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王妃様が、走る。
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「お待ち下さい、フィーリア様!! 」
侍女が先を走る令嬢に声をかける。柔らかな白銀髪を靡かせ、紫色の瞳を後を追ってくる侍女に令嬢は顔を向ける。
「御髪が、御髪が、乱れてしまいます!! 」
「ドレスが、ドレスが、めちゃくちゃに!! 」
「汗をかけば、化粧が崩れてしまいます!! 」
フィーリアの後を追う、侍女達は必死に走る彼女に自重を促す。
「でも、サイオン様が待っておられますわ。急がなくては。」
「それでもです!! 」
「もう少し、速さを押さえて下さいませ!! 」
「乱れた姿をサイオン様に見られたいのですか!? 」
気持ちが急くフィーリアを、抑えるように乙女心に訴える。乙女心に訴えられたフィーリアは、少し足を遅めた。
「でも、サイオン様が…… 」
まさかフィーリアはサイオン殿下の婚約者に選ばれるとは思っていなかった、他国の侯爵令嬢である自分が。たまたま留学生としてこの国に来て、サイオン殿下と少し話が合っただけ。
大勢る令嬢の一人にすぎないし、数人の婚約者候補にたまたま選ばれただけに過ぎないとフィーリアは思っていた。
(サイオン様はとても素敵な方。)
自分より美しい令嬢も地位の高い令嬢もいる中、自分が選ばれるとは夢にも思わなかった。
(一番の後押しは、ダンサン様が何故か私を『ねぇ上』と呼ばれるのよね。きっと、王家に関係ない令嬢を『ねぇ上』と呼ばれるのは困るから私が選ばれたのね。それだけでは無く、私の国との繋がりにも丁度良いと思われたに違いないわ。)
決して自分はサイオン殿下に好かれているのではなく。
(これはあくまで、政略結婚よ。淡い期待なんかしちゃ駄目。私の片思いなんだから。)
フィーリアは悲しそうに顔を伏せた。
(でもせめて、サイオン様の足手まといにはなりたくない。)
そう思うと、フィーリアの足はまた急いて動くのであった。
「「「フィーリア、お待ち下さい!! 」」」
侍女達との距離が離れていく。
護衛騎士二人を横につけ、フィーリアは走る。
「みっともなくってよ、フィーリア孃。」
髪を乱しながら走るフィーリアに叱咤の声があがった。
横の廊下から、現れた女性にフィーリアは挨拶をしようと止まろうとした。
「止まらなくても宜しくてよ、急いでいるのだから。」
「王妃様…… 」
王妃は貫禄ある専属の侍女を連れて、滑るように現れた。
不思議なことに、護衛騎士は走っているのに王妃と貫禄ある侍女三人は滑るように同じ速さでフィーリアの傍までやって来た。
髪もましてや、ドレスも乱れてはいない。
「フィーリア孃。いつ何時、わたくし達は何処からか見られるかわからないのですわ。」
王妃はきつく苦言を申す。
「わたくし達はいつ何時も、淑女でなくてはなりません。」
同じ速さで走る王妃は、ちらりとフィーリアを見る。乱れている髪やドレスを。
「わたくし達は優雅で、かつ華麗でなくてはなりません。」
滑るように横に並ぶ王妃は乱れているものはなにもない。
アップした髪は、優雅に揺れ、華麗なドレスは滑るように廊下を流れていた。それは貫禄ある王妃つきの侍女達も同じであった。
「わたくし達は水面に浮かぶ水鳥のようでなければなりません。例へ水の中ではあく促足をバタつかせていてもそれを人に見せてはならないのです。」
そう、王妃達はドレスのスカートに当たらないようその中であく促細かく足を動かし走っていたのだ。
「申し訳ございません、王妃様。」
「フィーリア孃も直ぐに出来るようになるわ。カーテシーの時のように、上半身を動かさず下半身だけを動かせばいいのだから。」
簡単に言ってのける王妃。
だがその後ろの貫禄ある侍女達も同じように動いているのだ。
「それに、わたくしの事はお母様と呼んでもいいのよ。」
「そんな…… 私は。」
目を反らすフィーリアに、王妃は強く言い放つ。
「自信をお持ちなさい、あなたはサイオンに選ばれたのだから。」
「……私は、ダンサン殿下に選ばれただけで、サイオン様には…… 」
「まあ、おほほほほほっ!! 」
王妃はフィーリアの言葉に高笑いをした、走りながら。
「ダンサンは阿呆の子ですが、サイオンが大好きですのよ。」
「そんな…… 阿呆の子だなんて。」
「サイオンの大好きな人を嗅ぎ分けて、ダイサンはあなたを『ねぇ上』と呼んだのよ。」
「えっ。」
フィーリアは王妃の言葉に驚きを隠せなかった。
「サイオン様が、私を…… 」
「そうよ、自信をお持ちなさい。」
王妃は優しく微笑んだ。
その顔は、フィーリアの大好きなサイオンに似ていた。
「でも、サイオンも駄目ね。女性には言葉で伝えないといけないと教えなくては。」
そう言うと、王妃はフィーリアより早くその場を離れて行った。
同じように滑るように進む貫禄ある侍女を連れ、その横に大股で走る護衛騎士がいた。
