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王太子も、走る。
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「王太子殿下、直ちに舞踏会会場へお越し下さい。」
護衛騎士が扉を開けて入って伝令を伝える。
「陛下も、フィーリア孃も既に向かっております。」
「リアも。」
息せき切って現れた護衛騎士は、王太子の婚約者である令嬢も既に会場へ向かったと伝える。
「既に開始時間は過ぎています。できるだけ早く会場へ向かって下さい。」
「分った、直ぐに向かう。」
王太子は直ぐに立ち上がった。
「事はすんだのか? 」
「はい。ダンサン殿下は確保されましたので、ご心配なく。」
護衛騎士は扉を開けたまま、王太子に先を促す。
「そうか、ダンサンが何かをしようとしたんだね。」
「婚約破棄を少々…… 」
「婚約破棄!? 」
声をあげたのは後ろに控える黒髪のネックスであった。
「それは…… オードリー孃は喜んだであろうな。」
「会場内でなければ…… 」
「なるほど、それは困ったな……で、」
王太子は走りながら、こめかみに手をあてた。
「オードリー孃の機転により回避できたようです。」
「流石は、オードリー孃か。」
サイオンは、ほっと安堵の息を吐いた。走りながらも王太子は起こった事の確認をとる。
「陛下は、事が会場内で起こった時の為にと急ぎ向かわれました。」
「父上が。」
「有り難いことにダンサン殿下は会場外におられ、事が起きる前に回収を完了致しました。」
「それはよかった。」
サイオンは本当に安堵した、自分はいいが婚約者に恥をかかせる訳にはいかないのだから。
突然何かを仕出かすことには、可愛い弟ながら本当に困っていた。
「オードリー孃で、御せないと誰もいないね。」
(仕方がないか、ダンサンは勘で生きる動物のようなもの。理性ある人間には、到底無理な話だった。)
では、誰にあたらせるかと王太子は考え込んでいた。
「それで、婚約破棄は決まったのでしょうか? 」
ネックスが、護衛騎士にそれとなく聞いてくる。
「いえ、殿下は我々の前で婚約破棄を宣言していましたが。」
「そうですか。」
ネックスはグッと唇を噛んだ。
王命の婚約をそう簡単に破棄できるはずはないと。
「オードリー孃は穏便に婚約解消を望んでいるようですが。」
「婚約解消!! 」
ネックスは声をあげた。
「どうしたネックス、今日はおかしいぞ。」
「す、すみません。」
側近の挙動不審にサイオンは首を傾げ、ネックスは謝罪し意識を改める。
「ダンサン殿下は、頑なにオードリー孃からの婚約破棄を望まれています。」
「婚約破棄!? 」
またもや、ネックスは声をあげた。
「…… 」
「す、すみません。」
王太子の視線に、目を反らすネックス。
「なぜ、ダンサンはオードリー孃に婚約破棄を求めるのだ。」
「ダンサン殿下の言うことには、オードリーには真実の愛の方がいるそうで。」
護衛騎士の言葉にサイオンは、思いを巡らせる。
オードリー孃の日々の態度にそのような者は見受けられない。
「ああ、今巷で流行っているそうだな。だがオードリー孃に、慕っている者がいるとは見受けられないが。」
「ダンサン殿下がおっしゃるには…… 」
じっと、サイオン殿下の後ろを走るネックスに護衛騎士は目を向ける。
「お、俺は、そんな!! オードリーとは、 」
ばたん!!
