやすいというのもあるかもしれないが、なぜか分かることが多いのだ。
「じゃあまぁ、続き歌っていきますか」
「はいよー」
休憩の雑談も終わり、またここからカラオケがスタートする。二人とも相変わらず選曲は変わらない。あとは自分の肺活量との戦いだった。
結局30分だけ延長し、最後の最後まで歌い切る。10分前の電話のコールで延長を断り、荷物を片付け始める。最後の残響まで歌いきり、曲が終わったタイミングでダッシュで精算へと向かう。なんとか30分延長にギリギリ入っていたようで、思わぬ出費は免れた。
夏の立川駅は朝でも昼でも容赦なく暑い。日本の夏はそもそも暑いが、立川駅周辺はビルが乱立していることもあり、熱がこもって暑い。カラオケから駅に戻るだけでも汗をかいていた。
「これからどうする?」
「靴でも見に行こうかな」
「壊れたの?」
「いや、ほとんど壊れかけ」
「そうなんだ」
「まぁ下見くらいでもいいじゃん?」
「まぁね」
そう言ってから、立川駅構内にある駅中のショッピングモールに入っていく。その建物の6階に靴屋がある。僕自身はそんなに靴に詳しいわけじゃないけれど、機能部品としては重宝している。エスカレーターを黙々と上がりながら、6階を目指す。
ここも相変わらずの景色だった。入っている店舗も恐らく変わっていない。二人で靴屋に入って、色々と見て回る。
「どんな靴が欲しいとかあるの?」
「脚を壊しにくい靴」
「なるほど、じゃあこのメーカーだな」
「おー。このメーカーいいんだ」
「安定感は抜群にいいよ」
「へぇ、なるほど」
僕も今日履いているメーカーの靴を薦めてみる。昨日はピカイチだから、値段も正直ピカイチだ。底値でも、他のメーカーの平均からそのメーカーで高いものに分類される商品くらいの値段だ。色々と履き比べて、色々と調べてみる。
「うーん、これは確かに良さそうだけど、どうかなぁ」
「いいんじゃない?似合ってるよ」
「本当?じゃあ、これにしようかな」
僕のおすすめのメーカーで決めたらしい。正直値段は僕なら2週間は悩むレベルだが、本人が決めたのなら止めるのも野暮だろう。僕も適当に見て回ってみるが、特に買い換える必要があるほど魅力的なものはなかった。
彼女が会計を済ませてから、こちらへと歩いてくる。そのままの流れでエスカレーターへと歩いていく。さっきとは逆方向で、どんどんと降りていく。そんな時に、彼女は僕に話しかけてきた。
「ねえ、私の彼氏になってよ」
「なんでまた」
「えー、いいでしょ?好きなのよ」
「そんな適当な」
「ダメかー」
「しばらく落ち着いてからの方がいいよ」
「なるほどね」
彼女はなるほどと言っているけれど、納得していないのは顔で分かる。そして、僕に対する好きだという気持ちもウソなのだということも分かる。
気まずい空気のままエスカレーターを降りて、そのまま立川の街へと出る。このまま解散かと思ったが、そうではないらしい。
「まぁいいや。今日は私に付き合ってよ!いいでしょ?」
「まぁ、それはいいけど」
「よし、じゃあ、ゲーセンだな」
「はいよ」
昼ごはんも食べないままゲームセンターへと向かう。今日はひたすら遊ぶことに徹するのだろうか。君の僕に対する気持ちが嘘でもいい。君の無茶振りにも答えてもいい。友達として正しい姿なんてものは求めていないんだよ。真夏の立川。肌が焼けるような熱射の中でも、構わずゲームセンターへと向かう。今日は長くなりそうな気配がした。
「うっす」
夏の立川駅。僕は改札を出てすぐの通路で待ち合わせをしていた。目の前に現れたのは、幼馴染というにはちょっと歴の浅い、でも昔からの友人だった。
「久しぶりだね」
「2ヶ月ぶりぐらいだけどね」
「前会ったのって6月くらいだっけ?」
「梅雨の大雨だったよ」
「そうだったっけ」
前に彼女に会ったのは、6月の大雨の日だった。梅雨の季節にしては珍しい大雨で、二人で傘を差しながら街をうろうろした。いつ電車が止まるかとヒヤヒヤした記憶が蘇る。立川駅で特に会話することもなく二人ともスマートフォンを操作していたが、疑問だったことを聞いてみた。
「そういえば、今回は何するの?」
「適当に」
「適当か」
「うろうろしよう!」
「こんなに暑いのに」
「気にしたら負けだよ!」
やけに勢いがある。恋人と何かがあったのだろうか。彼女が前を歩いていく。その後ろをついていく形で僕も歩いていく。前回ここに来てから立川には一度も来ていなかったが、安定して何も変わらない街だった。北口も南口もそれなりに発展している。趣味嗜好が変わればどちらに出るかは変わるだろうが、欲しいものがなければ反対側に行けば手に入る。足早に歩く彼女について行って到着したのはカラオケだった。関東圏にチェーン店があり、関西を通り越してなぜか中国地方にチェーン店があるところだ。休日の昼だというのに空いており、二人で2時間で予約し入っていく。
「君も相変わらず変わらないね」
「音ゲーしかしてないからね」
「彼女とか作らないの?」
「女友達は無限にいるからね」
「またそうやって」
あながち間違いでも強がりでもない。交友関係に困るほど変な人間性をしているつもりもない。一通り雑談も終わってから二人で曲を入れ続ける。カラオケも久しぶりだった。思えば半年ぶりくらいかもしれない。ボーカロイド曲や、JPOPなどの比較的早い曲を頑張って歌う。彼女はゆったりとしたバラードから早口言葉のような曲まで歌い分けることができる。僕には習得できないであろう技術だった。
二人で1時間ほど歌って、一旦休憩になる。一息ついて飲み物を飲んでいる時に彼女が話しかけてくる。
「私さー、彼氏と別れたんだよね」
「まぁそんなところだろうとは思ってた」
「バレてたんだ」
「なんとなくね」
「そっか」
なんとなくその人が放つその日の気配で分かる。昔からそうだった。この人が分かりやすいというのもあるかもしれないが、なぜか分かることが多いのだ。
