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暗殺者だって、走る。
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「はぁ、はぁ、はぁ…… 」
黒髪の令息は扉に腕をかけ、体を丸めて息を整えていた。先程、ダンサン殿下に秘めたる思いを暴かれ逃げ出したネックスである。
「ネックス、どうした? 父上には会えたかい。」
心配そうに声をかける金髪碧眼のサイオン王太子は優雅にお茶を飲んでいた。
「何か、問題か。」
「いえ、陛下はダンサン様と御一緒におられました。」
「ダンサンと…… 」
王太子は一口お茶を飲む。
「ダンサンは、かくれんぼで暗殺者でも見つけたかな。」
クスッと微笑む。
サイオンが十歳の時から初める剣の稽古の場所に、五歳のダンサンは何時ものように兄の後ろを追って来た。
「にいにい。ぼくも、ぼくも。」
「駄目だよ、ダンサンにはまだ早いよ。」
目をキラキラさせて剣に手を伸ばすダンサンを優しくサイオンは手を上げて制す。
「にいにい。ぼくも、ぼくも。」
ぴょんぴょんと剣に手を伸ばすダンサンを、頭を押さえてサイオンは制する。サイオンには分かっていた、ダンサンは剣に興味はなくただ遊んで欲しいだけだと言うことを。
何時も自分の後を仔犬のようについて回るダンサンがサイオンは可愛かった。しかしこのままでは、剣の稽古にができない。
そこで、サイオンは考えた。
「ダンサン、いいかい。」
「あい!! 」
サイオンの言葉にダンサンは元気に返事をする。
「知らない人や、何処かに隠れている人。それから、剣物を向けてくる人からは、全力で逃げるんだよ。」
サイオンは剣や刃物をダンサンに見せて、危ない時は全力で逃げることを教えた。サイオンは可愛い弟の身の安全を教える。
「にげる? 」
「追いかけっこだよ。」
首を傾げる弟に兄は笑って、分かるように言った。
「おいかけるの? 」
「違うよ、逃げるんだ。相手が鬼で、捕まらないように逃げ切るんだよ。分かったかい。」
「あい!! 」
ダンサンは元気に返事をした。
そして、事件は起こった。
ダンサンは物陰に隠れている暗殺者を見つけたのだ。
「あそんでくれるの!! 」
ダンサンは元気に声をかけた。
「お前は、第二王子。」
驚いた暗殺者は、小声で言った。
「お前は暗殺に含まれてないが、見られたからは死んでもらう。」
暗殺者は懐から刃物を取り出した。
『追いかけっこだよ。』
ダンサンの頭に兄の言葉が蘇る。
「おいかけっこ!! 」
目をキラキラさせたダンサンは、暗殺者の前から走り出した。
「待て!! 」
暗殺者の言葉にダンサン首を傾げて、止まって待った。
「よし、いい子だ。」
暗殺者が褒めながら近づいてくる。だが近づくと、ダダダダダとダンサンは走り出す。
暫くすると止まって、暗殺者を見つめる。近づくと逃げる、止まると止まる。
それも絶妙に捕まえられると思える距離に。
暗殺者が、諦めようとするとダンサンは近づいてくる。そして横を通り過ぎて、振り向き止まり暗殺者を首を傾げて見るのだ。
捕まえようとすると、風圧に靡く羽根のようにふわりふわりと走って行ってしまうダンサン。
ついムキになって追いかけていると、暗殺者が他の者に捕まってしまった。
「よくやったね、ダンサン。」
暗殺者を捕まえる手伝いをしたダンサンを、サイオンが褒めてしまった。
それがいけなかった。
「でも危ないから、もうしてはいけないよ。」
サイオンの後の言葉はダンサンの耳には入らなかった。
(ほめられた!! うれしい!! )
ダンサンの頭の中には知らない人と追いかけっこは、褒めてもらえるものと認識したのだった。
それからダンサンは城中を走り回った。かくれんぼをしている暗殺者を見つけ出し、追いかけっこで遊んでもらっていたのだ。
今回も愛しのエリーがいなければ、とうにオードリーに追いついていただろう。