「いつかは私もお義母様のように…… 」
フィーリア達も、急いで舞踏会会場へと走るのであった。
侍女が先を走る令嬢に声をかける。柔らかな白銀髪を靡かせ、紫色の瞳を後を追ってくる侍女に令嬢は顔を向ける。
「御髪が、御髪が、乱れてしまいます!! 」
「ドレスが、ドレスが、めちゃくちゃに!! 」
「汗をかけば、化粧が崩れてしまいます!! 」
フィーリアの後を追う、侍女達は必死に走る彼女に自重を促す。
「でも、サイオン様が待っておられますわ。急がなくては。」
「それでもです!! 」
「もう少し、速さを押さえて下さいませ!! 」
「乱れた姿をサイオン様に見られたいのですか!? 」
気持ちが急くフィーリアを、抑えるように乙女心に訴える。乙女心に訴えられたフィーリアは、少し足を遅めた。
「でも、サイオン様が…… 」
まさかフィーリアはサイオン殿下の婚約者に選ばれるとは思っていなかった、他国の侯爵令嬢である自分が。たまたま留学生としてこの国に来て、サイオン殿下と少し話が合っただけ。
大勢る令嬢の一人にすぎないし、数人の婚約者候補にたまたま選ばれただけに過ぎないとフィーリアは思っていた。
(サイオン様はとても素敵な方。)
自分より美しい令嬢も地位の高い令嬢もいる中、自分が選ばれるとは夢にも思わなかった。
(一番の後押しは、ダンサン様が何故か私を『ねぇ上』と呼ばれるのよね。きっと、王家に関係ない令嬢を『ねぇ上』と呼ばれるのは困るから私が選ばれたのね。それだけでは無く、私の国との繋がりにも丁度良いと思われたに違いないわ。)
決して自分はサイオン殿下に好かれているのではなく。
(これはあくまで、政略結婚よ。淡い期待なんかしちゃ駄目。私の片思いなんだから。)
フィーリアは悲しそうに顔を伏せた。
(でもせめて、サイオン様の足手まといにはなりたくない。)
そう思うと、フィーリアの足はまた急いて動くのであった。
「「「フィーリア、お待ち下さい!! 」」」
侍女達との距離が離れていく。
護衛騎士二人を横につけ、フィーリアは走る。
「みっともなくってよ、フィーリア孃。」
髪を乱しながら走るフィーリアに叱咤の声があがった。
横の廊下から、現れた女性にフィーリアは挨拶をしようと止まろうとした。
「止まらなくても宜しくてよ、急いでいるのだから。」
「王妃様…… 」
王妃は貫禄ある専属の侍女を連れて、滑るように現れた。
不思議なことに、護衛騎士は走っているのに王妃と貫禄ある侍女三人は滑るように同じ速さでフィーリアの傍までやって来た。
髪もましてや、ドレスも乱れてはいない。
「フィーリア孃。いつ何時、わたくし達は何処からか見られるかわからないのですわ。」
王妃はきつく苦言を申す。
「わたくし達はいつ何時も、淑女でなくてはなりません。」
同じ速さで走る王妃は、ちらりとフィーリアを見る。乱れている髪やドレスを。
「わたくし達は優雅で、かつ華麗でなくてはなりません。」
滑るように横に並ぶ王妃は乱れているものはなにもない。
アップした髪は、優雅に揺れ、華麗なドレスは滑るように廊下を流れていた。それは貫禄ある王妃つきの侍女達も同じであった。
「わたくし達は水面に浮かぶ水鳥のようでなければなりません。例へ水の中ではあく促足をバタつかせていてもそれを人に見せてはならないのです。」
そう、王妃達はドレスのスカートに当たらないようその中であく促細かく足を動かし走っていたのだ。
「申し訳ございません、王妃様。」
「フィーリア孃も直ぐに出来るようになるわ。カーテシーの時のように、上半身を動かさず下半身だけを動かせばいいのだから。」
簡単に言ってのける王妃。
だがその後ろの貫禄ある侍女達も同じように動いているのだ。
「それに、わたくしの事はお母様と呼んでもいいのよ。」
「そんな…… 私は。」
目を反らすフィーリアに、王妃は強く言い放つ。
「自信をお持ちなさい、あなたはサイオンに選ばれたのだから。」
「……私は、ダンサン殿下に選ばれただけで、サイオン様には…… 」
「まあ、おほほほほほっ!! 」
王妃はフィーリアの言葉に高笑いをした、走りながら。
「ダンサンは阿呆の子ですが、サイオンが大好きですのよ。」
「そんな…… 阿呆の子だなんて。」
「サイオンの大好きな人を嗅ぎ分けて、ダイサンはあなたを『ねぇ上』と呼んだのよ。」
「えっ。」
フィーリアは王妃の言葉に驚きを隠せなかった。
「サイオン様が、私を…… 」
「そうよ、自信をお持ちなさい。」
王妃は優しく微笑んだ。
その顔は、フィーリアの大好きなサイオンに似ていた。
「でも、サイオンも駄目ね。女性には言葉で伝えないといけないと教えなくては。」
そう言うと、王妃はフィーリアより早くその場を離れて行った。
同じように滑るように進む貫禄ある侍女を連れ、その横に大股で走る護衛騎士がいた。
「いつかは私もお義母様のように…… 」
フィーリア達も、急いで舞踏会会場へと走るのであった。
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