ネックスは狼狽え足を縺れさせ、その場に顔面から倒れた。
「「……… 」」
どうやら、ネックスは恋愛の事になると途端にぽんこつになるようだ。彼を見捨てて、王太子と護衛騎士は走る。
「ダンサンが言うのなら、オードリー孃もあのネックスを慕っているのだろう。」
「そうなんですか!! 」
「げに恐ろしげは、ダンサンの勘だよ。」
王太子が認めたことについ言葉を忘れて聞き返した護衛騎士に、微笑みながらサイオンは応えた。
(思えば、フィーリアに会った途端に『ねぇ上』と呼んでいたな。)
数いる婚約者候補の令嬢の中で、ダンサンはフィーリア孃だけに『ねぇ上』と呼んでいた。
その後押しもあって、フィーリア孃が王太子の婚約者に選ばれたのだ。
(私が、フィーリアを好いているのに無意識に勘づいていたのだろう。)
完璧な王太子は、その素振りは誰にも見せなかった。
(まったく、可愛い弟だ。)
王太子は微笑むと、愛する婚約者がいるであろう場所へと護衛騎士と足を早めた。
その後を、起き上がったネックスが顔を押さえながら追いかける。
護衛騎士が扉を開けて入って伝令を伝える。
「陛下も、フィーリア孃も既に向かっております。」
「リアも。」
息せき切って現れた護衛騎士は、王太子の婚約者である令嬢も既に会場へ向かったと伝える。
「既に開始時間は過ぎています。できるだけ早く会場へ向かって下さい。」
「分った、直ぐに向かう。」
王太子は直ぐに立ち上がった。
「事はすんだのか? 」
「はい。ダンサン殿下は確保されましたので、ご心配なく。」
護衛騎士は扉を開けたまま、王太子に先を促す。
「そうか、ダンサンが何かをしようとしたんだね。」
「婚約破棄を少々…… 」
「婚約破棄!? 」
声をあげたのは後ろに控える黒髪のネックスであった。
「それは…… オードリー孃は喜んだであろうな。」
「会場内でなければ…… 」
「なるほど、それは困ったな……で、」
王太子は走りながら、こめかみに手をあてた。
「オードリー孃の機転により回避できたようです。」
「流石は、オードリー孃か。」
サイオンは、ほっと安堵の息を吐いた。走りながらも王太子は起こった事の確認をとる。
「陛下は、事が会場内で起こった時の為にと急ぎ向かわれました。」
「父上が。」
「有り難いことにダンサン殿下は会場外におられ、事が起きる前に回収を完了致しました。」
「それはよかった。」
サイオンは本当に安堵した、自分はいいが婚約者に恥をかかせる訳にはいかないのだから。
突然何かを仕出かすことには、可愛い弟ながら本当に困っていた。
「オードリー孃で、御せないと誰もいないね。」
(仕方がないか、ダンサンは勘で生きる動物のようなもの。理性ある人間には、到底無理な話だった。)
では、誰にあたらせるかと王太子は考え込んでいた。
「それで、婚約破棄は決まったのでしょうか? 」
ネックスが、護衛騎士にそれとなく聞いてくる。
「いえ、殿下は我々の前で婚約破棄を宣言していましたが。」
「そうですか。」
ネックスはグッと唇を噛んだ。
王命の婚約をそう簡単に破棄できるはずはないと。
「オードリー孃は穏便に婚約解消を望んでいるようですが。」
「婚約解消!! 」
ネックスは声をあげた。
「どうしたネックス、今日はおかしいぞ。」
「す、すみません。」
側近の挙動不審にサイオンは首を傾げ、ネックスは謝罪し意識を改める。
「ダンサン殿下は、頑なにオードリー孃からの婚約破棄を望まれています。」
「婚約破棄!? 」
またもや、ネックスは声をあげた。
「…… 」
「す、すみません。」
王太子の視線に、目を反らすネックス。
「なぜ、ダンサンはオードリー孃に婚約破棄を求めるのだ。」
「ダンサン殿下の言うことには、オードリーには真実の愛の方がいるそうで。」
護衛騎士の言葉にサイオンは、思いを巡らせる。
オードリー孃の日々の態度にそのような者は見受けられない。
「ああ、今巷で流行っているそうだな。だがオードリー孃に、慕っている者がいるとは見受けられないが。」
「ダンサン殿下がおっしゃるには…… 」
じっと、サイオン殿下の後ろを走るネックスに護衛騎士は目を向ける。
「お、俺は、そんな!! オードリーとは、 」
ばたん!!
ネックスは狼狽え足を縺れさせ、その場に顔面から倒れた。
「「……… 」」
どうやら、ネックスは恋愛の事になると途端にぽんこつになるようだ。彼を見捨てて、王太子と護衛騎士は走る。
「ダンサンが言うのなら、オードリー孃もあのネックスを慕っているのだろう。」
「そうなんですか!! 」
「げに恐ろしげは、ダンサンの勘だよ。」
王太子が認めたことについ言葉を忘れて聞き返した護衛騎士に、微笑みながらサイオンは応えた。
(思えば、フィーリアに会った途端に『ねぇ上』と呼んでいたな。)
数いる婚約者候補の令嬢の中で、ダンサンはフィーリア孃だけに『ねぇ上』と呼んでいた。
その後押しもあって、フィーリア孃が王太子の婚約者に選ばれたのだ。
(私が、フィーリアを好いているのに無意識に勘づいていたのだろう。)
完璧な王太子は、その素振りは誰にも見せなかった。
(まったく、可愛い弟だ。)
王太子は微笑むと、愛する婚約者がいるであろう場所へと護衛騎士と足を早めた。
その後を、起き上がったネックスが顔を押さえながら追いかける。
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