何時しか、ドリング城は闇の世界から『帰らずの城』と恐れられる場所となっていた。
黒髪の令息は扉に腕をかけ、体を丸めて息を整えていた。先程、ダンサン殿下に秘めたる思いを暴かれ逃げ出したネックスである。
「ネックス、どうした? 父上には会えたかい。」
心配そうに声をかける金髪碧眼のサイオン王太子は優雅にお茶を飲んでいた。
「何か、問題か。」
「いえ、陛下はダンサン様と御一緒におられました。」
「ダンサンと…… 」
王太子は一口お茶を飲む。
「ダンサンは、かくれんぼで暗殺者でも見つけたかな。」
クスッと微笑む。
サイオンが十歳の時から初める剣の稽古の場所に、五歳のダンサンは何時ものように兄の後ろを追って来た。
「にいにい。ぼくも、ぼくも。」
「駄目だよ、ダンサンにはまだ早いよ。」
目をキラキラさせて剣に手を伸ばすダンサンを優しくサイオンは手を上げて制す。
「にいにい。ぼくも、ぼくも。」
ぴょんぴょんと剣に手を伸ばすダンサンを、頭を押さえてサイオンは制する。サイオンには分かっていた、ダンサンは剣に興味はなくただ遊んで欲しいだけだと言うことを。
何時も自分の後を仔犬のようについて回るダンサンがサイオンは可愛かった。しかしこのままでは、剣の稽古にができない。
そこで、サイオンは考えた。
「ダンサン、いいかい。」
「あい!! 」
サイオンの言葉にダンサンは元気に返事をする。
「知らない人や、何処かに隠れている人。それから、剣物を向けてくる人からは、全力で逃げるんだよ。」
サイオンは剣や刃物をダンサンに見せて、危ない時は全力で逃げることを教えた。サイオンは可愛い弟の身の安全を教える。
「にげる? 」
「追いかけっこだよ。」
首を傾げる弟に兄は笑って、分かるように言った。
「おいかけるの? 」
「違うよ、逃げるんだ。相手が鬼で、捕まらないように逃げ切るんだよ。分かったかい。」
「あい!! 」
ダンサンは元気に返事をした。
そして、事件は起こった。
ダンサンは物陰に隠れている暗殺者を見つけたのだ。
「あそんでくれるの!! 」
ダンサンは元気に声をかけた。
「お前は、第二王子。」
驚いた暗殺者は、小声で言った。
「お前は暗殺に含まれてないが、見られたからは死んでもらう。」
暗殺者は懐から刃物を取り出した。
『追いかけっこだよ。』
ダンサンの頭に兄の言葉が蘇る。
「おいかけっこ!! 」
目をキラキラさせたダンサンは、暗殺者の前から走り出した。
「待て!! 」
暗殺者の言葉にダンサン首を傾げて、止まって待った。
「よし、いい子だ。」
暗殺者が褒めながら近づいてくる。だが近づくと、ダダダダダとダンサンは走り出す。
暫くすると止まって、暗殺者を見つめる。近づくと逃げる、止まると止まる。
それも絶妙に捕まえられると思える距離に。
暗殺者が、諦めようとするとダンサンは近づいてくる。そして横を通り過ぎて、振り向き止まり暗殺者を首を傾げて見るのだ。
捕まえようとすると、風圧に靡く羽根のようにふわりふわりと走って行ってしまうダンサン。
ついムキになって追いかけていると、暗殺者が他の者に捕まってしまった。
「よくやったね、ダンサン。」
暗殺者を捕まえる手伝いをしたダンサンを、サイオンが褒めてしまった。
それがいけなかった。
「でも危ないから、もうしてはいけないよ。」
サイオンの後の言葉はダンサンの耳には入らなかった。
(ほめられた!! うれしい!! )
ダンサンの頭の中には知らない人と追いかけっこは、褒めてもらえるものと認識したのだった。
それからダンサンは城中を走り回った。かくれんぼをしている暗殺者を見つけ出し、追いかけっこで遊んでもらっていたのだ。
今回も愛しのエリーがいなければ、とうにオードリーに追いついていただろう。
何時しか、ドリング城は闇の世界から『帰らずの城』と恐れられる場所となっていた。
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