「じゃあまぁ、続き歌っていきますか」
「はいよー」
休憩の雑談も終わり、またここからカラオケがスタートする。二人とも相変わらず選曲は変わらない。あとは自分の肺活量との戦いだった。
結局30分だけ延長し、最後の最後まで歌い切る。10分前の電話のコールで延長を断り、荷物を片付け始める。最後の残響まで歌いきり、曲が終わったタイミングでダッシュで精算へと向かう。なんとか30分延長にギリギリ入っていたようで、思わぬ出費は免れた。
夏の立川駅は朝でも昼でも容赦なく暑い。日本の夏はそもそも暑いが、立川駅周辺はビルが乱立していることもあり、熱がこもって暑い。カラオケから駅に戻るだけでも汗をかいていた。
「これからどうする?」
「靴でも見に行こうかな」
「壊れたの?」
「いや、ほとんど壊れかけ」
「そうなんだ」
「まぁ下見くらいでもいいじゃん?」
「まぁね」
そう言ってから、立川駅構内にある駅中のショッピングモールに入っていく。その建物の6階に靴屋がある。僕自身はそんなに靴に詳しいわけじゃないけれど、機能部品としては重宝している。エスカレーターを黙々と上がりながら、6階を目指す。
ここも相変わらずの景色だった。入っている店舗も恐らく変わっていない。二人で靴屋に入って、色々と見て回る。
「どんな靴が欲しいとかあるの?」
「脚を壊しにくい靴」
「なるほど、じゃあこのメーカーだな」
「おー。このメーカーいいんだ」
「安定感は抜群にいいよ」
「へぇ、なるほど」
僕も今日履いているメーカーの靴を薦めてみる。昨日はピカイチだから、値段も正直ピカイチだ。底値でも、他のメーカーの平均からそのメーカーで高いものに分類される商品くらいの値段だ。色々と履き比べて、色々と調べてみる。
「うーん、これは確かに良さそうだけど、どうかなぁ」
「いいんじゃない?似合ってるよ」
「本当?じゃあ、これにしようかな」
僕のおすすめのメーカーで決めたらしい。正直値段は僕なら2週間は悩むレベルだが、本人が決めたのなら止めるのも野暮だろう。僕も適当に見て回ってみるが、特に買い換える必要があるほど魅力的なものはなかった。
彼女が会計を済ませてから、こちらへと歩いてくる。そのままの流れでエスカレーターへと歩いていく。さっきとは逆方向で、どんどんと降りていく。そんな時に、彼女は僕に話しかけてきた。
「ねえ、私の彼氏になってよ」
「なんでまた」
「えー、いいでしょ?好きなのよ」
「そんな適当な」
「ダメかー」
「しばらく落ち着いてからの方がいいよ」
「なるほどね」
彼女はなるほどと言っているけれど、納得していないのは顔で分かる。そして、僕に対する好きだという気持ちもウソなのだということも分かる。
気まずい空気のままエスカレーターを降りて、そのまま立川の街へと出る。このまま解散かと思ったが、そうではないらしい。
「まぁいいや。今日は私に付き合ってよ!いいでしょ?」
「まぁ、それはいいけど」
「よし、じゃあ、ゲーセンだな」
「はいよ」
昼ごはんも食べないままゲームセンターへと向かう。今日はひたすら遊ぶことに徹するのだろうか。君の僕に対する気持ちが嘘でもいい。君の無茶振りにも答えてもいい。友達として正しい姿なんてものは求めていないんだよ。真夏の立川。肌が焼けるような熱射の中でも、構わずゲームセンターへと向かう。今日は長くなりそうな気配がした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
幽縁ノ季楼守
儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」
幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。
迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。
ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。
これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。
しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。
奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。
現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。
異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー
様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。
その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。
幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。
それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。
徒野先輩の怪異語り
佐倉みづき
キャラ文芸
「助けて、知らない駅にいる――」
きさらぎ駅に迷い込み行方不明となった幼馴染みを探す未那は、我が物顔で民俗学予備研究室に陣取る院生・徒野荒野を訪ねる。
あらゆる怪談や怪奇現象を蒐集、研究する彼の助手にされた未那は徒野と共に様々な怪異に行き当たることに……
「いつの世も、怪異を作り出すのは人間なんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる