悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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第一生徒会室。

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重苦しい空気だった。
帰路に着く馬車の中で、令嬢達の沈黙が続く。何時ものカフェにはよらず、呆けたセルビアを馬車に詰め込んで帰路に着く。
「天使が、天使が。私の天使が、飛んで行ってしまった。」
座席に座り、馬車の窓から外を見るセルビア。雪が、天使の羽根の忘れ物の様に見えた。
「呆けている場合では、なくってよ セルビア。」
「あの娘、殆どの殿方に声を掛けているそうですわ。」
「セルビィ君を、あの娘の毒牙から救うのよ。」
「「「しっかりして、セルビア!! 」」」
呆けているセルビアに、令嬢達は縋り付いた。
「セルビィを、救う。」
セルビアは顔を上げた。
「そうよ、セルビィ君を救うのよ。」
「このままでは、セルビィ様があの娘の毒牙に。」
「呆けている場合では、なくってよ セルビア。」
「そうよ、そうよね。」
セルビアは、立ち上がった。
「あんな娘に、セルビィを渡さないわ。渡して、なるものですか。」
「「「それでこそ、セルビアよ。」」」
令嬢達は、馬車の中で いきり立つのであった。



セルビィは、幸せそうな顔をしていた。心 此処に有らずの様に、微笑んでいる。
「何か、有ったのか? セルビィ。」
余りの幸せそうなセルビィに、アランは声を掛けた。
セルビィは、驚いた様にアランを見る。
「ああ、済みません。王太子殿下。」
「心、此処に有らずですね セルビィ。」
エリックが、眼鏡を掛け直した。
「済みません、エリック様。」
「何か、心配事。いや、良い事でも有りましたか? 」
シモンが、本を閉じて聴いてくる。
「ええ、其れが。」
セルビィは、頰を染めて俯いた。その姿に、レイモンドは
「何だ? 俺達にも、言えないことか。」
セルビィの肩に手を掛けて、引き寄せた。
「いえ、あの その。」
セルビィは、恥じらった。
その姿は、愛らしかった。
「実は、素晴らしい女性に会いました。」
手を合わせて、夢みる少女様に目を閉じる。
「そうか、セルビィも恋を知ったか? 」
アランは、嬉しそうに頷いた。アランは、セルビアに会う時 必ずセルビィがいて邪魔をされている様な気がしていた。この一年近くして、そんな気がして来ていた。其れは他の公爵子息達も同じ思いだった。
「ただ、素敵な女性だと。」
セルビィは、恥じらった。
「それは恋です。」
「そうですね、運命の相手でしょう。」
「ハハハ、カンバレ。」
レイモンドは、セルビィの背を叩いた。
セルビィとその女性を、引っ付け邪魔者を無くそうとアラン達は考えた。
「王太子殿下、彼女に会って貰えませんか? 」
縋る様に上目遣いで、アラン達を見る。
アラン達も、セルビィの思い人に興味を持った。
「いいだろう。どんな令嬢だ。」
セルビィは、満面に笑みで応えた。
「リリアナ様の様に、小さく可愛らしく。」
「何、リリアナの様に可愛いのか。」
「はい。」
セルビィは、レイモンドに向かって微笑んだ。
「アイリーン様の様に、優しく寛容で。」
「アイリーンの様に、優しく寛容なのですね。」
「はい。」
セルビィは、エリックに向かって手を合わせた。
「テレジア様の様に、積極的で慈愛に満ちていて。」
「テレジアの様に、慈愛に満ちて積極的なのですか。」
「はい。」
セルビィは、シモンに向かって頷いた。そして、アランに目を合わせた。
「セルビア姉様の様に、向上心が高く 素晴らしい女性です。」
「セルビアの様に、素晴らしい女性。」
セルビィは、妖しく微笑んだ。
「でも、男爵令嬢なのです。殿下が、逢われるには地位が違いすぎて。」
下から覗うように、アランを見上げる。
「そんな事は、気にするな セルビィ。」
セルビィは、嬉しそうに微笑んだ。
「此処に、お連れしていいのですか? 」
「ああ、我が弟になるセルビィの思い人とやらに会ってみたい。」
セルビィは、少し口籠もった。アランは、気になった。
「どうした? 」
「あの、フローネ様は。あの、フローネ男爵令嬢は素敵な女性なのですが。」
目を反らしながら、応える。
「彼女は、その大人しく。怖がりの様で、殿下達にご迷惑を掛けてしまうかも。」
俯いて、呟く。
「大丈夫だ。少しの不敬なら、大目に見よう。」
アランは、公爵子息に目を向けた。令息達も、頷いた。
「アラン王太子殿下は、寛大なお心で許して下さるのですか? 」
「ああ、身分の低い者の些細な不敬など 腹を立ててたらこの国が成り立たない。」
「アラン殿下の、言う通りです。」
「安心しなさい。」
「俺達は、寛大だ。」
アラン達は、微笑んだ。

「分かりました、直ぐに連れて来ます。ありがとうございます、アラン殿下。」
セルビィは、直ぐにフローネの元に向かうのであった。

セルビィには、フローネが何処に居るのか分かっていた。向上心が高く、積極的な彼女ならきっと自分が現れる 馬車の停留所場所付近に居るに違いない。

「セルビィさまぁ~。」
「フローネ様。」
案の定、フローネは馬車の停留所近くにいた。
「こんな処で、出会えるなんて 運命ですね。」
上目遣いでセルビィを見る。ススッ、と体を寄せてくる。
セルビィは、微笑んだ。
「フローネ男爵令嬢。」
「はい。」
「実は、僕の知り合いに紹介したいのですが。今から、いいでしょうか? 」
「お知り合い? 」
フローネは、可愛らしく首を傾げる。
「ええ、公爵子息達とアラン王太子殿下です。」
セルビィは、満面の笑みをフローネに向かって微笑んだ。

フローネ男爵令嬢の目が、見開かれ。口元が、歓喜に歪んだ。
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